ユウシャヨシヒコ と 芝の英雄たち   作:シンガポールの口からドバァしてるアレ

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衝動的にかいた、後悔などない。


ユウシャヨシヒコ と 芝の英雄たち

「ヨシヒコ、ここで良い知らせだ」

 

 トレセン学園併設のレース場。その地下の待機室で1人のウマ娘と2人のトレーナーがいた。

 ウマ娘の名は『ヨシヒコ』、使命感が強く良くも悪くも真っ直ぐな性格をしたウマ娘である。

 青いターバンとマントを身にまとった姿は某国民的RPGの勇者の初期装備を連想させる。傍らにはどう考えてもレースでは使用することの無い剣が立てかけられていた。

 一方、トレーナーの1人はメレブ、金髪マッシュでへんなホクロが鼻の下に着いている。服装は何枚も布を重ねたインチキ占い師のような格好をしている。ちなみに先程の「良い知らせ」発言はメレブのものである。

 

 「いい知らせとはなんですかメレブさん。教えてください」

 

 「やめとけヨシヒコ、どうせろくな話じゃないから。こんなへっぽこの話聞いても絶不調にされるのがオチだぞ」

 

 もう1人の女性トレーナー、ムラサキが言う。

 

 「黙れ、胸平(むねたいら)、スイーツ」テレレレン

 

 メレブが杖を振ると某冒険RPGの魔法エフェクト音がどこからともなく鳴った。

 メレブはどうしてか生まれつき呪文が使える魔法使いトレーナーである。(本人曰く、スキルではなく呪文らしい)

 しかし、覚える呪文がどれも死ぬほど役にたたないものばかりな上やる気を下げるのだ。もはやデバフである。

 そのため、周りからはへっぽこ魔法使いの異名で恐れられていた。

 余談だが、今ムラサキにかけた「スイーツ」という魔法は、かかると無性に甘いものが食べたくなるというものだ。以前ヨシヒコを激太りさせた恐るべき呪文である。

 

 「ここに今、まんじゅうがございます。ヨシヒコやろう」スッ

 

 「ありがとうございます。」ムシャムシャ

 

 「おい、てめぇまじでぶん殴るぞ」

 

 ムラサキは舌打ちをすると湧き上がる、甘物への執念を誤魔化そうと、そばにあったジュースを一息に煽る。

 

 「それはモグそうとムグメレブさん、良い知らせムシャムシャとは?」

 

 「食べてから話しなさいヨシヒコ」

 

 「ムシャムシャゴクン、それで、良い知らせとは?」

 

 「聞きたいか?ヨシヒコ、ん?今、ここで、出走間近の今、どうしてもと言うなら教えてやらんこともない」

 

 「どうしても教えて欲しいです!教えてくださいメレブさん!!」

 

 興奮したヨシヒコが立ち上がる。「ガタン!」と椅子が音を立てて倒れる。

 肩をわなわなと振るわせながらヨシヒコはメレブに息巻いてそう言った。

 

 「ふふ、よかろう、そこまで言うなら教えてやる、わたしはこの、レース出走間近の、間近の!さっき、ほんとこの部屋に入るちょっと前に新たな呪文を覚えたよ」

 

 「新たな!!どんな呪文ですか!?メレブさん、かけてください!私にその呪文を!」

 

 ブンブンと音を立て、しっぽを左右に振り乱すヨシヒコ。

 ヨシヒコはメレブに詰め寄った。彼女(ヨシヒコ)はなぜかメレブの呪文を嬉々として受けたがるのだ。そして彼女の性格がまたメレブを調子にのせるのだ。

 

 「よかろう」テレレレン

 

 「、、、、?」

 

 ヨシヒコが身体中を触り変化を確かめる。しかし、以前のように顎がしゃくれるわけでも、から屁が出るわけでも、急にゲラになる訳でもない。が、ヨシヒコは頭に手をやった時おそるべき変化に目を丸くした。

 

 「こ、これは!」

 

 「そう、この呪文をかけることによって前髪が崩れにくくなる」

 

 「おぉ、で、これは一体レースでどのように役立つのですか?」

 

 「役に立つわけねーだろ」

 

 ムラサキが言う。

 

 「これは、あのー、あれー、えっと、レース中にあれ、なんか、前髪めっちゃ崩れてないー?あれ、ちょっと気になる〜っ。て失速することを防ぐ!」

 

 「最強だ!」

 

 「しかもぉヨシヒコはァ頭のその、青い飾りが飛んでいかない安心感もあってさらにあのー、、、」

 

 「、、、」

 

 「、、、安定感アップ!!」

 

 「無敵だ!すごいですメレブさんもっとかけてください!」

 

 「よかろう!」テレレレン テレレレン テレレレン

 

 「その呪文重ねがけしても意味ねーだろ」

 

 「ぉぉぉぉぉぉ!!す、すごい!私は、無敵だーーー!!!」

 

 ヨシヒコは喜色満面で待機室を飛び出して行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 「栄枯衰退、かつての繁華復活には君の力が必要なんだ。」

 

 そのウマ娘の瞳には強い意志が宿っていた。しかし相手の方はどうにも困った様子で目を逸らす。教室の中、二人のウマ娘がひとつの机を挟み対峙していた。

 

 「いやー、わざわざトレセン学園の生徒会長さんにまでお越しいただいて申し訳ないんですけど、わたしもう進路決まってて」

 「そこをなんとか!君ならきっと三冠、いや無敗のウマ娘になれる!」

 「いや、ほんとレースとか争うの苦手っていうか、ほんと、ごめんなさい」

 

 そう言うとそのウマ娘は席を立ち逃げるようにに去っていった。

 一人教室に残された会長は「はぁ」と本日何度目かのため息をついた。

 

 

 『ウマ娘』彼女達はかつて英華が築き、多くの民衆を魅了した。

しかしその勢いは黄金時代である21世紀初頭を境に衰退の一途を辿った。大歓声に湧いたレース場も今や見る影もなく広大な観客席には暇を持て余した人影が疎らに見えるのみである。

 国内に溢れてかえっていたレース場とウマ娘養成学校は年々数を減らし。遂にはいくつかの有名レース場とウマ娘の養成学校最高峰と謳われたトレーニングセンター学園、通称トレセン学園のみとなった。

 

 彼女はトレセン学園の現生徒会長であり、先祖に伝説のウマ娘『シンボリルドルフ』を血縁にもつ由緒正しきウマ娘だった。

 今日は年々減り続ける生徒数を何とかするためにこうしてウマ娘のスカウトに来ていた。

 しかし、喜ばしい反応を見せる娘は1人としていなかった。

 

 「レースで稼ぐのはちょっと収入の安定性が、、、」

 「トレセンってウマ娘養成学校のトップでしたよね、めちゃくちゃハードって聞きました。わたしそういう体育会系はちょっと、、」

 「家から遠いし、、、、あっ寮生活は絶対無理なんで」

 

 もうかつてのようにスターを目指すようなウマ娘はいない。皆安定を求め普通の人と同じように働き暮らすことを望む。

 彼女達の言い分はもっともだ。こんな死にかけの冷めきった業界に自ら飛び込むとなると将来の安定は保証できない。

 

 

 (衰退の一途を止めることはできないのか)

 

 とぼとぼと歩を進めていると気づけば三女神の像のある広場まで来ていた。

 

 「あぁ、三女神様もし見ておられるのでしたらこの危機を乗り越えるための知恵をお与えください」

 

 彼女が両手を重ね祈っていると後方から耳を劈く轟音が鳴り響いた。衝撃が地面を伝わり風の塊が会長の背中を叩く。校舎の向こう側には先程の爆発による土煙が上がっていた。どうやらターフの辺りのようだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 落雷の数分前

 

 「す、すごい!全然前髪が気にならない!!無敵だ!凄いですメレブさん!」

 

 ヨシヒコは芝の上を爆走していた。性格はアレだがヨシヒコの実力は圧倒的であった。

 全てのレースを大逃げで制し、一部の隙も見せないその爆進走法により周りから選ばれし勇者やバカユウシャと呼ばれている。

 

 そうしてヨシヒコが爆進大逃げをキメていると目の前が光った。次の瞬間ヨシヒコは眩い閃光に飲み込まれた。

 

 「な、なんだ?ぐぁぁ...」

 

ーーーーーーー

 「はっ!ここは」

 

 ヨシヒコがゆっくりと目を開くとそこはゲートの中であった。

 

 「な、なんだこれは!」

 

 そこは、先程までヨシヒコのいたトレセン併設のレース場であったが、明らかに違う点があった。

 

 観客席だ。

 すっからかんだった観客席には人がひしめき、声援やどよめきが大きなうねりとなって空気を震わせている。

 

 当然ヨシヒコは困惑した、しかしヨシヒコはさらに困惑することになった。

 なぜならば、横のゲートにはなんと、若かりし頃に本でしか見たことのないウマ娘『名優マックイーン』がいたのだ。

 ヨシヒコは驚きのあまり目を見開き言葉が出なかった。どこからかビシャーンと雷の音が聞こえてきそうな驚き顔だ。ウマ娘がするにはあまりにもバ鹿面であった。

 

 ヨシヒコが興奮してゲートから身を乗り出し、当たりを見回そうとした次の瞬間、ガシャンと音が鳴りゲートが開いた。

 

 (しまった!出遅れた!)

 

 ヨシヒコは遅れて走り出した。正直走る必要は無いのだが、ヨシヒコは非常に環境に流されやすいウマ娘であった。

 本来の目的を忘れ、気がつけば別のことに熱中することもしょっちゅうである。

 ウイニングライブの振り付け練習に熱中するあまり、芸能界のアイドルグループに所属し、リーダーを務めるまでになったことさえあった。

 そのときはムラサキがヨシヒコを連れ戻しに行ったが、ヨシヒコはムラサキに対し

 

 『もうレースなんてどうでもいいんです。私にはこのステージしかない、仲間とプロデューサーに約束したんです。トップアイドルになると。』

 

 と言い放ちムラサキを追い返した。

 ともかくヨシヒコは流されやすい犬のようなウマ娘であった。そのためここがどこなのか、なぜゲートに入っており、自分はなぜ走らせられているのか、そんなことはヨシヒコの頭には無かった。

 どうでもよかった。走り出したヨシヒコの頭には『ともかく走って勝つ』それしか無かった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 メジロマックイーンはデビュー前にして多くのトレーナーから声をかけられていた「ぜひ、君と夢を目指したい」と、それほどまでに彼女は優秀であった。

 

 そのため今日のデビュー戦、自分が負けることなど1ミリも予想していなかった。

 油断をしていた訳では無い。事実これまでマックイーンと肩を並べるような同期の実力者は同じメジロ家か天才と呼ばれるトウカイテイオーぐらいだった。

 しかし、自身の前を走るウマ娘はそれ以上に圧倒的だった。

 

 (いったいこれほどの実力者がなぜ今まで、、、!)

 

 ゴール前の直線、ぐんぐんと青いマント姿が近づいてくる。

 

 「すごい!前髪が全然気にならない!!」

 

 後ろを走るウマ娘は意味不明なことを叫びながら走っていた。服装もターバンにマントとどう考えても走りやすいと言えるような服装ではなく、先程からバサバサとうるさい。

 だと言うのにスピードは落ちるどころか加速している。

 

 (なんなんですのこの末脚は!? くっ!このままでは!!)

 

 そのまま青いマントはゴール板を通過し少し進んだところで止まった。

 興奮冷めやらぬといった様子で肩を大きく上下に揺らしている。

 次いで大差で後続が続く。

 

 マックイーンがすぐさま電光掲示板を確認すると、【ハナ】という文字が記されていた。

 マックイーンの勝利である。

 

 「あなたほどの方がいたなんて。わたくしメジロマックイーンと申します。あなたのお名前はなんとおっしゃるのですか」

 

ーーーーーーーーーーー

 

 ヨシヒコは理解した。ターフを駆け抜け、地鳴りのような歓声に包まれた時、理解した。ここは自分のいた世界とは違う、と。あの廃れきった景色ではない、かつて自身の先駆者達がシノギを削り闘った芝の上なのだと。

 

 ーーーーなんの因果か自分は過去へとタイムスリップしたのだと。

 

 『ヨシヒコよ、お前ならもう一度ウマ娘達に希望を与えられる、世界の人々に勇気を与えられるような、そんなレースが出来る。勇者のようなウマ娘に、お前はなるんだ』

 

 メレブやムラサキと初めてあった日の記憶がゆっくりと流れる。

 

 『ふふ、わたしはそのための魔法使いってところだな』

 

 『きめぇこと言ってんじゃねぇぞホクロ』

 

 『黙れ胸平』

 

 『なんだとてめぇー!』

 

 不思議な感覚だった。

 記憶の欠片がゆっくりと流れ、割れ、融けていく。

 共に駆けた親友の名も、共に夢をめざしたトレーナー達の声も少しずつ崩れていく。

 

 不思議な感覚だった。悲しいはずなのに、心の奥底から湧き上がる熱い想いがあった。

 

 勇者は『覚悟』を刻む。未来を変えるため。

 

 「聞こえてらっしゃる?あなたのお名前を教えてくださいと」

 

 その『決意』を自身の存在に、名に、刻む。その役職を、、、!!

 

 「『ユウシャ』、、、私の名は『ユウシャヨシヒコ』だ」

 

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