ところで私の推しテンポイントさんはいつ実装されるので?
大阪杯での大敗。
私ってのは脳が悪いから、セイウンスカイの術中に嵌められたのだと思っていたが、どうもこれは様子が違うらしい。
「にゃはは〜、まっさかあんな簡単に勝てちゃうなんてね〜」
レースが終わったあと、地下バ道で拍子抜けした顔をしてるセイウンスカイは、表情に困ってる私を見て呆れたものだと苦い顔をしていた。
「ふざけないでよ。せっかくリベンジできると思ったのに、台無しじゃん。いろいろ考えてたのにさ、なにあの腑抜けた走りは? ……勘弁してよ」
怒気を滲ませながら去っていく彼女に対して、残念ながら私は返す言葉を持っていなかった。不甲斐ないもので、黙って叱責を受け入れる以外をできずに、ぽっかりと穴が空いた気持ちで、そこに突っ立っていたのであった。
立ち直って控室に戻っても、なんだか不思議な気持ちで、負けた事実をどうも私自身が認識してないようだった。干物の何を聞いたって、うんとかそうかとした言うことはなかった。
シリウスの奴らにだって、似たようなものだ。違ったのは声をかける代わりに、ずっとこちらを睨めていたエアシャカールくらいなものだ。
「大丈夫ですか」
フクキタルに声をかけられて、それでやっと自分の身体になった気がした。負けた事実を受け入れて、悔しい気持ちってやつが込み上げてきた。
「大丈夫なもんか。こんな負け方して大丈夫な奴は、犬にだっていないもんだ」
「それは、そうですが……」
「私にも領域ってやつがあれば、負けなかったんだ。士道不覚悟じゃないか」
こう言ってぐぬぬと歯噛みしてると、干物が困ったような呆れたような顔で釘を刺してきたので、私は不機嫌に鼻を鳴らしてやった。
「……そんな簡単に出るものじゃないんだよ、領域っていうのは」
「京言葉のあいつは金鯱賞で出してたじゃないか。なら私だって出せるんだろう」
「だとしても、それだけが勝負を決める要素じゃない」
干物は私の言葉に首を振ると、言い聞かせるみたいに続けた。
「今回の惨敗は、私が悪かった。君のブランクを考慮してなかった。私が、ミスしたんだ。一年も離れていたんだから、身体だけじゃなくレース勘だって鈍ってる……それを考慮してなかった」
私はむっとして押し黙った。私の負けを盗られたのは癪ではあったが、干物の反省を奪うってのもまた違うから、言葉を飲み込んでしまったのであった。
「そうだよ、ここからだよ! ダメなところがわかったんだから、直して次に繋げればきっと勝てる!」
「ライスたちも手伝うから、一緒に頑張ろう?」
ふたりにも言われてしまったから、私はちょっと拗ねたみたいに唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。
「次は勝つ」
「うん、勝とう」
干物が頷いて、それで部屋の雰囲気が明るく戻る。それでここでの話は終わったと思ったのだが、メイショウドトウとエアシャカールはだんまりを決めこんだままだったから、この話はずいぶんと後ろまで尾を引いた。
そしてこの日の夜、大阪杯を勝ったセイウンスカイと、高松宮記念を勝ったキングヘイローが、海外挑戦を表明した。
それぞれメルボルンカップ、ムーラン・ド・ロンシャン賞である。これで黄金世代と呼ばれるやつはみんな海外に行ってしまったんだから、寂しいったらありゃしない。帰ってきたら全員まとめてコテンパンにしてやろうと思ってる。
私の次走は、天皇賞・春である。3200mの長距離は骨が折れそうだが、負けてやるつもりは毛頭ない。ましてやメイショウドトウとテイエムオペラオーが出るのだ。本気でやらなきゃ悔いが残るってもんだ。
私が練習をするにあたり、メイショウドトウとエアシャカール以外の3人が、付き合ってくれた。メイショウドトウは出走者だし、エアシャカールもダービーに向けて追い込みをしているから、どうしたって一緒にはできないのである。
肝心の練習ってのは、駆け引きの感覚を取り戻すものだ。3人が前を走って私をマークする。私はそのマークを抜けて前に出るか、出し抜いて外に持ち出すかして先にゴールしなきゃならない。勝率は今の所半々くらいで、まずまずの仕上がりと言ったところだ。
テイエムオペラオーが出るってなら、9割は欲しいもんだ。干物は本調子じゃないのによくできてると言うが、半々でよくできてるならなんだってできてらあ。
それに領域もまだとっかかりすら掴めてないんだ。こんなんじゃあ勝てる試合も勝てないままになる。そんな悔しいことにはしたくない。なんとしても領域をものにしなきゃならないんだ。
時間がない中で四苦八苦していると、私のところへテイエムオペラオーが来た。こいつはいつもみたいに笑いながら現れて、こう言って来たのである。
「君と戦うのを楽しみしていたよ……さあ! アーサーとモルドレッドのように! 激しく! ぶつかり合おうじゃないか!」
相も変わらず仰々しくって敵わないが言いたいことはわかるんで、私もふんぞり返ってこれに答えてやった。
「もちろんそのつもりだ。冠を返す準備をしておくんだな、王様」
「……! ハーッハッハッハ! それでこそボクのライバルだよ!」
テイエムオペラオーが哄笑して右の拳を差し出した。私もなるべく不敵に笑って、右の拳をぶつけてやった。
天皇賞・春は負けられないレースになりそうである。
シリウスシンボリってやつは存外暇なやつらしい。私が食堂で飯を食べようとかぼちゃコロッケと一緒に席に着いたら、シリウスシンボリが真正面にどかりと腰掛けて来て、にやついて私に話しかけた。
「春の天皇賞に出るんだってな。大阪杯であんな負け方したってのに、図太いもんだ」
「そりゃあ出るだろう。ちょっと負けたくらいで、それで止めるんじゃあウマ娘でなしだ」
「そりゃそうだ! だが、ちょっとはわかったんじゃねえか。己の限界ってやつが」
シリウスシンボリはこう言ったが、私は特段、限界なんてものを感じたことはなかった。考えないようにしていたのかもしれないが、とにかく私はまだまだ勝てるつもりだった。
「領域を見たいんだろう?」
言われて私の耳が反応すると、シリウスシンボリがおかしそうに笑った。
「その様子じゃ、ずいぶんご執心のようだな?」
「お前には関係のないことだ」
「私が領域を使えるとしてもか?」
私は押し黙った。薄々はそうだと思っていたが、ここで言われるとは思ってなかったから、対応する言葉を用意していなかった。
私が口を開かないでいると、シリウスシンボリは「ところがぎっちょんってな」とわざとらしくニヤついた顔をして話を続けた。
「領域について教えてほしいってなら、お前にだけ教えてやる。私はお前を買ってるからな、優しく、手取り足取り、教えてやるよ。もちろん、相応の対価は払ってもらうがな?」
「お前に買われたつもりはない。お前に何か言われたって、私は私で領域を掴むんだ」
「ハッ、威勢がいいねぇ。そうでなくっちゃあ落とし甲斐がない……天皇賞、楽しみにしてるぜ?」
シリウスシンボリはそう言って、席を離れていった。
これで落ち着いてやっと飯を食えると思ったら、少ししてシリウスシンボリがまた真正面に座ってきた。手持ったトレーにはメンチカツが山ほど乗っていやがる。
「おい、まさかここで食うつもりじゃないだろうな」
「そう邪険に扱ってくれるなよ。お前と飯を食いたいと思ったから来たんだぜ?」
「勝手にするが良い」
「ああ、勝手にさせてもらう」
そう言うと、シリウスシンボリは本当にここで飯を食い始めたから、私は呆れてモノも言えなくなった。良くも悪くも変なやつに目をつけられたもんだ。
そういえば私ってのは、こっちに来てからずっと変なのに目をつけられている。スペの周りにはまだまともそうな奴ばっかりで、私のところには色物ばっかりいるんだから、世の不公平を感じ入る次第である。
吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
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GLタグいる?
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いる(鋼の意思)
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いらない(どこ吹く風)