夏目漱石「吾輩はウマである」   作:四十九院暁美

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お風呂でカポーンってなるやつって誰が最初にやり出したんでしょうね(永遠の謎)


小噺:銭湯とナリタ

 これはいつの時分だったか忘れたのだが、ふとでかい風呂に入りたいと思い立って近所の銭湯に行った事がある。

 寮の風呂もまあでかいが、あそこは種類がひとつしかないし何よりサウナがない。でかい風呂に入るならサウナはつきもんである。サウナがない風呂屋なんぞ手落ちも良い所だ。

 そんな訳だから、どこか近所にないもんかと探していると、ちょうど商店街に詳しいナイスネイチャと言う奴が、商店街近くの銭湯にサウナがあるよ。と教えてくれた。

 そこはなりたの湯と言う名前の銭湯で、何でも商店街の奴らから憩いの場として親しまれているらしい。

 これは良い事を聞いた。ナイスネイチャに礼を言って、私は早速そのなりたの湯とやらに驀進した。

 さても古めかしい見た目のそこは、外見のみならず中身もまあ古い。

 扉は木製の引き戸で、建て付けがすこぶる悪いから開けにくくて敵わん。暖簾をくぐった先にある下駄箱は、今日日見ない木板が鍵になっているものが使われている。貴重品入れなんぞ錆びとへこみでぼろぼろだ。

 極めて良い言い方をするならば、ここには趣があった。まるで昭和の時代にタイムスリップしてきたみたいで、風呂に入るのが少しばかり楽しみになる。

 番台の爺さんに入浴料の四五〇円を払って脱衣所に行くと、思いの外広々としていたから驚いた。

 表に休憩所がない分をこちらで補っているらしい。数匹の金魚の泳ぐ小汚い水槽と、ほとんど皮が剥がれているソファーが、何とも言えぬ雰囲気を醸し出していて面白い。

 意気揚々と服を脱いで人も疎らな風呂場に入ると、今ではもうお目にかかれないであろう富士山が見えた。

 銭湯に富士山など話にしか聞いた事がなかったが、こうして直に見るとなかなかに迫力がある。風流と言うのがあって大変に良い。

 肝心の湯船だが、これは三つあった。右から順に白湯、気泡湯、薬湯である。揃えは良くも悪くも無難と言った所か。薬湯は独特の匂いがないから、苦手な奴も入りやすくて良さそうだ。

 まずはシャワーで身体を流して白湯に入ったが、これがなかなかに適温で気持ちが良い。白湯でこれなら気泡湯と薬湯も期待できそうである。

 上機嫌に鼻歌を歌いながら身体を温めていると、ふと勢い良く引き戸が開いて、ひとりのウマ娘が風呂場に入ってきた。

 真っ白い手拭いを肩にかけて威風堂々と歩くそいつは、シャドーロールの怪物ことナリタブライアンである。

 ”なりた“の湯と”ナリタ“ブライアンで“なりた”が被ってしまった。などとくだらん事を考えていると私の存在に気が付いたナリタブライアンが、お前、ここで何してるんだ。と声をかけてきた。

 何と言われても風呂に入っているとしか答えようがないから、湯に浸かっているだけだと返した。そうしたら憮然に眉を顰めて、そんな事は聞いていない。と仰るからこいつの言いたい事がわからん。

 しばしの沈黙のあとには、ばかにでかい溜め息を吐く。よもやお気に入りの場所を取られて怒っている訳でもあるまいに、益々もってわからんから内心で首を傾げるしかない。

 変わらず憮然とした顔で湯船に入ったナリタブライアンは、私から距離を取ると胡座を掻いて両腕をふちに乗せてどっしり構えた。

 まったく堂々とした奴である。よっぽどここに入り浸っていると見える。

 人も疎らな銭湯に、ウマ娘がふたり。お互いに会話もなく、湯に浸かっている。

 盛り上がる話題でもあれば良かったのだが、残念な事には、こいつが好みそうな話なんぞまるで知らんから困った。

 まあこいつとはわざわざ風呂で話す事なんぞないのだから、当然と言えば当然である。

 会話らしい会話もないまま、やがて疎らにいた婆共も出て行ってふたりきりになると、束の間にもうひとりチビのウマ娘が入ってきた。

 私らを見るなり嫌そうに顔を顰めたそいつは、数秒くらい迷ったあとに隅っこに浸かると、不機嫌にむっつりした。

 しかもそのすぐあとには、私の身体と、ナリタブライアンの身体と、そして自分の身体を見比べて、くっ。と憎々しげに呻くからますます会話できるような雰囲気ではない。

 しかしそんなチビに恐れ知らずの怪物が、おいタイシン、姉貴は健勝か。とこいつに問いかけたからチビの名前がわかった。

 なるほど、あれはタイシンと言う名前らしい。

 対するタイシンとやらはナリタブライアンの問いかけに、自分の姉なんだから自分で聞いたらどうですか。と素っ気なく答えたから、雰囲気が一気に悪くなった。

 さすがにこのままでは居た堪れんので、お前らここにはよく来るのか。と無理矢理に話題を変えたらまずナリタブライアンが、それなりにだがな。と答えて、それからタイシンが大きく間を置いてから、同じく。と言う。

 続けて気に入ってるのかと聞くと、それなりだ。同じく。と似たような答えばかりが返ってくるから、どいつもこいつも会話が不自由でいかん。

 ついには心中でほとほと呆れて居た堪れなくなったから、そろそろ目当てのサウナでも行くかと立ち上がった。

 すると、ナリタブライアンとタイシンも同時に立ち上がったから、何だこいつらはと驚いた。ふたりも何だこいつはと驚いた顔をしている。

 どうやら私たちは、ほとんど同時にサウナへ逃げ込もうと思案したらしい。もっと他に逃げ込む所があるだろうと思ったが、それを言うと私にも当てはまるのでやんぬるかな。

 しようがないのでぞろぞろサウナに入った。暑いのに冷えていた。

 相変わらず無言の空間が続いている。

 入ったばかりなのにもう出ていきたい気分だが、ここで動くとまたこいつらが尾いて来るのではないか。なんて疑ってしまって動けない。

 無論それは向こうも同じで、誰かが動いたら全員が動くのではないか。と言う疑念に動けずじっとしている。

 結局そのまま誰も動かないまま時は過ぎて、そろそろ脱水症状が怖くなってきたからこりゃあいかんとほうほうの体で外へ出た。

 その頃には私たちの間には諦観めいた奇妙な友情が芽生えていて、会話らしい会話もなかったのに同じように行動する事を不思議に思わなくなっていた。

 

 なお、風呂上がりに飲むもんは見事にバラバラであった。

 私は珈琲牛乳を飲むべきだと主張したのだが、怪物殿はフルーツ牛乳が一番だと言って憚らんし、タイシンは普通の牛乳でいいじゃんと投げやりで、まったく意見すら合わないから友情もここまでである。

 飲み物の好み如きで散るとは、かくも儚き友情もあったもんだ。




次回から本編に戻ります。
シリウスに新しい新メンバーがついに加入!……するかも?

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 本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
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