―――二日後。王国の牢屋にて。
「よう。二回も瀕死になった割には元気そうだな」
「……ボクは戦闘キメラだからね。君たちのような猿とは違うんだよ」
六号の挨拶に、牢屋の中で手枷と鉄球をはめられて拘束されているラッセルは相変わらずオレ達を小馬鹿にするように返す。
ちなみにこの場にはオレと六号だけでなく、アリスとトラ男もいる。
「じゃあ、その猿に完膚なきまでに負けたお前はそれ以下だな」
「だな。自信満々だったのにクロスブレードマンに不様に敗北したんだからな。それも巨大兵器まで使った挙げ句にだ」
「…………」
六号とアリスの返しに、ラッセルは悔しそうに歯を食いしばっている。事実なんだから甘んじて受け入れろ。
「ま、そんなお前にちょっと頼みたいことがあるんだよ。悪い話じゃないから安心しろ」
「……聞くだけ聞こうじゃないか」
オレの言葉にラッセルは不承不承といった態度で会話に応じる。
じゃ、時間も勿体ないしとっとと本題に切り出すか。コイツも早く言えと態度で言ってるし。
「お前にはこの国の水の生成を行ってもらいたい。週休は一日。給料は一般兵の五倍。基本的にはオレが監視するが、ノルマさえ終われば基本自由。加えて魔王軍との戦闘には参加させない。臨時の依頼も出すだろうが、それに対しては別個で報酬が用意される。どうだ?捕虜として牢屋の中で過ごすよりはかなりの好待遇だと思うが?」
これはティリスや将軍、それぞれの方面と話し合って出した待遇だ。少なくとも断った場合のリスクくらいは考えるだろう。
今のところ監視を行うのはオレと六号だ。トラ男は気絶している間に撮ったラッセルの写真を見ていたので不満そうだったが、提案蹴った場合は全部任せると言ったので大人しくしている。
「やだね」
……即却下したよ、このバカは。
「……もっと待遇良くしろとかなら無理だぞ。各方面を説得して限界まで良くしたんだからな」
特に給金に関しては水精石の予算を回せばいいと交渉し、利益の高さから受理させたんだからな。監視の件も同様だ。
「お前たち猿の頼み事なんか受ける気はないね。確かにこの国の水問題程度なら余裕だけどさ」
……殴っていいかな?いや、これはあくまで雇用なんだ。冷静に冷静に。
「……本当に良く考えろよ?この提案は一度きり。二度はないんだぞ」
気分を落ち着かせてからそう通告すると、ラッセルはバカにした表情のまま、鉄格子の前へと歩いてくる。
「しつこいよ。ボクの答えは何を言っても変わらないよ。ボクは暑さや寒さ、痛みにも鈍いから拷問の類いには強いんだよね。だから力づくで従わせようとしても無駄さ」
本当に強気だな。その自信は本当にどこから来るんだ?二度、いや三度もオレにやられてるのに。
「……この提案を断ったら、お前はすぐに地獄を見るんだぞ?」
「聞いてなかったのか猿?ボクは拷問の類いには強いって言ったよね?」
拷問なんかしねえよ。お前の男の尊厳がズタボロになるだけだ。そして、周りから変態のレッテルを張られるんだよ。
「……最終通告だ。本当に、この提案を呑む気はないのか?」
「くどいよ。猿の頭じゃ理解できないのかい?」
……ハァ。コイツは本当にどうしようもないバカだな。ちゃんと忠告したのに自分から地獄に足を踏み入れるなんて。
「でもまあ、お前がボクに土下座―――」
「トラ男。後はお前の好きにしろ」
ラッセルが何か言おうとしたが無視し、オレは全部任せるといった感じでトラ男の肩を叩いて牢屋から離れる。オレから交渉権を受け取ったトラ男は口元をめっちゃにやけさせている。
……当然だよな。トラ男の好みに間違いなく突き刺さっているからな。しかも自分の好きに出来るんだし。
「あーあ、やっちまったなあ。こんな好条件を蹴っ飛ばすなんて……やっぱりお前はバカだな」
「まったくだ。コイツは本当に救いようのないバカだな。素直にクロスブレードマンの提案を呑んでいれば、捕虜としてはかなり恵まれた生活を送れていたのにな」
「……え?」
六号とアリスの心底呆れた眼差しと呟きに、何故か固まっていたラッセルは軽く顔を引き攣らせている。
そんなラッセルの前で、トラ男は鉄格子の前で屈んで挨拶をする。
「初めましてだなラッセルにゃん。俺の名はトラ男。ちいちゃい子が大好きな……そして引退した暁には、改造手術で美少女にしてもらう予定の怪人にゃん」
「…………は?」
トラ男の笑顔の自己紹介にラッセルは呆けるも、すぐに我に返って鉄格子から離れてジリジリと後ろへと下がっていく。
「い、いや。ハハッ……残念でした。ボクは男だから!」
「むしろ男の娘は大歓迎だにゃあ」
「何を言ってるのか分からないけど、嫌な予感しかしない!」
本当に凄いな。本当にトラ男は男女問わずで小さな子が大好きなんだな。尻尾も嬉しそうにめっちゃ振ってるし。
「悔しいけど降参だ。さっきの提案を呑もうじゃないか!」
は?何言ってんのコイツ?しかも上から目線だし。
「さっき言ったことを忘れたのか?この提案は一度きりだって言っただろ。だからもう白紙なんだよ」
「それはボクを焦らすためのハッタリなんだろ?そうなんだろ!?そうだと言ってよ!!」
急にラッセルが目に涙を浮かべて必死になってきたな。けど、これがお前が選んだ結果だから甘んじて受け入れろ。
「おいおい、バカ言うんじゃねえ。クロスブレードマンから交渉の権利を貰ったのに、ここまできてお預けだとか……」
トラ男はそう言って鉄格子を握りしめ……
「そんなふざけた真似が今さら、許されるわけがねえにゃん!」
ヨダレ垂らしながら鉄格子を力任せに引っ張って破壊した。オレも鉄格子くらいなら腕力だけで壊すことは出来るけど。
「よしわかった!ボクは今日からお前たちの側に付くよ!戦闘キメラだからそこそこ力になれるよ!!」
「キメラはもう間に合ってるし、打たれ弱いお前はマジで戦力としてはいらないんだわ」
「そうだぞ。秒で負けるお前はあまり役に立ちそうにないからな。だから、トラ男と仲良くな」
ラッセルは涙目でビビりながらこちらに寝返ると言うが、六号とアリスに敢えなく却下される。
ぶっちゃけコイツよりロゼの方が強い気がするし。仮にそれを抜きにしても、戦力として見ても色々な意味で期待できないから当然の反応だ。
売り込むならもっと上手くやれよ。買う気は一切ないけど。
「嫌だ嫌だぁあああああああ!クロスブレードマン様!さっきの話受けますから!休みも給料もなくていいですから!お願いしますから、先程の話を受けさせてくださぁあああああああああいッ!!」
トラ男に頭を掴まれたラッセルはオレを様付けして必死に懇願してくるが、その叫びに応える気はないぞ?
「もう無理だぞ。そもそも自分から提案を蹴っておいてそれはないだろ」
「本当にお願いします!負けたのがちょっと悔しかったから反抗しただけで、本当は受けてもいいって考えてましたからぁあああああああッ!!」
つまり、変なプライドで意地を張ったと。本当にどうしようもないバカだな。
「そんなプライド、負けた時点で早々に捨てておくべきだったな。ま、給料に関しては安心しろ。最低でも一般兵の二人分は出すようトラ男と国の責任者には言っておくから」
「全く安心できなぁあああああああい!一生あなた様に従いますから、本当に助けてくださぁあああああああいッ!!」
だからー、もう遅いんだって。
「あそこまで言っておいて、クロスブレードマンがお前を助けるわけないだろ。後、お前も組織が違うとはいえ、悪の組織の構成員なんだ。反抗するなら最後まで」
「裏切るなら真っ先にってな」
確かに。バッタヒーローも秒でキサラギから寝返ったという噂を聞いたくらいだからな。後、オレが戦ったキサラギの社員は口では何だかんだ言いながらも最後まで立場を変えなかったし。
そんなラッセルの姿に、トラ男はやれやれといった感じで肩を竦める。
「しょうがないにゃあ。仕事をサボらない限り、女装だけで勘弁してやる。金もちゃんと出してやるから精々頑張って水を出せ。でもまあ……俺としてはサボってくれて構わないにゃあ」
「うわぁぁぁぁぁ……!」
トラ男の妥協案に、ラッセルはこの世の終わりの如く泣き続ける。
こうしてラッセルはトラ男監視の下、女装して仕事をする事となった。
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中間報告
六号の暴走をアリスが機転を利かせて修正したことにより、どさくさに紛れて魔王軍とトリス王国の領土の一部を奪取。よって本来の任務であった侵略地の拡大に成功。アリスの提案により、この土地に本格的なアジトを建設する予定とのこと。
侵略地の拡大の際、敵対関係である魔王軍の幹部の一人を捕縛。実力は最弱ではあるが、グレイス王国の水問題を解決するには十分と判断。
現在はトラ男の監視下でメイド服姿で水を作り、洗濯、掃除、炊事、畑への水やり等の仕事をしています。
後、その幹部は六号以上のバカであり、致命的にどうしようもないレベルと判断します。
更にこの惑星にはキサラギ以上の科学技術による遺跡があり、その遺跡の一つにスペック上はデストロイヤーより上の巨大ロボットが保管されていました。
その巨大ロボットは上記のバカ幹部が操縦して襲いかかってきた為、六号と協力して各部の関節を破壊して無力化し、大軍を追い払うために取り寄せたデストロイヤーに載せて回収。
この巨大ロボットは操縦者の生命力を使って動かすようで、バカ幹部同様に現時点ではあまり使いようがありません。
現在はアリスが調査を続けており、件の欠陥機関は無傷なので関節さえ直せば動かすこと自体はできる模様。
同時に装備が乏しいので後付け装備等での改造案も検討しているとのこと。
よってこの巨大ロボットに関する悪行ポイントは幾ばくか割引されることを具申させて頂きます。
今後も残存する遺跡の調査を続行していく方向で進めていく予定です。
報告者
ザコロボットを六号と協力して倒したクロスブレードマン。
追伸
ちなみに掛かった時間は五人でデストロイヤーを現地で組み立て終わって直ぐくらいです。個人的にはデストロイヤーの方が強かったです。
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「……相変わらずクロスブレードマンはこちらの常識を壊してくるわね」
「まったくだよ。しかも比較的短い時間で倒したみたいだしね。それもメインエンジンを傷つけずに」
ある意味恒例となったクロスブレードマンの報告書に、アスタロトとリリスは呆れたように息を吐く。
まあ、クロスブレードマンならこれぐらい出来ても何ら不思議ではないと認識しているが。
「それにしても六号以上のバカって……一体どれだけバカなのよ?」
「さあ?あの六号より酷いなんて、俄には信じられないけどね」
アスタロトとリリスは実物を見ていないから半信半疑だ。後のアリスの報告書で『確かに六号以上のバカ』と納得したが。
そんな中、べリアルの怒声が二人のいる廊下にまで響き渡った。
「Fの十八号に十九号!今日の腑抜け具合は何だ!この前はヒーロー達の巨大ロボットを倒したというのに!」
「すみませんべリアル様……つい故郷の話を思い出してしまいまして……父上や妹、国民に苦労をかけているんだろうなと……」
「我輩もきっと今頃、ハイネやラッセルに心配されているだろう……あの二人は仲間想いであるからな……ロータスもきっと……」
新人戦闘員二人はそう言ってまた涙ぐむが、べリアルは何処か同情するような、呆れたような眼差しだった。
「そうかあ?いなくなって一週間も経てば案外コロッと忘れられたりするぞ。クロスブレードマンのように、存在が凄く大きいなら別だけど」
「俺は王子で勇者ですよ!?」
「我輩も四天王ですぞ!?」
べリアルに反論した新人二人は知らない。一週間どころか、クロスブレードマンが大暴れしたその翌日から存在そのものがほぼすっ飛んでしまったことを。その忘れ具合は四天王の方が酷いことを。
そんな憐れな二人の反論にも、べリアルは呆れた顔を変えなかった。
「だーかーらー、六号並みに頭が悪く見えるからやめろと前に言ったよな?これも前にも言ったけど、そういうのはクロスブレードマンに匹敵するくらいの戦果を上げてから言えとも言ったよな?」
「だから無理ですって!巨大ロボットを五体も一人で倒すなんて!」
「我輩と勇者二人で巨大ロボットとやらを一つ潰すのが精一杯であります!そもそも、そのクロスブレードマンの話は盛ってるのではありませんか!?」
その瞬間、べリアルの表情が一気に不機嫌なものとなった。
「……あ?Fの十九号。まさかこの《業火》べリアルの永遠の
「い、いえ!そのような事は決して!」
「第一、お前達はそのすぐに巨大ロボットを動かしていたヒーローに負けただろ。クロスブレードマンはお前達の倍の巨大兵器を倒した後のすぐの戦闘でも勝っていたんだぞ」
「……本当にその方は人間なんですか?」
Fの十八号はもはや信じられないといった面持ちで呟いている。
キサラギも当初は似た反応をしていたが、今じゃ『クロスブレードマンだから当然か』と何をやっても受け入れられる始末である。
「少なくとも人間だぞ。でなきゃキサラギの兵器を奪って衛星兵器を破壊しないだろ」
「あんな遥か空の上から攻撃してくる兵器に立ち向かうこと自体がおかしいであります!普通は逃げると思いますが!?」
「クロスブレードマンの話じゃ、逃げたら多額の罰金を課せられるからやるしかなかったそうだ。失敗しても罰金、成功しても紙幣一枚だったそうだが」
「……酷すぎません?」
「こればかりは勇者に同意であるぞ……」
新人二人は会ったこともないクロスブレードマンの境遇に本気で同情した。そして、自分たちは本当に恵まれていることも。
「はぁ……クロスブレードマンとまた戦いたいなぁ……他のヒーロー達との戦いが作業感覚だから全然楽しくないし……本当にサイコロに細工しとけば良かったよ……」
べリアルは仕事疲れしたお姉さんのように、そう呟くのであった。
「……そうだ!有給か休暇で向こうに行けば―――」
「駄目よべリアル。私だって我慢してるんだから貴女も我慢しなさい」
「うわぁああああああん!」
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「……ドラゴンジャーは次の戦闘区域に向かってください。ダブルワンは後五分以内に戦闘を終わらせてください。七世はもう好きにしろ」
今日も今日とて、栄養ドリンクが友達のブラック生活だ。
ホンットウに最悪。弱い上に頭がアレなヒーローが監視していたとか。おかげで蒸発も転職も見事に失敗してしまった。
「皆さんは僕たちが守ります!例えここにキサラギの奴らが襲撃してきても最後まで戦いますよ!」
「その意気だぞ!君たちの頑張りが、オペレーター諸君の励みになるのだ!!」
ならねぇよクソ上司。しかもしれっと洗脳紛いのことすんな。それと監視しているヒーロー、四六時中張り付くな。本当にプライバシーの侵害だから!
「近々、キサラギの幹部連中がパーティーを開くそうだからな。そこに上位戦力のヒーロー達を送り、一気に奴らをどちょう……ゴホンッ!正義の裁きを下してやるのだ!」
今、何って言おうとした?まさか調教か?社会の奴隷を増やすつもりか?
マジでこの組織はキサラギに滅ぼされればいいのに。やり方もパーティー中に襲撃するという正義とは程遠い、悪の組織のやり方そのものだし。
「戦力は……『シンセンジャー』に『アーマードライダートリプル』、『サイレンジャー』に『クロスブレードマン七世』が妥当だろ。最新装備で戦果も上々のメンバーだからな!」
……あー、確かに最高装備持ってるな。変な演出機能も付いてるけど。
そもそもウチの技術も大概おかしい。フィクションの変身をガチで実現するとか。本物のクロスブレードマンさんのは見てみたい気もしますが。
まあ、さすがに変身解除までは無理ですけど。
「グフフフフ……その日がキサラギの最後だ!せいぜい、知らずに過ごすがいい!」
むしろウチが最後になって欲しい。切実に。
……こうなったら、その日に自殺覚悟で逃げようそうしよう。
だって理不尽な借金は億単位。給料も休みもなし。明るい未来が全く期待できない。最悪泡風呂に沈められる。
そうと決まれば現場近くの通信中継用のトラックの通信機材の管理に立候補しよう。
今度こそ、わたしは自由を勝ち取るんだ。
プロフィール
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正義のヒーロー達
実力はイマイチなのに現実を見ていないバカども。
正義、誠実、愛情、友情で仕事するバカでお金がなくても嬉々としてキサラギと戦っている。
……幹部の“指導”も目的ではあるが。
頭がマトモなやつもいるが、そのほとんどは罰金地獄に陥っている。