ハゲジジイへの制裁が終わった後、オレ達は仮拠点へと帰路についていた。
「にしてもあのおっさん、色々やらかしていたな」
「例の使い捨ての部隊だけじゃなく、資金の横流し、着服、金額の水増し、負けた時の保険……見事なまでのブラック上司だったな」
「ま、あれだけ制裁してやった上に証拠もバッチリと押さえたからな。あのおっさんはもう自分たちに対して何もしてこないだろうよ」
最悪辞めるかもしれないが全く問題ない。ティリスにもハゲジジイに制裁することはちゃんと伝えていたし、裏で色々と動いていたようだからな。
オレ達が騎士団を辞めることになったあの日、参謀はスノウに近衛隊復帰を餌にオレ達のスパイ容疑をでっち上げようとしていたのだ。
スノウは会う為の口実としてその時の報償金を渡されたが、参謀経由の復帰は諦めていたそうだ。
そのタイミングで六号の言葉を聞いてしまったから余計に流せなくなり、何も聞かないでオレ達を追い出したそうだ。
それを勘違いしてスノウを近衛隊に復帰できるように手回ししたそうだが……ロゼとグリムも一緒だったから、スノウへの嫌がらせと再び蹴落とすつもりだったのだろう。
「辞職するまで追い詰めると言った時はティリスはめっちゃ渋い顔したけどな……あんなハゲジジイ残して何の得があるのやら」
「王女さん曰く、あのおっさんは外交ではそこそこ有能だったみたいだな。その外交を賄賂や横流しで成功させていただけみたいだがな」
「悪性レベルの腫瘍だな」
下手に成果が出てる分、排除が出来なかったと。
ま、この肝心な時に仕事するどころか自分の身を守る為の準備をしていたからな。今後の為にも今の内に排除しておいた方がいいだろ。うん。
実際、スノウを売って制裁から逃れようとしてたし、ちょっと持ち上げたらロゼの約束も予想通り最初から守る気なかったこともゲロッたしな。捨て駒計画も嬉々として語ろうとしてたし。
「それにしても六号。よく対物ライフルとRバッソーをよく取り寄せられたな。対物ライフルに二百近く使いそうな感じだったのに」
「そりゃあスノウのパンツを下ろしたからな。それなりのポイントが……」
マジか。あれ?そう言えばグリムの寝言に似ている気が……
「……マイナス百八十五ポイント?なんで!?」
過去の出来事を思い出そうとして、六号から驚愕の声が響いてくる。
「当たり前だろ。全然ポイントが足りない状態で武器を申請したんだ。マイナスになって当然だろ」
やっぱり足りてなかったのかー。対物ライフルの時点で足りてなかったようだから予想出来ていたけど。
「しかし、よく通ったな。普通は却下されそうだが」
「非常事態という体で送ってもらった。どっちにしろ、このまま帰ればもれなく六号は制裁部隊の処罰対象だ」
制裁部隊?
「それってなんだ?名称からして罰を与える連中なのは分かるんだが」
「制裁部隊はキサラギの名を貶める恥ずべき行為や善行を積んで手持ちの悪行ポイントを減らし、マイナスに達した奴らをマイナスポイント分折檻する部隊だ。その制裁は人格が変わるほど凄いぞ」
人格が変わるのかー。本当に恐ろしい部隊だな。
「ヤバいヤバいヤバい!!どうしようアリス!俺、日本に帰りたくない!!」
六号は制裁の恐怖からか、涙目でアリスにしがみついて懇願している。絵面だけ見れば情けない光景だ。
「お前、本当に何も分かってなかったんだな。雇われ戦闘員の提案はそれが分かっての提案だと思ったんだが……」
アリスはそんな六号に呆れながらも、この危機を脱する提案を口にしていく。
「いいか六号。お前はこのまま残って、転送機が使えるようになった後も雇われ戦闘員を続けとけ。そして悪行ポイント稼いで、プラスの状態にしてから帰るんだよ」
「それだ!いや、一ヶ月もあるなら悪行ポイントをプラスに持っていくくらい……」
「できんのかチャックマン?手配書があるから下手したら牢獄だぞ」
「そうだったチクショー!!」
オレの指摘に六号は絶望したように四つん這いになる。
「いいか?今回の報告書は自分が書いてやる。お前が帰れない理由なんかも、自分がうまくでっち上げてやるよ。お前が帰れるまで、自分もここに残ってやる」
「アリス様ー!!」
アリスの提案に六号は感極まったようにアリスにしがみつく。対してアリスは子供をあやすように六号の頭をポンポンと叩く。
「もう分かったから、お前は早くポイントを貯めることを考えろ」
「任せろ相棒!手始めに、俺の隊の連中のところに行って、全員剥いてくる!」
六号はそう宣言して城の方へと走っていく。
「本気か?つーか相棒ってなんだ。自分はサポート型アンドロイドの……」
「別にいいんじゃないのか?サポートの域を越えてる気もするし、なんだかんだでお前らいいコンビだし」
実際、二人のやり取りは良くも悪くもコンビや相棒のものと同じだし。
「……そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「……コンビに、相棒かぁ」
そう呟くアリスの表情は、存外にまんざらでもないものだった。
ちなみに六号の剥ぎ取り行為は当たり前のように失敗した。
――――――――――――
―――キサラギ本拠地の会議室にて。
「……何、この報告書?」
「アリスの提案だね」
アリスから送られた最終報告書と計画書を読んだアスタロトは何とも言えない表情で呟き、リリスは上機嫌でその報告書と計画書を見ていた。
「これじゃ悪の組織じゃなくて、クロスブレードマンのような正義の味方じゃない」
「いやいや、悪くない提案だよ。報告書にある同業者を追い出したらその時に改めて星を侵略すればいい。それに……」
リリスはそう言って今回の計画書の中にある一枚の用紙を引き抜く。
「あのクロスブレードマンがこの計画に協力していることが大きい。地球最強であり、我々キサラギの世界征服の最大の障害だった元ヒーローが、手を結んでいるんだからね」
「そうね。最大の障害が消えて一気に征服できると思ったら、予想外に粘られてるし……」
現在、地球のヒーロー達が今までにないくらい、キサラギに対して反攻している。
決して強くなったわけではなく、黒いアレ並みにしぶとくなったのだ。もうゾンビと言ってもいいくらいに。
「そのヒーロー達は給料が十倍になったとか、罰則が百倍になったとか、倒した幹部は『指導』するとか訳の分からないことをほざき始めてるし……」
「他にはコンビニ弁当が支給されるようになったとか、月一で休めるようになったとも言っていたね」
「特にべリアルに挑むヒーローの数が増えてるし……全員返り討ちに合ってるけど」
「確かに……ん?」
リリスは今回の報告書と計画書とも違う、『ヒーローの職場環境』というタイトルの報告書を見つける。
「アスタロト。この報告書は?」
「それはまだ目を通してなかったわね」
アスタロトとリリスは揃ってその報告書の内容を確認していくと、次第に表情が曇っていく。
そして、報告書を読み終えた頃には二人揃ってドン引きしていた。
「ワンコイン給料に休日なし。しかも罰金制度に連帯責任って……どれだけ酷い環境なのよ」
「以前クロスブレードマンが叫んでいた言葉からある程度予想はしてたが……僕の予想を遥かに越えるものだね……初めてヒーロー達に同情したよ。裏切ったら罰金一億に社会的抹殺だから寝返ることはなさそうだけど」
これじゃどっちが悪の組織か分かったものではない。真似しようとは微塵も思わないが。
「もしかして、ヒーローショーに出ているヒーロー達は……」
「「…………」」
この件に関しては気づかなかったことにしよう。口に出さずとも二人の意見は一致していた。
「ところで……」
アスタロトはどこか呆れたように後ろを振り返ると、そこには新人二人とべリアルがいた。
「戦闘員Fの十八号!Fの十九号!呼ばれた理由は分かっているな!!」
「べリアル様。今回は我輩ではなく、勇者の方から仕掛けてきたのです!我輩の悪事をこの男が邪魔をして!!」
「ふざけるな《風》のファウストレス!貴様のは悪事ではなく姑息な小犯罪だ!べリアル様、俺はコイツの暴走を止めようとしただけです!!」
上司であるべリアルの前でそんな風に言い争う新人二人に対し、べリアルはアイアンクローを喰らわせた。
「うるさいぞ!組織内での抗争は禁止だと何度も言っただろ!それにお前らはもう戦闘員Fの十八号・十九号だ!!十八号は勇者だなんだと言っていると、その内六号みたいに取り返しのつかないアレになるぞ!後、そんなに勇者したいならクロスブレードマンのように、単独で巨大兵器を五体同時に倒せるようになってからにしろ!もちろん巨大兵器を使わずにな!!」
「あんなデカイ相手を五体同時にする時点で無理です!!」
「Fの十九号は《風》の~みたいな通り名は幹部になってからだ!そんなに名乗りたければ、クロスブレードマンがキサラギの拠点を一人で潰したように、キサラギが把握しているヒーローの拠点の一つを一人で潰してこい!!」
「無理であります!そもそも、クロスブレードマンとは一体何者でありますか!?」
Fの十九号の質問に、べリアルはフッと笑みを浮かべてから答える。
「クロスブレードマンはこの《業火》のべリアルの永遠のライバルだ。奴はたった一人で我々キサラギの世界征服を妨げてきた最強のヒーローだ。たった一人で百人の怪人を倒し、大勢の戦闘員がいる拠点をこれも一人で壊滅させ、デストロイヤー数機を同時に相手にして勝利してきたのだ。この《業火》のべリアルを何度も打ち負かしてきたしな」
そんなことを笑みを浮かべて語るべリアルに対し、アイアンクローから解放されていた新人二人は表情を青ざめさせて震えていた。
「べリアル様が何度も負けた……?」
「我輩達を一撃で倒した、べリアル様が……?」
ちなみにこの新人二人。べリアルの家の庭先に突然現れて喧嘩しており、それをべリアルが一撃でKOして戦闘員見習いとして連れて来られたのだ。
ちなみにべリアルが強くなった原因は当たり前の如くクロスブレードマンだ。リベンジの為に己を鍛え続けた結果、キサラギの最高戦力へと至ったのである。当然、一度も勝ててないが。
ついでに大概のヒーローは一撃で倒している。それも拳一つで。
「それにしても、クロスブレードマンを知らない人間がいたとはね。クロスブレードマンのヒーローグッズが出回っているから、周知されていると思ってたんだけど」
クロスブレードマンの武器が玩具として出回って完売するくらいには。
「各地でヒーローショーも毎月行われていたけどね……それとリリス?」
「ん?なんだい?」
「そのおかしな剣は何かしら?新しく開発した装備なの?」
アスタロトが指をさして示した刀身が水色のクリアパーツになっているおかしな剣に、リリスは頭を振って否定した。
「これはべリアルが持って帰った戦利品だよ。何でも小物臭がする偽クロスブレードマンから奪ってきたと言ってたよ」
「……偽クロスブレードマン?」
「何でも『今までのデータから完成させたスーツと武器、追加装備によるスペシャル仕様だ!クロスブレードマンを越える、新たな最強の力を思い知るがいい!!』と叫んだそうだよ。一撃でやられたそうだけど」
リリスのその説明にアスタロトは呆れたように溜め息を洩らす。
今までの報告書からクロスブレードマンの戦闘能力は半分……というか八割が素の力であることは理解している。
向こうはどうやらそれらが戦闘服の性能と勘違いしていたようだ。
結果、べリアルにまんまと返り討ちにあったと。
「……本当にあの子は新人二人といい、何でも拾いすぎよ。六号は六号で、向こうに残るとか言い出すし……」
「あっちは戦争のせいで女性の比率が高いらしいからね。しかも、ほとんどが美少女ばかりらしいい」
「確かに、六号とアリス、ついでにクロスブレードマンの報告書には女性の話が多いけど……」
アスタロトはそこまで呟いて、急に何とも言えぬ不安が沸き上がってきた。
「……ねえ、リリス。六号はちゃんと帰ってくるわよね?向こうで結婚して永住するとかないわよね!?」
「僕も早く向こうへ行きたいよ。あの惑星には興味を引くものが多すぎるし。ま、今はこの《クリアライズエネルギーブレード》というおかしな武器を隅々まで調べておくよ」
「お願いだから私の質問に答えてぇ!!」
奪取した武器を解析しに部屋を後にするリリスを、アスタロトは机の上に報告書と計画書を置いてから追いかけていくのであった。
============
『ヒーローの職場環境』
ヒーローとなった者の労働環境。
・労働時間は基本、朝五時から夜中の十二時。夜中の三時になる場合もあり、出動に変化なし。遅刻すれば七万の罰金。
・休日は一切なし。有給はもちろん、無給休暇もない。休めば三十万の罰金。
・給料は周辺被害や遅刻や任務失敗、装備の諸々で引かれることが多々。その為、手取りは最大で二千円。場合によっては百円やゼロにもなる。残業代も当然なし。
・一人でも失敗すれば、連帯責任で全員失敗扱いとなる。その為、常に給料は引かれる。
・支給される装備は初回以降は全て自腹。エネルギーカートリッジは一回の充電に五万。弾丸は一発五千円。剣等の近接装備は最低クラスの武器でも一つ三十万。戦闘服は修理に二百万。
・入院、治療費はすべて自腹。会社側が保険加入の手続きをしない為、自身で契約する必要があり。その場合、保険金の受取人を常に確認すること。いつの間にか会社受取になっているので。
・住まいはカプセルホテル。その部屋は寝転がって寝る程度のスペースしかない。私物は移住の際に全部売られる。
・食事は消費期限が過ぎたカロリー○イトオンリー。パッケージの期限は偽装されている。
・外国への救援での移動手段は弾道ミサイルのような一方通行でしか行けない、搭乗者の安全ガン無視の乗り物のみ。しかも直通。
・薬、エナドリ等も当然自腹。手当ても保証も一切なし。
・辞職は様々な理由をつけて先伸ばしにして受け付けずない為、退職は不可能。
・任務の放棄、辞退は万単位の罰金と社会的抹殺がセオリー。寝返りは一億円の罰金。この罰金は闇金業者でその人物の名義で金を借りるので、絶対に裏切れないのである。
・すべての行動は《ヒーローパスポート》によって管理される。これを紛失した場合も罰金。再発行も自腹。
以上のことから、正義の組織は一日でも早く壊滅することを望みます。
キサラギ臨時アルバイターであり、六号とアリスの部下兼友人・クロスブレードマン。
============
――――――――――――
―――オペレーター室にて。
「ガンマンジャーの皆さんは《ガンナーマシン》が到着次第、速やかに《デストロイヤー》の破壊に移動してください!グラップギアさんは苦戦している輝鬼さんの救援に向かってください!!四世はもうその戦域から離脱してください!!」
わたしは担当ヒーローの指示を一先ず終えると、机の上に置かれた栄養ドリンクを一気飲みする。
これで十本目……そろそろ休みが欲しいです。
「頑張れよオペレーター諸君!ヒーロー達が命懸けで戦っているのだ!これくらいは頑張って当然だろう?」
お前が言うセリフじゃねぇよクソ上司!!お前は普通に定時で帰っているだろうが!!
ああ、呪いがあれば今すぐ呪い殺してやりたい。
「しっかし、クロスブレードマン四世がまた負けるとはな……装備のスペックは初代より遥かに優れているのに、何故なんだろうな?」
クソ上司は今回も敗走した“クロスブレードマン四世”に対して疑問を浮かべてますが、わたしからすれば当たり前です。
ちなみに二世、三世は再起不能で辞めています。治療費は一円も出てませんけど。
初代クロスブレードマンさんは本当に凄いヒーローでした。他のヒーローでは……というか、誰がやっても不可能な無理難題を初代クロスブレードマンさんは一人でやり遂げたんですから。
「あれほどの戦果を上げた装備なのに……どうして二世以降は成果を挙げられないんだ?」
だからアレは装備の性能ではなくクロスブレードマンさんの実力です。いい加減気づけ、クソ上司。
最初は“アーマードライダー”さんでしたけど、敵の最高幹部がそう呼称するようになってからそれが定着して、あらゆる絶望的状況を一人で覆して……本当にあの人は皆さんが認めるヒーローでした。
「まあ、候補生は他にもいるからいずれアタリが現れるだろう。最悪、クロスブレードマンの死を利用してヒーローを焚き付けるか」
アタリなんか来るわけないだろ。あの人と同じ人間なんて二人もいるわけないですから。
だから担当オペレーターだったわたしも当時は誇らしかったし、クソ上司にクロスブレードマンさんの待遇の改善を何度も陳情した。
けど、あのクソ上司は。
『ヒーローは見返りを求めないものだ!!』
『ヒーローの最大の報酬は皆の笑顔と感謝だ!!』
とかほざいて、一向に改善しませんでした。ご丁寧にわたしに一千万の罰金を課して。
その上、大して強くないヒーロー達がそれに賛同してるから余計に意見が通りませんでしたし、借金のせいで意見が言えなくなりましたし。
結果、クロスブレードマンさんは我慢の限界に達して無謀な突撃をかますこととなってしまった。
それでクロスブレードマンさんは消息不明となり、全体の負担が一気に増加。士気も当然の如くがた落ち。
それは『アメ十倍、ムチは千倍』作戦であっさり解消されましたが。本当にヒーローは単純で思考がアレすぎます。
おかげでわたし達オペレーターにそのしわ寄せが来て給料が一気に十円に……栄養ドリンクも期限切れのしか支給されませんし、本当に最悪です。コンビニ弁当も一週間も前に期限が切れたものですし。しかも運送の手数料で一万円も給料から引かれますし。
「今日のご飯はハンバーグ弁当だぞ!!この俺様に誠心誠意、感謝しろよ!!」
しませんよ。その弁当、絶対期限切れてますよね。若干臭いますし。
そもそも、給料って払うものじゃなく貰うものですよね?なんで貯金削って会社にお金を出さなきゃいけないんですか。
本当は口に出して文句言いたいですけど、それしたら五十万の罰金が課せられますし。それも闇金による借金という形で。
もういっそ、キサラギに転職しようかな。来週は休暇だからそこで蒸発しよう。もう、クロスブレードマンさんのいないブラックな職場に未練もないですしね。
よし、全部置いてバックレよう。
プロフィール
============
ガダルカンド
デーモンの姿をした魔王軍四天王の一人。
原作よりもガチで侵攻に望んだが、クロスブレードマンにあっさりとミンチにされた。
ゴーレムも二十体用意したのに、地雷と対物ライフル、クロスブレードマンの必殺技で全部砕かれた。
ちなみにバラバラになった鎧と武器は兵士達に回収された。
クロスブレードマンの評価:憐れなデーモン。