後書きにお、ちょっとしたお知らせがありますよ……。
バカ騒ぎもひと段落したら、エルコンドルパサーはすぐにジャパンカップ参戦を表明した。ジャパンカップにはスペが参戦するから、あいつにとっては世界に挑むようなものだ。これに勝てば日本一の称号も盤石であるから、是非とも頑張ってほしい気持ちだ。
私の、復帰に向けての練習は順調である。練習は、基本的に干物の指示で、由緒正しい坂路往復をしているのだが、これがとっても辛い。
前にも坂路往復はやったことがある。その時と同様に、フクキタルと併走しているのだが、十本もやらせるんだからとても嫌だ。終わる頃にゃヘロヘロで、フクキタルに介護されてばっかりになる。こんなのを何度も続けてたら、そのうちに干物になってしまう。干物の担当が干物になってちゃあ世話ないもんだ。
ライスシャワーが言うには、ミホノブルボンという奴はこんな程度じゃちっともへばらないそうだが、本当なら、そりゃあウマ娘の皮を被ったターミネーターだろう。もしターミネーターじゃないならロボコップだ。さっさとハリウッドに行くがよろしい。
他はどうかと言えば、メイショウドトウは有マ記念に向けて追い込み中だし、先日デビューしたばかりのエアシャカールも鬼気迫る様子だ。ライスシャワーとウイニングチケットも、ふたりに当てられて気合がはいっている。以前と変わらない様子でいるのは私たちだけだから、ちょっと不安にもなった。
「最近は、チーム全体が気合いはいってますね」
「みんな凄いもんだ。こりゃ私も頑張らないとダメそうだ」
「あんまり無理したら嫌ですよ……」
「そうも言ってられない。干物に言われたらやらなきゃならないんだ」
「むぅ……」
「そう心配するもんじゃないよ。私ってのは頑丈だから、これくらいじゃへこたれないんだぜ」
「でも、辛くなったら言ってくださいね。私は味方ですから」
「私をダシにしてイチャつかないでほしいなぁ⁉︎」
「やべェなあいつら……独身女相手に当てこすってンぞ……」
「トレーナーなのに、あんなふうな扱いで……うおおおおおん! か゛わ゛い゛そ゛う゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
「わあ……!」
「な、泣いちゃった……!」
「君ら坂路五本追加なぁ!!!!!」
そういう時は、たいてい干物を弄り回した。誰も案外ノリが良いのですぐ乗っかるのだ。
シリウスでこうした日々を過ごしていたら、何だか不安もなくなるんだから不思議だ。
そのうちサイレンススズカが重賞復帰戦で、見事に一着を取ったと知らせが来た。最後方からごぼう抜きの勢いだったと言うんで映像を見せてもらったが、なるほど気持ちの良い走りっぷりだ。こんなレースをされては、スペも私もこれは負けてられないなと益々の気合がはいった。
特にスペはジャパンカップが控えているから、気炎の程度も甚だで、今のこいつに勝てる相手がいるのかとさえ思うほどである。
やがてジャパンカップの開催日となった。空は天晴れな秋晴れで風もない。
誰もがこの一戦を待ち焦がれて、その時を今か今かと待っている。スペのお母ちゃんもこれを見に来ているそうだ。私たちシリウスもみんなでスペとエルコンドルパサーを応援に行くんだ。
レース場に着くと、人でごった返しているのはいつものことだが、今日ばかりはいつにも増して人波が大きい。平日の朝の駅だってこれよりはまだ空いてるだろうと思うくらいである。こんなじゃあスペのお母ちゃんを探すのは難しそうだ。
人ごみをかき分けて前列へ行くと、もうスピカの奴らがいる。声をかけたら沖野が真っ先に反応して、次にはサイレンススズカ以下が声を返した。
スペは勝てそうかと聞くと、みんなは声を揃えて勝てると言う。沖野だけは五分五分だろうと答えたから、エルコンドルパサーはやはり強敵だ。
「お前は行かなくていいのか?」
沖野に言われて何のことだと返したら、グラスワンダーと、キングヘイローと、ハルウララは出走するふたりの激励に行ったぞと言われた。
なるほど、いかにも友人想いなあいつらのやりそうなことである。私はちょっと違って、そんなことをする気はなかった。でも別段、薄情になったわけではない。
「スペシャルウィークってやつは、もうそんなことをしてやるほど子供じゃないんだ」
沖野は呆気に取られたあと、そりゃそうだなと声を上げて笑った。
実に気持ちのよさそうな笑顔であった。
ファンファーレが鳴り響きと、出走するウマ娘が次々と緑の上に現れた。
スペとエルコンドルパサーが衆目の前に出ると、スタンドが爆発したみたいな歓声を上げたから、ちょっとびっくりした。
歓声がある程度で止むと、やがて全員がゲートにはいり、出走の構えを取る。スペが十三番でエルコンドルパサーが十四番と、隣同士だった。
一秒、二秒と経って、スタンドが完全に静まったのと同時に、ゲートが開く。ジャパンカップが始まった。
双方の作戦は、共に差しである。スペもエルコンドルパサーも後方待機に徹していて、レースを引っ張る逃げは外国のウマ娘だ。
第二コーナーから向こう正面ではやや縦長になり、沖野のストップウォッチでは一分十二秒のペースである。
おそらく大ケヤキを越えるまでは決定的な動きはない。そう断言したエアシャカールの分析は確かで、実際第三コーナーにはいるまではこのままであった。
大ケヤキに差し掛かると、スペとエルコンドルパサーが上がる気配を見せて、バ群の外からゆっくりと上がっていくのが見えた。そのうちコーナーを抜けると、双方が一気に坂を駆け上がって、凄まじい競り合いを始めた。
観客一同がワッと声を上げて、ふたりの名前を呼び始める。
最後の五〇メートル。
ゴール近くにいた私も、柵から身を乗り出すと思いっきり息を吸い込んで、スペに勝てと叫んだ。
私の声はたしかに届いたらしい。
スペが獰猛に笑って、一歩を強く踏み込んだのが見えた。
次には、きっと錯覚だろうけれど、スペの右脚が轟音を発した。
エルコンドルパサーも獰猛に笑ってさらに前に出る。クビか、いやハナ差か。お互いがわずか数センチの差を奪い合い、先へ行こうと速度を上げていく。
そうして、ふたりはほとんど並んでゴール板を踏み越えた。
轟々と鳴り響く歓声の中で、写真判定を行う旨が放送された。
どちらが勝ったんでしょうかとフクキタルが言った。私はスペの勝ちだと返した。ふたりは誰の目にも互角の戦いを繰り広げていた。だが私の眼にはスペの勝ちと見えていた。
そのうち会場が静かになって、パッと掲示板に着順が灯った。
一着は十三番で、二着が十四番。
スペの勝ちであった。
再びスタンド全体がワッと声を上げる。実況が日本総大将と呼び讃える。スペとエルコンドルパサーが抱き合ってお互いの健闘を讃え合うと、声はさらに大きくなって空を震わせた。
レースが終わってからしばらく空いて、ウイニングライブが始まる。無論、私はフル装備でいる。
まずステージでスペにインタビューが行われたのだが、そこであいつはいろんな人々への感謝を伝えた。
産みのお母ちゃん、育てのお母ちゃんはもちろん、沖野に、スピカの奴らに、それから多くの強敵にと、言う事は盛りだくさんで、
「いつも、背中を見せてもらっていました。いつも、背中を追いかけていました。悔しいことや苦しいことがあって、悩んじゃって、立ち止まることもありました。けれど、その度にいろんな人に助けられて、手を引いてもらって、やっと……日本一のウマ娘になるという夢を叶えられました。……だから、これからは! 私が背中を見せる番です!」
そのうえで、スペは私への感謝を伝えた。
「お姉ちゃん……私、待ってるから! 日本一のウマ娘として、待ってるから! 絶対、絶対追いついてきて! 私の隣に来て、私を追い越しに来て!」
それを聞いた私は、安心したような悔しいような気持ちになった。頬を一筋の涙が伝っていった。柵を握り締める手を温かいものが包んだ。
私はひとり頷いて、大声でスペに言った。
「来年の有馬記念で、お前に勝ってやるぞ!」
「うんっ!」
隣で笑っていたフクキタルが、フル装備できたのは失敗でしたね。と茶化して言うから、私はうるさいと返して泣き笑いした。
果たさないといけない約束が、またひとつ、増えてしまった。
突然ですが、2022年1月10日に行われる地方イベント「おでかけライブin札幌」にて「吾輩はウマである」で参加ことにしました。
内容としましてはダービーまでのお話に加筆修正したもので、一部展開の変更、追加などがございます。ハーメルンの方とはまったく同じではありませんので、よろしくお願いします。
ただ、こちらは印刷費削減のために挿絵は入れないつもりですので、注意ください。
一応、後日には挿絵とおまけの小話をつけて電子書籍化する予定ですので、申し訳ありませんがご了承ください。
では、良いお年を。
吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
以下のサイトにてDL可能ですので、まずは体験版からどうぞ。
【DLsite】
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ369814.html
【メロンブックス】
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1199029
GLタグいる?
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いる(鋼の意思)
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いらない(どこ吹く風)