大幅アプデで私のフクキタルがさらに強くなっちゃいますねえ!!!!!!
えっ?フクキタルの同部屋がマチタン?
俺のログには何もないな。
私の復帰は特別オープン戦から始まる。阪神芝1800メートルの、一枠一番が私だ。復帰にはちょうど良いだろう。
干物はここからもうひとつ、金鯱賞を挟んでから大阪杯を目指す予定だと言っていた。大阪杯にはセイウンスカイが出ると聞いている。あいつとの戦いを万全にするためにも、私は負けるわけにはいかないんだ。
枠順までが決まってついに走るぞとみんなに報告すると、必ず見に行くとの答えが返ってきたんで、安心して見に来ると良いなんて返してやった。
電話で外国にいるスペたちにもそのことを伝えたら、グラスワンダーはここから応援していますねとしとかやに言っていたが、スペはずいぶん見に行きたかったと歯噛みしてサイレンススズカに嗜められていた。私になんも言わずのまま外国へ行ったんだから、これはちょっと良い気味だと思った。
それから当日になって阪神レース場に行くと、サイレンススズカの時と同じように観客席が人で埋まっていた。自惚れてるってわけでもないが、私ってのは存外に人気のようだ。
パドックでも待ってたよ、復帰おめでとうと観客一同から声をかけられて、鼻高々にこりゃ負けられないなと意気込んだが、控室では干物から無理はしたらダメだからねと念押しされてしまったから、無論出来るだけをやるつもりだとこれに答えた。
フクキタルは特に入念で、私の脚をベタベタ触っては心配したぎりだ。そりゃウマ娘の脚ってのは脆いもんだが、頑丈が取り柄の私にはいらん心配である。誰かを庇ったならともかく、自分で転ぶんじゃあ滅多な怪我なんかしないもんだ。
そうむやみに慮るものじゃないぜと言って、右腕にグッと折り曲げて力瘤を見せつけると、フクキタルは呆れたような感心したような顔をして「わかりました。でも無茶だけはしないでくださいね」と笑った。言われなくたって無理も無茶もするつもりはないんだから、ちゃんと走る腹積りである。
係員に呼ばれたんで、控室を出て地下バ道を歩いていたら、復帰おめでとうございますと他のウマ娘に話しかけられた。名前は知らない。ただ京訛りがあったから西の方から来たんだとわかった。
えらい事故やったけどよう復帰できはりましたなぁ。一年も走っとらんと、こういうのも懐かしいんとちゃいますかと話しかけてきたこいつは、嫌味とかではなく単純に私を気遣っている。
京都人ってのは全員嫌味なヤ奴だと聞いていたから、私はこいつの素直さに感心して、そりゃ懐かしくって変な気持ちだと素直に答えてやった。
するとこいつは笑顔になって、今日は胸を借りるつもりで、走らせてもらいますねと笑顔を浮かべた。
話していたら他の奴が来た。今度は九州かどっかの奴みたいで、道ん中で喋るた女々か。ウマ娘ちゅうんなら走りで語らにゃいけんと言ってきた。
九州らしく豪気なウマ娘だ、しかし礼儀を知らないから京都の奴がムッと耳を絞って、まあ力強いお人やねえと嫌味ったらしく言い返した。無論これには九州の奴も面白くなさそうな顔をする。
京のもやしっ子、おまん名はなんちゅう。ああやっぱ言わんでよか、どうせ撫で切りじゃ。木端の名前にゃ興味なか。
あらあらまあまあ薩摩っ子はえらい強ぉございますな。口もお上手で、こら親御さんの教育がよう染みとりますわ。
売り言葉に買い言葉で、急に私を差し置いて一触即発みたいになっている。なんだかくだらないんで、そう走る前に力んでちゃ勝てるもんも勝てないぜと言って、さっさとターフの上へ出てしまった。後ろからはふたつの慌てた足音があるばかりであった。
ターフに出ると、歓声が耳をつんざいた。声は半分以上が私に向けられたもので、だいたいが復帰おめでとうだとか待ってたよだとか、そういう類の言葉であった。
手を振って応えてやると、ますます歓声は大きくなったから得意になった。パドックでもそうだったが、こう応援されちゃ否が応でも気合が入るってものだ。
軽く準備運動をしてからゲートに入ると、久方ぶりである、音と景色が遠のいて行く感覚があった。レースに戻ってきたのだと知らしめるそれは、私に程よい気付けとなっていた。
中腰に構える。
ゲートが開く。
半歩遅れて飛び出す。
私の身体は一連の動作を寸分違わず覚えていた。一年もレースを離れていたというのに、やることにちっとも狂いがないから自分でもなんだか嬉しく思った。私はまだ、走れるのだと自覚した。
昨日から今朝にかけて降り続いた雨の影響で重バ場になったレースは、九州の奴が逃げで引っ張っている。このまま差を広げて押し切る算段と見えた。京言葉の奴は中段後ろの内にいて、ラチに添いながら脚を溜めている。
私はといえば最後尾である。マイルってのは短いようでちょっと長いが、やることに大した違いはない。後ろから捲り上げる、それだけだ。だから私はこのレースでもそうするんだ。
コーナーに入ると、京言葉の奴が前に行き始めた。中段の後ろから先頭へ出て、そのまま九州の奴に狙いを付けている。九州の奴は我関せずで走っている。
バ群も同じように外に寄っていて、内側にはポッカリ穴が空いていた。内側はいささか以上に荒れ気味だ。誰だって好んで走ろうとは思わぬ。
無論、私はこれを突く。最終コーナー前で息を入れてグッと足に力を込めると、空いている内側に向かって突っ込んだ。
はいってみると、なんてことはない。田んぼを走ってるようなものだ。走りにくいは走りにくいが、嫌な顔して避けるものでもない。幾分か衰えたって、これでも力は強い方なんだ。こんな程度はへっちゃらだ。
荒れた内側を駆け抜けていくと、バ群がみんなギョッとした顔をして私を見る。わざわざ荒れた場所を突っ切ってきたんだから驚いて声も出ないんだろう、良い眺めである。ただ京言葉の奴だけは、感心したような顔をして速度を上げたから気になった。こいつはなかなか不敵である。
ふたりして最終直線にはいると、九州の奴の真後ろまで来た。こいつもまたギョッとした顔をしている。いい気味である。あとはこいつを抜いてしまえば、それでレースは終いだ。ただちょっと距離が足りるかどうかだけが心配なだけだ。
しかしそれも杞憂であった。50メートルまで来るとチェストと叫ぶ九州の奴を抜いて、私はそのまま一番でゴール板を横切った。重バ場のせいかタイムはそう出ていなかったが、復帰一番のレースにしちゃあ上出来だろう。
速度を緩めた私が堂々として右手を上げると、観客席から轟々と歓声が上がった。去年までは歓声を上げる側だったが、浴びる側に回るのはやはり気持ちが良いものだ。
ひと息吐いて立ち止まったら、敵いませんなあと京言葉の奴が来た。ブランクもあるちゅうにちっとも追いつけへんのやから、自信無くしますわぁと肩を竦めるので、単簡に勝てちゃ面白くもないだろうと返してやった。そしたら京言葉の奴は頷いて次は勝たせてもらいますねと言うから、私はそうするがいいと大いに笑った。
京言葉の奴がこれなら九州の奴はどうなのかと思ったが、おいは恥ずかしか、生きてはおれんごっ! と悔しそうに蹲っていたから呆れた。気持ちはわからないでもないが、高々負けの一回で大袈裟だ。
私は九州の奴に近付くとさすがに薩摩っ子は手強かったぜ。と右手を差し出した。涙目をこっちに向けた九州の奴は、ちょっとだけぼけらとしたあとに私の手を取って、世辞でもダービーウマ娘に言われんのは嬉しかと立ち上がって笑顔を見せた。
久方ぶりのウイニングライブはつつがなく終えた。1年ぶりにステージに立ったが、景色は相変わらず壮観だ。さすがにスペがいないのはちょっと寂しかったが、いつもの奴らとシリウスの全員がいたからそう悲しいことはなかった。
戻ったら真っ先にウイニングチケットが大泣きしながら「よ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛!」と抱きついてきた。ライスシャワーも「何にもなくてよかった」とつられて泣くから困ってしまう。エアシャカールはいつも通りで、予測データより遅いンじゃ大阪杯は話にならねえぞとそっぽを向いていた。
干物はいかにも怒ってる顔でため息混じりに、勝てたからいいけど、荒れた内側でスパートはもうやめてねと言うから、私は九州の奴の真似をして誤チェストにごわすとおどけて視線を逸らした。
フクキタルは何も言わないで、私たちのことを見守っていた。混ざれば良いものを遠巻きに微笑ましい物を見てるみたいで、あれじゃお姉ちゃんってより母親ではないか。よっぽど今度からママって呼んでやろうかと思ったくらいだ。
ただ寮に戻ったら抱きしめられて「無事に走り切れてよかったです」やら「頑張りましたね、えらいですよ」やらと散々に褒めそやしてきたから、案外本当に呼んでみても良いかと考えてしまった。実際にやってみるのも面白そうだが、しかしそれでスーパークリークのようになられても困るので遠慮しておいた。
私にはお姉ちゃんで十分である。
吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
以下のサイトにてDL可能ですので、まずは体験版からどうぞ。
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GLタグいる?
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いる(鋼の意思)
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いらない(どこ吹く風)