転送先が死後の世界→異世界だった件   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


外交は宴会ではない

道中、トラブルに見舞われはしたが、オレ達は無事にトリス王国に到着した。

 

「転げ落ちただけなのに、まだ復活してないんだな」

「打ち所が悪かったかもしれませんね」

 

危うく餌と的になりかけたグリムを車いすに乗せたロゼは、特に心配する様子もなくそう告げる。

 

「グレイス王国の遣いの者達ですね。お話は既に窺っております」

「ああ。短い滞在になるだろうが、宜しく頼む」

「よ、宜しくお願い致します!」

 

スノウは慣れてるのか、トリス王国の兵士にも普通に接しているがフレアは緊張してるのか声が上擦っている。

 

「本当に狂った嗤い声を上げたのか疑問に思うんだが……」

「何を言ってるのですか六号さん?アタシはそんな声出してませんよ?」

 

六号の疑いげな表情での呟きに、聞こえたらしいフレアは首を傾げてそんな事を宣う。

 

「は?お前は何を言ってんだ?矢を射ってた時、めちゃくちゃ高揚した嗤い声を上げてただろ」

「?アリスさん、本当に何を仰っているんです?アタシは騎士らしい立派な振る舞いで矢を射ってましたよ?」

 

本気で言っているらしいフレアに、オレと六号とアリスは揃って顔を近づけて話し合った。

 

「どうやらアイツは記憶を改竄するタイプみたいだな」

「完全なトリガーハッピーだな。自分の姿を自覚してないとか、本気でヤバい」

「なんでこんなクセが強すぎる女ばかりが集まるんだよ?俺、エリートなのに」

 

知らん。後、六号。お前はエリートじゃないだろ。

フレアの自覚なきヤバさを改めて実感したオレ達は、スノウの先導でこの国の王宮へと目指して行く。

にしてもトリス王国はインドネシアのイメージが強いな。服装もそれに近いし。

 

「この国もグレイス王国と文明程度は変わらないな。何かあってもキサラギの技術の敵じゃないだろう」

 

道中の建物や露店に目を向けていたアリスの言う通り、文明レベルはグレイス王国と然程変わらないように見える。だが、目に見えないだけでどこかに古代遺産(アーティファクト)があるかもしれないから油断は禁物だろう。

 

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか?水精石の交渉、失敗したら……」

「だから大丈夫だフレア。この私が付いているのだからな」

 

……本当に大丈夫なんだろうか。未経験ではないはずだから大丈夫の筈だよな?

そんな不安を感じながらも、オレ達は王宮の前へと到着した。

 

「グレイス王国の使者様方、トリスへようこそ」

 

門の前にはお偉いさんらしい中年と、身の回りの世話をする侍女達が出迎えてくれた。

 

「その格好……あなた様が第二の勇者様ですね。ご活躍はお聞きしていますよ。何でも魔王軍を一人で退けたと」

 

だからオレは第二の勇者じゃねえ!これが外交じゃなかったら即叫んで否定するのに!!

 

「買い被りすぎですよ。オレは何処にでもいる、唯のしがない傭兵ですよ」

 

何とか取り繕った言葉でやんわり否定。これなら……

 

「え?副隊長、本気で言ってます?」

「一人で魔王軍を半壊させておいて、唯のしがない傭兵はないだろ」

「クロスブレードマンさんのような凄く強い人は、何処にもいませんよ」

 

そこぉ!余計なこと言うな!!

 

「ハハハ、第二の勇者様は謙虚ですな。本日は長旅を癒すための宴をご用意してございます。皆さまのお相手は宴の席にて、我が国の第一王子エンゲル様が務めます。どうかゆるりとお過ごしください」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します」

 

お偉いさんの歓迎に対し、フレアは先程までの不安げな態度ではなく、堂々とした佇まいで言葉を返す。

ちゃんと外交官として仕事してるな。この分なら大丈夫そう……

 

「私はスノウ。グレイス王国近衛騎士隊長にしてティリス王女の専属騎士も務めていた。つまり王女の懐刀というわけだ」

 

おいスノウ。何で急に会話に割って入ってきた。お偉いさんも少し困惑してるぞ。

 

「トリスでは水精石の輸出が主な産業だと聞いている。しかもその希少鉱石が地下資源としてまだまだあるとか。いや、実に羨ましい」

 

こいつ……露骨に賄賂を要求してきやがった!

 

「私も一度拝見―――」

「スノウ隊長のお言葉は気になさらないで下さい!それよりも此方を!!」

 

フレアはスノウを強引に押しのけると、持ってきていた木箱をそのお偉いさんに渡す。

……この星では賄賂が当たり前なのか?

そんな風に半分呆れながら見守っていると、お偉いさんは渡された木箱の蓋を開けた。

 

「これは……瓶、ですね」

「ええ。中身は我が国の最高級のお酒です。もしよろしければ、エンゲル様にお口添えを……」

「……分かりました。エンゲル様にはそれとなく進言しておきましょう」

「お心遣い、痛み入ります」

 

……本当に賄賂で交渉の第一関門を突破しやがったよ、このツインテール。

 

「本当に大丈夫なのか?交渉って普通、話し合いじゃないのか?」

「スノウよりかは大丈夫そうだが……アリス、お前はどう思う?」

「未開な文明では賄賂なんて当たり前なんだろ。そもそも、こちらの都合を優先した交渉なんだ。交渉のテーブルに付く自体から困難だから、賄賂くらいはしないと厳しいんだろ」

 

それでいいのか。高性能ロボット。

でも、お酒ならまだ大丈夫か?会合の席に飲めばまだ誤魔化せそうだし。

お偉いさんが酒瓶入りの木箱を抱えて奥へと去っていくと、蚊帳の外にされたスノウが爆発した。

 

「フレア!何で邪魔をしたんだ!?希少な水精石がお土産として手に入れられるチャンスだったのだぞ!?」

「今日はその水精石に関して交渉しに来たんですよ!?スノウ隊長はもう少しその辺りを考慮してください!」

 

周りに聞こえないように小声で会話しているが、そういう会話をしている時点でダメだからな?

一先ずは侍女さん達の案内でスノウ達女性陣と分かれ、オレと六号は用意された正装を着込まされていく。

何故着込まされていくのかって?侍女さん達が着替えさせてくれたからだよ。

取り敢えず、着替えが終わったオレと六号はスノウ達を待っていると……

 

「隊長っ。副隊長っ。この超ミニなドレスはどうかしら?」

 

復活したグリムが最初に合流した。それも暗い紫色のミニスカドレス姿で。

 

「セクシー?それともムラムラして押し倒したくなるかしら?」

 

……キッツ。セクシーポーズと合わさって、逆にドン引きして関わりたくなくなるわ。

 

「ババア無理すんなとしか言えねえ」

 

六号も同じことを思ったのか、無表情で心底嫌そうに呟いた。

 

「偉大なるゼナリス様!この失礼な男に災いを!不能の呪いにかかるがいい!!」

 

怒りで目を光らせたグリムに指を指された六号は、めっちゃ引き攣った表情で横へと飛ぶ。オレも思わず後ろへ飛び下がったし。

 

「……外したわね」

「恐ろしい女だなお前は!」

「今のはオレも本気で恐れたわ!」

 

不能になるとか本当に恐ろしいわ!オレだってそれなりに欲情はあるし、結婚して幸せな家庭を築きたいし!

部下の女性?完全に論外だ!

 

「六号っ。副隊長っ」

 

そのタイミングでスノウの声が聞こえてくる。

そちらに顔を向けると……スノウは水色のミニスカドレスだった。

 

「この超ミニなドレスはどう思う?セクシーか?ムラムラきて財産を貢ぎたくなるか?」

「ドン引きしかしないわ」

 

ドキツイミニスカとセクシーポーズ二連続で思わず本音を零すと、鋭い貫手が飛んできた。

 

「随分と攻撃的だな?」

「そう言うお前こそ、相変わらずのバカ力だな」

 

オレに掴み取られてびくともしない右腕を視界に収めながら、スノウは忌々しそうに呟く。

まさかとは思うが、アリス以外は……

 

「隊長~、副隊長~」

「お待たせしました」

 

淡いピンクのドレスを着たアリスと共に、赤いドレスを着たロゼとオレンジのドレスを着たフレアが奥の方から現れる。

……良かった。常識的なドレスで本当に良かった。

 

「ロゼ……お前だけはこの小隊の最後の良心でいてくれ……」

「?」

 

肩に手を置いて心の底からそう願う六号の呟きに、ロゼは良く分かっていない表情で首を軽く傾げている。

 

「……スノウ隊長。本当にそのドレスで宴に参加されるのですか?絶対、お付きの人が選んだドレスの方が良かったですって」

「何を言う!エンゲル様を陥落させるには、普通のドレスで攻めても意味はないだろう!!」

 

そのドレス、お前のセンスかい。たぶんグリムも同じだろうな。

 

「六号。この国にも文明に似合わない機械があった。人が多くて調べられなかったから、宴が始まったらコッソリ抜け出して調べるぞ」

「そういうところは抜かりねえなあ」

「オレも一緒に抜けていいか?」

「却下だ。お前は第二の勇者で目立ってんだ。絶対に国のお偉いさんが探しに行くだろうが」

 

ド正論すぎて反論できねえ。

そんな訳で、パーティーが開催される広場へと赴いたのだが……

 

「……人選を間違えたとかそんなヌルいレベルじゃねえぞ」

「…………ッ」

「……フレア以外、完全にアウトだな」

 

参加して早々、フレア以外は見事にやらかしてくれていた。

 

「すっごーい!そうなんですかぁ!お若いのに優秀なんですねっ」

「いえ、僕は優秀な部下に恵まれただけで……」

「そんな事ありませんよぉ!しかも貴族の三男なら跡継ぎ問題もないですしっ!」

「ところで……使者殿はどうして裸足なのですか……?」

 

グリムは早速男漁りを始めて口説きにかかってるし。

 

「美味しいです!こんなに美味しいの初めてです!」

「ロゼ様。豚の丸焼きは一人用では……」

 

ロゼはテーブルの料理をマナーやルールにお構い無く食べまくってるし。

 

「エンゲル様はまだか!?第一王子のエンゲル様が私の歓待をしてくれるのだろう!?」

「は……今しばらくお待ちください……っ」

 

スノウは近くの侍女にエンゲル王子を出せと急かしてるし!

そんなスノウ達の奇行で誰もオレ達に近づこうとしないから複雑だけどな!

 

「そうですか。フレア殿は近衛騎士なのですか」

「はい。まだまだ若輩者ではありますが……」

「ちなみに他の使者殿は……」

「すみません。皆様はこのような宴は初めてなもので。少々緊張されて気を紛らわせようとしているのですよ」

「は、はあ……」

 

フレアは普通にパーティーに参加している人達と談話してるなあ。弓を持たせたらアレだけど。

 

「さりげなくディスられてるんだが……」

「緊張で誤魔化してる辺り、まだマシな部類だろ」

 

確かにアリスの言う通りだな。オレなら匙投げそうだし。

 

「これ以上悪化するなら、フレア以外は全員退場させるか。グリムは後ろからガッとやって気絶させ、ロゼは象でさえ眠る強力な睡眠薬をメシに盛ってな。理由は体調不良で」

 

物騒だなアリス。賛成だけど。

 

「スノウはどうするんだ?一応、今回の外交官だが……」

「交渉はフレアだけで十分だろ。色気はスノウと比べて足りないが―――」

「六号!副隊長!王子をタブらかす援護をしてくれ!上手くいったら謝礼をするぞ!」

 

スノウの排除方法は本人が来たことで強制中断。本人の前で言えば警戒するからな。

 

「もうここまでいくと清々しいなぁ……」

「相手はトリスの第一王子にして次期国王。トリスは地面から金貨が掘れるとまで言われる資源国家。王妃に収まれば一生左団扇の生活だ!フハハハハ!!」

「本業、忘れてないか?」

 

オレが呆れ気味に指摘するも、スノウは変わらず高笑いするだけで全然聞いていない。

……予想通り、この守銭奴は完全に一線を越える気満々だな。やっぱり人選ミスだろ。

 

「そもそも今回の交渉はフレアと二人で行うんじゃないのか?」

「問題ない!今回の交渉はすべて私が行うから、フレアは参加しなくても大丈夫だ!」

 

本当にどうしようもないな、この強欲守銭奴女。下手したらフレアを排除しにかかるぞ。

あ、フレアが会話を終えて戻ってきた。

 

「エンゲルとやらは肥満体の好色でオススメできない男らしいな。あまり期待させるとショックが大きくて面倒になりそうだが」

「知ってますよ。エンゲル王子の女性好きは割と有名ですので、その流れで容姿も広まっています」

「……スノウも知ってるのか?」

「ほぼ間違いなく」

 

スノウは相手が肥満体と知っててあの発言なのか。

 

「……俺、スノウのこと甘く見てたわ」

「自分もだ。アイツは大富豪ならオークやスライムでも愛せそうだな」

「いや。愛してるのはお金だけだろ」

 

絶対ATMとしか見てないだろうし。金目当ての結婚なんて地球でもあるみたいだし。

 

「第一王子、エンゲル様がお見えになりました!」

 

話し合っている内にその王子さん来たようだ。

扉から現れた王子の見た目は……見事なまでに太ったおっさんだな。

 

「エンゲル様、初めまして!グレイス王国近衛騎士団隊長のスノウと申します!」

うわっ!めっちゃイイ笑顔!迷わず挨拶に向かったし、やっぱり一線越える気満々だろ!

「ちなみにフレア。交渉の段取りはどう決めてるんだ?」

「一応の流れはスノウ隊長の容姿でクラクラしている内に話を進めるつもりです。かなり難しい交渉ですが、一割二割の上乗せは覚悟していますので」

 

……本当に有能だな。ティリスもさすがに未経験な人物を選んだりはしないか。

 

「その間にスノウに手が出される可能性は?」

「こんな大勢の前で堂々と手を出しはしないでしょう。肩を触れば間違いなく後で手を出すでしょうから、最悪はそこも利用するおつもりです」

 

この子、本当に十六歳?めっちゃやり手なんだけど。

 

「これでも一応、貴族の出ですので」

 

ああ、それなら納得だ。貴族は権力と欲望が蔓延る魔の巣窟の筈だし。

フレアとそうこう話している内にも、スノウはエンゲル王子と話を進めていく。

 

「さて、我が国に来られたのは水精石の輸出について……」

「私がこんなにも情熱的に口説いているのに、何故そのような話を!?」

「スノウ殿!?」

 

スノウの奴、完全に本来の目的を忘れてやがるな。水精石の話をその程度で片付けようとしてるぞ。

 

「……おかしいですね」

 

おかしい?

 

「エンゲル王子は好色……そんな人物が容姿は整っているスノウ隊長を前にしたら、真っ先に口説きにかかる筈なのに……」

 

言われてみれば確かに。普通は逆だよな。というか、どっちもそのまま一線越える為に広場から退場しそうだけど。

 

「今日はたまたまそうなっている可能性は?」

「なくはないですけど……それにしては反応が……」

 

まあ、それも確かにだな。明らかに反応が薄いし。

 

「笑いなさいよ。この憐れな女を笑いなさいよぉおおおおおお!!」

「美味しいです!美味しいです!!」

 

グリムは呪いを発動したのか全身びしょ濡れだし、ロゼは相変わらず貪り食ってるし、場がどんどんカオスになっていく!

……いつの間にか六号とアリスも広場からいなくなってるし!

ああ、本当に逃げ出したい!!

 

「エンゲル王子は本当にスノウ隊長に興味を示してませんね。まるで性欲が消えたように……」

 

……性欲が消えた?

そういえば、グリムが不能の呪いを六号に掛けようとしていたが…………

 

「…………」

 

その可能性に行き着いたオレは、未だに泣いてるグリムに近づき、両肩にがっしりと手を置く。

 

「……副隊長?こんな私を笑いに―――」

「グリム。六号に掛けようとした呪いはどうなった?」

 

オレの感情が籠っていない声に、グリムは少しビクッとしながらもおずおずといった感じで口を開く。

 

「あの呪い?どうせ隊長以外の誰かにぶつかって失敗……」

 

そこまで言ってグリムは何かに気付き、体を震わせながらオレから顔を背ける。

間違いない!この地雷女、とんでもないことをやらかしてやがった!!

 

「オラァアアア!てめーキサラギ舐めてんのか!」

 

そんな驚愕の事実が判明したこと等お構い無しのように、六号が扉を蹴って中へと入る。そしてそのまま、スノウといつの間にか会話に参加していたフレアと対話していたエンゲル王子に詰め寄った。

 

「おいおっさん!お前んとこは魔族に水精石とやらを売ってる上に同盟まで結ぶんだってな?どういうことか説明しろ!!」

 

六号は詰め寄って早々にとんでもない爆弾を投下してきた。さすがにどういうことだ?

 

「……滞在中のハイネ殿に会ったのか」

 

エンゲル王子は六号の言葉を否定せずにハイネがここにいることまで零しやがった。

 

「エンゲル王子!?それは一体どういうことですか!?」

「もし本当であれば、我が国としては黙っていることはできませんぞ!」

 

その事実にフレアとスノウもエンゲル王子を問い詰めるが、当の本人は息を吐いてから口を開いた。

 

「スノウ殿。それにフレア殿も。魔族との同盟は間違いだ。正確には不可侵条約なのだ」

 

つまりどっちつかずか。どっちにもいい顔して、最終的に勝ち馬に乗る腹づもりか。

その外交の末路は本当に悲惨だったぞ。何せ、キサラギに不平等な条約を結ばされた挙げ句、乗っ取られた国が多かったからな。

その後、乗っ取られた国の首相から秘密裏に救援要請を受けてキサラギの怪人達を追い出して国を解放したら、今度は正義の組織に搾り取られたからな。

クソ上司が『これであの国の国家予算は我々のものだ!フハハハハ!!』とほざいていたから間違いない!!

 

「そもそも、魔族が戦争を仕掛けた理由は巨大魔獣“砂の王”に国土を侵食されたためだ。我が国が橋渡しをするから、貴国も魔族たちと和解してはどうかね?」

「“砂の王”がいる以上、魔族の国はやがて居住地がなくなります!」

「そもそも、魔族たちは交渉以前に対話もせずに戦争を仕掛けて来たのですよ!とても和解に応じるとは思えません!」

 

エンゲル王子の提案をスノウとフレアは不可能だと言い放つ。

 

「いいや。そっちがその気なら停戦だってやぶさかじゃないさ」

 

……本当にハイネが来てやがったよ。しかも扉に隠れるようにガキンチョもいるし。間違いなく魔王軍の関係者だな。

 

「エンゲル様の協力で“砂の王”もどうにかなりそうなのさ。この国の古代遺跡に“砂の王”に対抗可能なものがあるらしくてね」

 

マジか。魔王さえ逃げ出す相手に対抗できるもんがあるのか。

 

「つまり、“砂の王”さえどうにかできれば魔王軍は争う必要がなくなるのだ。我が国は裏切ったのではなく、むしろ一時的に押されていた貴国を助けようと交渉していたのだよ」

「お言葉ですが、エンゲル王子。魔族が“砂の王”に対抗できる力を手に入れて、それが我が国に向けられない保証がどこにもありません。むしろ、魔王軍の攻勢が更に激しくなるのではないでしょうか?」

 

めっちゃ正論。本当にフレアは有能だな。

 

「あたしらだってバカじゃないよ、紅髪のお嬢さん。“砂の王”さえどうにか出来れば、積極的に攻める理由はなくなるからね」

「だとしたら、なぜ一月の停戦が終わって以降も攻められておいでなのですか?本当にこれ以上敵対する意思がないのであれば、我が国に使者を出すなり停戦状態を続けるといった行動も取れた筈です。現在我が国は防衛に徹しているので、そちらが攻めなければ交戦することはなかった筈では?」

 

確かにそうだよな。本物の勇者は依然行方不明のままだし、今まで劣勢だったからグレイス王国側から攻め込む余力はないし。

 

「まだ可能性の話だからだよ。その対抗可能なものがちゃんと使えるか、調べてみないと分からないからね」

「それでも一時的な停戦が出来る筈では?それをしなかったと言うことは、魔族は“砂の王”を排除した後は失った土地の分だけ他国の土地を奪おうと考えていたのではないのですか?」

「本当に強気だね?そもそも、水精石に関してはトリスが売り先に困っていたからあたしたちが引き取ってやったんだよ。それを今さら元に戻せと頼みに来たんだろ?」

「……ッ」

 

さすがに痛いところを突かれ、フレアは反論できずに口ごもる。

 

「エンゲル様はグレイス王国を選んでくれますよね?友好の証として私と仲良くしましょう!」

 

不利と見たか、スノウが自身の胸をエンゲル王子の腕に押し付けて媚を売り始めた。だが、今の王子はグリムのせいで不能になってるから通用しないぞ。

 

「……エンゲル様。あたしだって、その、仲良くというか……」

 

ハイネも同様に色仕掛けをしていくが、通用しないから無駄な努力だぞ。

 

「こうなったらアタシも……!」

 

その光景を見てフレアも色仕掛けを始めるが、当然不能となったエンゲル王子は靡かない。

……本当にどうしよ。グリムのせいでティリスの目論見は完全に失敗だし。

取り敢えず、戻って来ていたアリスに相談するか。

 

「なあ、アリス」

「何だ?クロスブレードマン」

「パーティーに参加する前、グリムが六号に不能になる呪いをかけようとしたんだよ。六号はそれを避けて……」

「……そういうことか。本当に余計なことしかしないな」

 

さすが高性能ロボット。皆まで言わずとも理解したか。

 

「ちなみに六号は?」

「無茶をしに行くと言って、あの王子のところへ行ったぞ」

 

無茶?一体どんな無茶を……

 

「チョンマゲ!」

 

……………………。

 

ピロリロリ~ン♪

『悪行ポイントが加算されます』

 

六号のやつ……トンでもないことをやらかしやがった!!お偉いさんの頭に汚物を乗せるとか、本当に何考えてんだ!?

 

「逃げるぞ!」

「がってんだ!」

 

オレの叫びにアリスが同意してすぐ、オレはグリムとロゼを抱えて逃走を試みる。

 

「邪魔ッ!!」

 

広場の出口付近にいたロゼ似のガキンチョは本当に邪魔だったので、上へと蹴っ飛ばして排除。そのまま廊下を走っていく。

 

「ラッセルーッ!?」

 

後ろでハイネが叫んでるが知らん!今は急いで脱出しないと!!

取り敢えずグリムとロゼは女性の着替え室に投げ込んだ後は、自身の装備を回収。手早く着替えて再び六号たちと走って共に車に駆け込み、そのままトリスを脱出した。

 

「お前は本当に何を考えてやったんだ!?」

「あれは有名な宴会芸だ!後、あのオッサンに一矢報いたかったんだ!!」

「グリムのせいで不能になったおっさんに対抗意識燃やしてどうすんだ!?」

「嘘だろ!?俺、不能のオッサンに敗北感じてたの!?そっちの方がショックだわ!」

「私のせいじゃないわよ!避けた隊長が一番悪いのよ!」

「どう考えても、交渉を根本から覆したグリムが一番マズイでしょ!」

「全くだ!おかげで私の計画が台無しになったではないか!」

「こうなったら全員呪ってやるわ!!」

「逆ギレすんな!」

 

車内では終始、喧嘩が絶えなかった。

 

 

 




プロフィール

============
エンゲル

トリス王国の第一王子。肥満体のおっさん。
かなりの好色だったが、グリムの不能の呪いを受けてしまった。
その後、六号の汚物を頭の上に乗せられた怒りからグレイス王国に宣戦布告する。

クロスブレードマンの評価:ある意味一番の被害者。
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