夏目漱石「吾輩はウマである」   作:四十九院暁美

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アンケートの結果、GLタグをつけるべきという方が多かったので、GLタグ付けます。つまり最終的に主人公ちゃんとフクキタルは石破ラブラブ天驚拳して希望の未来へレディゴー!します。


拾伍

 夏の合宿が終わって日常に戻ると、少ししてサイレンススズカの復帰戦が決まったと言う話が学園中どころか世間にまで流れて、ちょっとした騒ぎになった。

 随分と気合の入ったポスターが、校舎の至る所に貼られていたのがこの騒ぎの原因である。よっぽどサイレンススズカの復帰が嬉しかったと見える。

 ネットではこのポスターが話題も話題で、レースの観戦予約がもう満杯になっていると言うから驚きだ。私もそこまでの騒動になるとは思ってもいなかった。

 無論こんな大それた事をしでかしたゴールドシップは、生徒会の奴らにさんざっぱら叱られていた。まあこのような状況にまでなってしまったのだから、そうなるのも宜なるかなである。

 実は私もちょっとばかし貼り付けを手伝ったのだが、これに関してはまだ誰にもバレていないらしい。生徒会も案外ちょろいモンだ。

 

「あ、あのぅ……エアグルーヴさんが、あとで生徒会室に来るように。って……今度は何をしちゃったんですかぁ……?」

 

 前言撤回、生徒会も案外よくやるモンだ。

 

 そんなばかな騒ぎがあったすぐあとには、菊花賞と秋天があった。

 まずはテイエムオペラオーとメイショウドトウ、そしてアドマイヤベガの出る菊花賞だった。

 レース前にメイショウドトウの激励に行くと、何やら決意した面持ちでいる。何を気負っているのだと聞けば、宝塚での激走を思い出していたのだとメイショウドトウは言った。

 私もあんな風になりたいから。拳を握って宣言したメイショウドトウの顔には、今までの気弱な所はひとつもない。おそらく今までで一番、格好良い顔をしていた。

 一年と言う長いようで短い中でこいつの中に芽生えていた気持ちが、ここに来てついに開花したようであった。

 私はメイショウドトウに、今のお前なら勝てるぜと背中を叩いて檄をいれた。エアシャカールもこれに同意して「今のテメェの実力なら負けねェさ」と言う。ライスシャワーもウイニングチケットも、今のメイショウドトウは一味違うんだと頷いた。

 最後に干物が肩に手を置いて「行っておいで」と優しく微笑むと、メイショウドトウは力強く「行ってきます!」と一歩を踏み出した。

 

 京都レース場にて三〇〇〇メートルと言う長距離を走るこのレースは、クラシック三冠の最後のひとつにして世代最強を証明する戦いだと言われている。

 事実この世代で三〇〇〇メートルと言う未知の長距離で勝つのは、あらゆる面で秀でた者にしか為しえぬ偉業だろう。

 ターフに出たメイショウドトウは、テイエムオペラオーといくつか話をしていた。

 観客席から見下ろす我らでは歓声に遮られて何も聞く事は出来なかったが、その表情から何を言っているかは察せられた。

 対するテイエムオペラオーは笑ってそれに応えていた。いつものような仰山に尊大な態度である事が見て取れた。

 一方でアドマイヤベガはそれを横目に見て、しかし何もせぬまま佇んでいた。

 

 ファンファーレが鳴り響き、各ウマ娘がゲートへはいって行く。全員がゲートにはいると、数秒の静謐のあとにはレースが始まった。

 立ち上がりは何事もなく、順調な滑り出しである。上からアドマイヤベガ、テイエムオペラオー、メイショウドトウが順に中団の位置にいる。

 最初のコーナーを回って客席正面にはいると三人の形が崩れて、メイショウドトウは少し前目に付けて内に、テイエムオペラオーとアドマイヤベガは中団後ろに控える形になった。

 向こう正面になると、先頭の逃げ馬が息をいれて速度を落とした。前が詰まって後続との距離が縮まり団子になる。メイショウドトウは少し中にはいり、テイエムオペラオーとアドマイヤベガが少し位置を上げた。

 こうなるといかにして群から抜け出すかが肝になる。最終直線にはいる前には道を確保しておきたいが、はたしてメイショウドトウの位置はどうか。ここからではあいつの判断が正解であるかを祈る事しかできん。

 八〇〇メートル付近になると、ついに後方のふたりが仕掛けに行った。メイショウドトウはまだ動かないから中団前目の位置で機を伺う形になっている。

 最終コーナーを回りついに最終直線にはいると、ここでやっとメイショウドトウが動いた。

 フクキタル直伝の末脚を使って、一気に先頭へと躍り出るとそのままゴールだけを目指して走る。外からテイエムオペラオーとアドマイヤベガも突っ込んできた。

 一〇〇手前では前三人が並んで誰が勝ってもおかしくない状況になったから、私たちも手に汗を握ってメイショウドトウに声援を送った。

 するとこれが効いたのか、ゴールの直前に一瞬だけ、メイショウドトウがふたりより前に出たように見えた。

 三人が並んでゴール板を超えると、まずメイショウドトウがへたれてすっ転んだ。テイエムオペラオーはその横で立ち止まると片手を地面に突き、アドマイヤベガも両膝を折って座り込んだ。

 掲示板には写真の文字が灯っている。私たちから見ればメイショウドトウが半歩抜きん出ていたように見えた。

 

 固唾を飲んで結果を待っていると、掲示板が不意に光った。着順はメイショウドトウ、テイエムオペラオー、アドマイヤベガで、クビ差でメイショウドトウの勝利であった。

 どっと歓声が空高くに響き渡り、レース場を揺らした。メイショウドトウはしばし茫然としていたが、テイエムオペラオーとアドマイヤベガに助け起こされて、それで己が勝ったのを自覚して涙を流した。

 私たちも飛び上がるぐらいに喜んだ。やっと、やっとの勝利である。今までずっと後塵を拝してきたあいつが、ついにテイエムオペラオーに勝ったのだ。こんなに嬉しい事はない。

 ウイニングライブで泣き笑いのピースサインを掲げたメイショウドトウには、近年稀に見る程の拍手と喝采が降り注いでいた。

 

 菊花賞が終われば、そのすぐあとには秋の天皇賞がある。

 サイレンススズカは復帰戦に向けての追い込みがあるから来ないと言うので、シリウスの奴らと一緒に見に来ている。

 私とサイレンススズカがとんでもない事故に遭ったのが一年も前の出来事で、今ではいつ復帰するかの話になっているのだから時の流れがいかに早いかを実感させられる。

 思えば私がこの東京レース場に来たのもあれ以来だから、何だかこの景色も感慨深いような気がしないのでもない。

 あれから私も、少しは成長したのだろうか。大きくなれたのだろうか。

 レース場を見下ろしていると、フクキタルが私の後ろ髪を触って「髪、結構伸びましたね」と言った。

 あまりに気にしていなかったが、一年も経てばそれなりに髪も伸びる。今ではすっかり白染めも色褪せて薄くなってしまっているから、ある意味でこれは私の成長の証であるのかもしれない。

 邪魔なら切ろうかと思っていると言ったら、フクキタルは綺麗なのに勿体無いですよと髪を撫で梳かして、私の頬にそっと手の平を当てた。

 こいつにそう言われると、不思議なもんで伸ばしておくのも吝かではない。私はそれなら伸ばしてみるよと、フクキタルの手に軽い頬擦りをして返した。

 隣のエアシャカールが「ケッ、真っ昼間からごっそさん」と悪態を吐いたのは、聞こえないふりをした。

 

 レースの結果から言えば、スペのレコード勝ちであった。

 序盤から後方に付けていたスペは全体の動きを見守るような動きで控え、最終直線にはいると磨きのかかった末脚を爆発させて、先頭を走っていたキンイロリョテイに迫ると、これをクビ差で抑えて勝利した。勝ち時計レースレコードであった。

 セイウンスカイもキングヘイローも頑張ったのだが、恐ろしいまでの勢いで伸びたスペの脚にはまったく敵わないようだった。

 去年の私たちの無念の晴らすかの如く激走したスペは、観客席に私を見つけるとピースサインを天高く掲げて、満面の笑みを浮かべた。

 それは、タマモクロス以来の春秋天皇賞制覇と言う偉業を達成した証明であった。

 

 さても恒例のウイニングライブであるが、やはり完全装備で挑んだ。しかし今回のライブではどうやら私も名物になっているらしく、始まる前には写真やらサインやらを求めらてしまった。

 私なんぞよりよっぽどスペを見て欲しいのだが、せっかく私を好いてくれている奴らにそんな事を言うのは忍びない。

 しようがないので、お前ら程々にしておくんだぞと言い含めながら、時間が許す限り対応してやった。

 そんな中でひとりの男が、おそらくはサイレンススズカの復帰に思う所があったのだろう、いつ頃に復帰するのかと恐る恐る聞いてきた。

 その時の私は得意になっていたから、考えもなしに勢いのまま年明けに復帰するぞ。なんて調子良く言ってしまったから大変である。

 

 サイレンススズカの時もそうだが、今の時代は情報がよくよく回るのが早い。

 ウイニングライブで可憐に踊るスペに私が歓声を送っていた裏で、私が来年に復帰すると言う話がネットで瞬く間に拡散されて、サイレンススズカと同じくちょっとした騒ぎになっていた。

 どれくらいの騒ぎになっていたのかと聞かれると、私はその方面には疎いので何とも言えぬのだが、SNSで私の名前がトレンドなるものに載るくらいには騒がれていたと言う。

 

 すっかりウイニングライブを楽しんで気持ち良く帰ってきたところで、いろんな奴らか復帰が決まった事をいろいろ言われたから、寝耳に水な私は首を傾げるばかりだ。何の事だと言えばみんなして惚けちゃってと笑うから益々である。

 そのうち生徒会の面々に呼び出された。妙な日もあったもんだと向かってみれば、私はそこで初めてこの騒動を知って心底魂消た。まさかそうすぐに広まるとは思っていなかった。

 チームの部屋に行けば干物も次々来る電話の対応に疲弊していて、私が来るなり「君罰として一週間プールね」と無慈悲な事を仰るから必死に謝り倒した。しかしよっぽど腹に据えかねたか、ついぞ撤回されることはなかった。

 これも親譲りの無鉄砲が祟った結果であった。




実は今ちょっと別の作業をしていまして、これからは少しばかり投稿が遅れると思います。
終わったらまた週一更新になれると思うので、気長にお待ちいただけると幸いです。

 吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
 本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
 以下のサイトにてDL可能ですので、まずは体験版からどうぞ。

【DLsite】
 https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ369814.html

【メロンブックス】
 https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1199029

GLタグいる?

  • いる(鋼の意思)
  • いらない(どこ吹く風)
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