悪鬼纏身の怪人殺し   作:怪盗偽温羅

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悪鬼を斬る!①

 

ピピピ……ピピピ……というアラーム音が耳に入り、俺は枕もとのスマホへと手を伸ばす。

 

液晶画面には朝の六時にセットされたアラームアプリと、お気に入りの絵師さんの新作の通知が映し出されていた。

 

「……いいね、朝から良いものが見れそうだ」

 

 今だに耳に響いてくるアラーム音を止めると、そのまま通知をタッチして新作のページへと移動をする。

 

これは、俺にとっては一日の活力を左右する日課だ。人によっては寝ぼけた頭ではなく、意識がはっきりしているときに見たいほうが良いと言うかもしれないが、この早く見たいという気持ちの方が勝る。

 

 ひとしきり新作を楽しんだところで、身支度をするべく布団を剥いでベットから立ち上がる。

 

……しかし、清楚系シスターとは、王道といえば王道のジャンルだがやはり良いものだ。心を癒してくれる上に、垣間見せるエロさは決して嫌いではない!

 

俺とて前世を含めるといい年だが、肉体は健全な男子高校生。流石に遊馬には太刀打ちすることはできないが、やつとよく猥談じみたことを話す程度には俺もエロは好きなのだ。

 

 黒の修道服に隠された巨乳も、控えめな体型であっても、それぞれの良さを感じられるが、その魅力を語り始めると登校時間に間に合いそうにないので、友人達との雑談までお預けだな。

 

すっかり眠気が覚め、今度遊馬にシスター物のおススメを教えてもらおうと思いながら、パジャマからジャージへと着替えると、ペットボトルの飲料水で喉を潤して玄関の方へと向かう。

 

 運動靴に履き替え、家の玄関の前で体を解していく。前は女子たちの協力もあり、遊馬を捕らえることができたが次もうまくいくとは限らない。

 

あいつを相手にしていくためには、少しでも体力をつけていかないとそのうち対抗することも出来なくなる気がするのだ。

 

「エロ関係の時だけ強くなるとは、遊馬らしいといえばらしいが、いったいどうなっているんだかな」

 

 準備を終えた俺は、登校することができるギリギリの時間まで走り込みを続ける。しかし、これだけやっても遊馬の身体能力に及ばないとは、どこか釈然としない気持ちを味わいながら足を動かし続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 普段通り学校へと通学して授業を受け、友人たちと雑談をしたり、特に特筆することもない平穏な日常を過ごした俺は、あまりで歩いたことのない道を目的もなくブラブラとする。

 

放課後の時間をこうして好きなことをして過ごせる高校生の特権を有難く感じながら、入ったことのない雑貨店などをはしごしたりしていた。

 

ふと店内を物色していたときに見かけた、土産物屋で良くある金ぴかで装飾のついた剣のキーホルダーを懐かしくなって購入をした。

 

小学校の修学旅行とかでみんなでこれを買ってチャンバラごっことかをしたものだが、土産なのにあちこちで見かけることに少し不思議に思いながらも店内を出る。

 

 そうして珍しい小物などを見つけて満足をしたころには、すでに日も落ちかけて辺りも暗くなり始めていたことに気が付いた。

 

 人通りが多いところを避けて、道の端の方に体を寄せると懐のスマホを取り出す。そのままでも歩いて帰れるだろうが、念のためのマップアプリを起動させて帰り道を検索する。

 

 検索結果が表示されると来た道をなぞって帰るのではなく、住宅街を突っ切って帰るほうがいくらか距離が短く済むことが分かった。

 

見知らぬ住宅街を通ることに少しだけ悩んだが、結局早く帰ることを優先した俺は案内に従って足を進めた。

 

 明るい繁華街を抜けて、街灯と家の明かりだけが道を照らされている薄暗い道を歩いていると、漂ってくる夕飯のいい匂いに懐かしい気持ちを感じていると、鉄臭い異臭が紛れていることに気がつく。

 

「……何の匂いだこれ?」

 

 前に足を進めると強くなっていく、住宅街では嗅いだことのない匂いを不思議に思いながら歩いていると、少し離れたところからガシャン!という何かが割れたような大きな音が耳に入る。

 

それらに尋常ではない事態が起きているのではという嫌な予感を感じた俺は、その音の発生源に向けて駆け出した。

 

「多分ここ……だよな」

 

 俺が少し走った先にたどり着いたのは何の変哲もない二階建ての一軒家だった。一見すると中の明かりが窓から漏れている以外は異常がないように見えるが、少し回って見ると家の側面の大きなガラスは無残にも割られてしまっていた。

 

「まさか強盗にでも入られたのか!?」

 

 何かしらが起こっていることに気が付いた俺は、警察への通報と救急車を呼ぶためにスマホを片手に急いで玄関の扉を開ける。

状況を把握するべく突入したが、万が一何もなければただの不法侵入者になってしまうと一抹の不安を覚えたが、漂ってくる鉄臭い匂いもあってそんなことを考えている余裕はなくなった。

 

一刻も早く何が起こっているのかの確認と、怪我人の応急処置をするべく部屋の中へと駆け込んだ。

 

「……くそったれめが」

 

 俺の目の前に広がるのはテーブルの上に広がった四人分の夕食と、部屋中に散りばめられた臓器、そして父親、母親、兄妹の四人家族の無残に殺された遺体であった。

 

もはや応急処置をする必要がないことに一目でわかり、足の力が抜けてしまいそうになる。

 

 もしかしたらこの凶行を起こした犯人がまだ立ち去っていない可能性を考えたが、静寂と室内を見渡すとガラスは内側から外の方に割られていること、そして血の付いた大きな足跡が道路に確認できたことから、ひとまずはすここにはいないとあたりをつける。

 

 吐きそうになりながらも、四人の遺体を確認すると同じ人間に殺されたとは思えないほど、強力な力で殴打されたり、引き裂かれたような損傷を受けていた。混乱しそうな頭を無理やり落ち着けながら、俺はさらに最悪なことに気がついてしまう。

 

「まさか、この家だけじゃないって言うのかよ!」

 

 割られたガラスの方からは、この近辺の住宅から聞こえてくる破壊音と複数人の悲鳴が耳に入ってくる。

 

普通の強盗等であれば、一回の犯行を済ませた後は目立たないように立ち去るのが定石だというのに、この犯人はそんなことはお構いなしに目についた家に立ち入っては凶行を繰り返しているようだ。

 

「……怪人のしわざだっていうのか」

 

 俺も噂くらいでしかでしか聞いたことがないが、怪人化した人間は人外の力と強い殺人症状で人間を殺して回るらしい。

 

この僅かな時間で見聞きした情報しかないが、最悪を想定して動かなければ恐らくあっさりと命を落としてしまうことは間違いないだろう。

 

 こんな直接的な命の危機に遭遇したことがない俺の体は、情けなくも涙が浮かび、足の震えを抑えることができなかった。とにかく、今しなければいけないことは怪人がいるであろう方向とは違う方に逃げ出して、警察などの然るべき機関に通報をすることだろう。

 

「……急げ、急げ、早くしろよ俺。とにかくまずは通報だ。本当に死んでしまうぞ」

 

頭が真っ白になりながらも、自分の位置情報と殺害された家族のことを小声ながらも叫ぶように告げると、怪人が近くにいる状態で声を出すことに耐えられず、急いで通話を終了した。

 

 自分の思い込みであると分かっているが、逃げ出そうとしている俺を亡くなってしまった四人家族の視線が責めてくるように感じながらも、恐怖ですくんで中々動こうとしない体をなんとか動かそうとする。

 

「仕方ない、仕方ないだろ。何かできるわけでもないだろ」

 

 そうだ、怪人事件だっていつも報道されることはあってもいつの間にか解決しているじゃないか。

 

今日は運が悪かったけど生き残りさえすればいつも通り、誰かが怪人を何とかしてくれるはずだろ?だから逃げ出すのは何も悪いことではないはずじゃないか。

 

第一、不用意に俺が行ったところで二次災害が発生して犠牲者が増えるだけかもしれない。むしろ状況が悪化してしまうかもしれない。

 

それを考えたら、通報だけでもしたんだから自分にできる最善の行動は果たしたんだから何も問題はないではないのか?

 

そう考えて逃げ出す覚悟を決めて走り出そうとすると、俺の目にあの剣、半透明状態の[帝具]悪鬼纏身インクルシオが映る。

 

(……勘弁してくれよ。これじゃ逃げるに逃げれないじゃないか)

 

こんな時、俺が憧れたヒーロー達ならばいったいどうするだろうか。近くから聞こえてくる助けを求める声を無視して無様に逃げ出すだろうか?

 

上手く逃げることができて、助けられたかもしれない命があったことを忘れて普段通りの日常を送っていけるのだろうか?

 

「……なにもしないで逃げるのは違うよな」

 

そうだ、どうせ人よりは一回多く生きてるんだ。そんな俺が自分より幼いかもしれない命を見捨てて、助かるなんてカッコ悪いことをしてたまるか。

 

「無駄死にだけはしてたまるかよ」

 

足はガクガクで目尻には涙が浮かぶ、今にも逃げ出してしまいそうな心をなんとか踏みとどめながら、俺は悲鳴と破壊音の発生源に向けて駆け出していった。


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