夏目漱石「吾輩はウマである」   作:四十九院暁美

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お待たせ、待った?
別作業の方がもうすぐ終わりそうなので、生存報告がてらに更新です。


拾陸

 秋天が終わると直ぐに凱旋門賞がある。凱旋門賞はエルコンドルパサーが出る外国のレースで、何でも世界で一番格式高いレースであるそうだ。日本のウマ娘界じゃあこれに勝つのが最大目標らしいが、なるほど世界最強を自称するエルコンドルパサーにはちょうど良いレースだろう。

 これまでも何度か連絡を取っていたが、出走の2日前には向こうから連絡が来た。世界最強を証明してきマス! と自信たっぷりに言うから、来年の有馬記念で、凱旋門賞ウマ娘と対戦できるのを待ってるぜと返した。私は、エルコンドルパサーが負けるとは思っていなかった。実際負けなかった。

 

 凱旋門賞当日には寮の広間に集まって、みんなしてテレビにかじりついた。消灯時間を過ぎていたが、今日ばっかりは気になるからとフジキセキも規則を持ち出さなかった。

 凱旋門賞が行われるロンシャンは、前日から降り続いた雨の影響で不良バ場で、かなり難しい状態だった。何でもほとんど田んぼみたいな状態らしい。これでも走れと言うんだから、欧州はまったく日本と気風が違う。

 ゲート入りになると、エルコンドルパサーは少し緊張した面持ちで一枠の最内にはいった。先行差しどちらもできるあいつだから、これは随分有利な枠順だ。

 

 十四人全員のゲート入りが完了すると、束の間にはゲートが開いてレースが始まった。

 エルコンドルパサーはいっとう最初に飛び出すと、そのまま先頭に立った。どうも逃げウマがいなかったようで、先行策を取ったエルコンドルパサーがそのまま先頭になったようだった。

 レースは終盤まで何事もなく、エルコンドルパサーが先頭のままで進んだ。最終直線でも後続とは二バ身の差があった。エルコンドルパサーはそこからさらに離しにかかった。

 ただ残り四〇〇メートルあたりから、最有力のブロワイエが外目から上ってきて、一〇〇メートルで並ばれ、あまつさえ抜かれてしまったから、よもやとみんなでハラハラする。

 しかしエルコンドルパサーもさすがなもので、抜かれた所からさらに加速してまた並ぶ。こうなるとどっちが勝ってもおかしくはないから、テレビに送る声援にも力がはいる。

 やがてふたりが並んでゴール板を横切ると、審議のランプが掲示板に灯った。この日ほど審議のランプをもどかしく思ったことはない。

 さても結果が出てみると、なんとハナ差一センチでエルコンドルパサーの勝ちである。しかも三着のウマ娘とは六バ身の差であるから、名実ともに世界最強だ。

 

 これには私たちみんな飛び上がって、抱き合いながら歓声を上げた。普段静かなシンボリルドルフや、エアグルーヴまで声を上げて喜んでいたのだから、場の盛り上がりも察せよう。

 無論学園全体も爆発したみたいに沸いていた。時期外れのお祭りみたいになって、近所から苦情が来るくらいには大騒ぎになっていたそうだが、この夜ばかりはきっと日本全体がそんな状況だったに相違ない。

 お祭り騒ぎは次の日まで続いた。おかげで授業も休みになった。トレーナーどころか教師一同まで、二日酔いでばたんきゅうしてるとマルゼンスキーが言っていたから、流石に閉口する。

 いくら嬉しいたって、次の日に仕事があるならいい加減をするもんだ。いい大人が何をやっているんだろう。見ろ、駿川たづなはピンピンしている。あれこそ大人ってもんだ。

 

 やっと2日経って騒ぎが落ち着いたら、今度はエルコンドルパサーが一週間後に帰国すると言うから、また別で騒ぎになった。

 何でも子供理事長が音頭をとって、あれこれ出迎えの準備をすると言い出したから、横断幕やら何やらを準備するために学園総出でいろいろやることになったそうだ。おかげで今は校舎もすっかり横断幕で飾り付けられている。

 それから学園中でてんやわんやとしていたら、そのうちエルコンドルパサーの帰国日になったから、リギルの奴らと一緒に私たちも空港へ出迎えに行った。

 空港には記者やテレビに加えて、野次馬までが大挙していて、側から見れば足の踏み場もないくらいである。私たちは関係者なんで先に通されたが、外で待っていたらきっと揉みくちゃにされていただろう。

 待っていると、そのうち記者も通されて、私たちの後ろの方に控え始めた。エアグルーヴはカメラのフラッシュが苦手なんで、ものすごく嫌そうな顔をしていたが、こればっかりは仕方ないものだ。何せ初の凱旋門賞制覇である。そんなウマ娘、誰だって出迎えたいしテレビだって報道したいと思うもんだ。

 

 後ろの喧騒を聞き流しながら待っていると、ついにエルコンドルパサーが荷物を引いて降りてきた。いの一番にグラスワンダーが駆け寄って抱きつくと、私たちも歓声を上げながら一緒になって抱きついた。

 エルコンドルパサーは、最初だけ随分驚いた顔をしていたが、次にはぐずぐず鼻を鳴らして、私やりましたよとだけ言った。本当は笑顔で世界最強だと言いたかったのだが、感極まってほとんど口が動かなくなったらしい。私たちも感極まっていたから、ただおめでとうとだけ言い続けた。

 しばらくみんなで抱き合っていたら、やおらとシンボリルドルフが寄ってきて、すまないが私にもさせてくれてと言ったから、ぱっと離れた。そのうちリギルの全員が来て、同じように抱きついた。

 順番にエルコンドルパサーをいっぱい抱きしめたら、いよいよマスコミの前に出る。エルコンドルパサーはカメラも前に出ると、カバンから凱旋門賞のトロフィーを掲げて、民衆に問うた。

 

「世界最強は?」

 

 答えは、聞かずともわかるだろう。

 

 

 エルコンドルパサーの凱旋が終われば、次にはサイレンススズカの復帰戦があるし、ジャパンカップもあるからまったく忙しい。私も復帰のためにたくさん練習してるから、最近はてんてこ舞いで大変だ。

 忙しく日々を過ごしたら、もうサイレンススズカの復帰戦である。レースは特別オープンで、有力な奴がひとりいる。これはサンバイザーをつけた奴だ。

 別段心配なんかしてはいないのだけれど、せっかくなので私たちは、レース場でサイレンススズカの復帰戦を見ることにした。ただスペだけは、間近にジャパンカップがあるからと見に来ていない。しようがない事だが、あいつが来ないのは何だか珍しいものだ。

 会場に着くと、特別オープンなのに人でごった返している。流石にサイレンススズカの復帰戦とあっては、みんな一目拝みたいと思うらしい。

 スピカの奴らと合流したら、ちょうどパドックのランウェイにサイレンススズカが出てきた。見た感じでは、怪我の前とそんなに変わりないような仕上がりだった。怪我した足も問題は無さそうだった。

 

 見せが終われば、少し間を置いてゲート入りの時間だ。ターフに出たサイレンススズカは、どこか浮ついた感じで、なんだか集中しきれていない。しかしそれは、どうも緊張の類ではなくて、感慨に耽っているような様子だった。大方久しぶりに踏んだ芝の感触に、感動か何かを抱いたのだろう。

 全員がゲートイン完了して、数秒後にはゲートが開く。みんなが揃って綺麗に飛び出したが、サイレンススズカだけは出遅れて最後尾になった。逃げを得意とするあいつにとっては、急に厳しい展開だが、走る姿はなんだか余裕そうに見えた。

 レースは終盤まで何事もなく進んだ。サンバイザーとかいう奴が、コーナーで仕掛けて一気に前に出ると、そのままハナを奪って先頭に立つ。サイレンススズカはまだ後方だ。

 会場の空気はあまり良くない。やっぱり復帰は厳しいかなんて声も聞こえた。だがサイレンススズカは、ここで終わるような奴ではない事は、私たちが一番よく知っている。今に巻き返してくるに違いないと思っていた。

 直線にはいると、ついにサイレンススズカが動いた。生粋の逃げ足を、ここでは差し足にして、集団を一息で捲り上げて先頭に迫る。その勢いはとにかく甚だしくって、側から見たら弾丸みたいだった。追われるサンバイザーは必死に走ったが、勢いに乗ったサイレンススズカには敵わなかった。サイレンススズカは、復帰戦を堂々の一着で飾ったのだった。

 こう見せつけられちゃ私も気合いがはいるもので、来年と言わずに今すぐ復帰したい気持ちになった。これはもう発散しないとうずうずして、にっちもさっちもいかないくらいだ。

 ただそれを干物に言ったら、はっきりダメと言われてしまった。どうしてもかと聞いても、どうしてもと返ってくるから、ものすごく不満で不満である。

 しようがないので、フクキタルに慰めてもらうことにした。




今回は短くって、簡素で申し訳ないですが、あとひと月くらいで元に戻ると思います。
ちょっとした報告も、皆さんに出来るかも……?

 吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
 本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
 以下のサイトにてDL可能ですので、まずは体験版からどうぞ。

【DLsite】
 https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ369814.html

【メロンブックス】
 https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1199029

GLタグいる?

  • いる(鋼の意思)
  • いらない(どこ吹く風)
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