聞いてるのかメジロマックイーン!!!!
なんだそのぷにぷにほっぺは突っつかれたいのか!!!???!?!?
今日は朝からフクキタルの機嫌が有頂天というに相応しい状態にあった。朝から何を騒いでいると聞けば、テレビの星座占いで一位だったと言うので、くだらないから二度寝した。
授業には危うく遅刻するところであった。
昼になってすぐ、チームスピカの部室に怒鳴り込んだ。何故そんな無闇をしたか問われれば、昼時になってスペに会うと、何やら酷く不安げにしていたからである。
いったいどうしたと聞けば、チームにはいった途端一週間後にメイクデビューすることになったと言うから、そんなばかな話があるものかと閉口した。
元から中央に居たのならばともかく、我らはここに来て一週間と経っておらぬ。こちらの勝手もわからぬ上に、ここのターフを走ったのだって昨日が初めてだ。それを承知で今からすぐデビューさせようなど、性急も性急で気狂いの判断だ。
詳細を問いただせば、どうやらここへ来た時分にレース場で痴漢を働いた沖野という奴が、今回の原因であるらしい。
あれの下にスペがいると言う事実の方がよっぽど心配だと思ったが、それよりもまずこんな判断を下した沖野の真意を確かめるのが先決であろう。これはひとつ文句も言ってやらねば気が済まんので、スペの制止も聞かずに大股でスピカの部室に殴り込みをかけた。
部屋に入るなり奴の姿が目についたので、いかにも軽薄そうなその顔を目掛けてやいお前、こいつはいったいどう言う了見だと問い質した。
すると沖野は、まあ落ち着け。そんなに凄まれちゃあ落ち着いて話も出来ないだろう。と私が来るのを予想してたみたいに毅然として言うので、私は頗る冷静だと返してやったら、後ろからゴールドシップがどこが冷静だよと囃したから、これをだまらっしゃいと一喝した。
再度この邪智暴虐なトレーナーに問い質すと、こいつは心底呆れたような溜め息を吐いて、スペの意見は聞いたのか。と問い返して来たから私の攻勢が崩れた。
そういえば事の詳細を聞くばかりで、スペがどのような考えを持っているかは聞いていない。不安だとは言ったが、はたしてそれの正体すらも聞いていない。
言葉を詰まらせていると、沖野が勢いだけで来たのかと言わんばかりに呆れた顔をする。口惜しく唸っていると、スペがだから待ってって言ったのに。と後ろから突き刺して来たので、ついにはもう何も言えなくなってしまった。
何かわからぬ敗北感に苛まれつつもスペの話を聞けば、スピカに所属すると決めたのは自分の意思であり、メイクデビューすることにも不満はないと言う。それならばいったいなにが不安なのだと問えば、別に不安はないが強いて言えばこういう結果になりそうだったから不安だったのだと言う。
思わず、沖野とスペの顔を見比べる。一方はかける言葉もないと首を振り、もう片方は何とも言えぬ苦笑いを浮かべてこちらを見ている。
つまるところ、何もかもが勘違いの早とちりであった。
気付いた途端に居た堪れない空気が漂い始めたので、私は芝居掛かって姿勢を正し沖野に向き直ると、いやあお騒がせして申し訳なかった。妹分のスペが大事なもので。と謝罪して面目を保とうとした。
しかし後ろのゴールドシップが、いやそれで誤魔化すのは無理だろ。と言って来たからあえなくここで撃沈となった。
親譲りの無鉄砲で損ばかりしている。今も昔もそこは変わらぬ。
己の恥晒しにぐぬぬと歯噛みしていると、スペが真剣な顔をして私の名を呼んだ。何かあるかとそちらに向き直ると、数秒の間を置いてから「ダービーで待ってる」として宣戦布告して来たから眼を皿のように見開いた。
私とスペの目指す所は同じである。ダービーとは生涯に一度しか出られぬレースであるからして、ここひとつしかない席を輩と争うのは得策ではない。だがスペはそうは思わぬと首を振り、「私は戦いたい。どっちが強いのか、どっちが日本一に相応しいのか、あの大舞台で白黒決めたい」と凛乎な顔で言うから私も覚悟が決まった。
面と向かってそう言われては、こちらも逃げる訳にはいかぬ。覚悟には覚悟で報いねばウマ娘の名が廃ると言うものだ。
右の拳を突き出して日の本一の頂は譲らんと宣言してやると、スペは右の拳をぶつけて、私だって負けてやらないから。と強気に笑うから痛快である。
放課後になって、メイショウドトウを連れてシリウスの部屋に行くと、フクキタルが水晶玉を前に何かしている。何をしていると聞けば、シリウスの行く末を占っていると言うからくだらない。委細を聞かずにメイショウドトウに相手を任せた私は、さっさと干物がいる奥の部屋へ向かった。
部屋にはいるなり死人の顔色をした干物が私の顔を見て、メニュー考えといたよ。と書類挟みを渡して来た。受け取ってみれば、文字がびっしりと連なっているから驚いた。
読み進めていくと、どうも専用に調整した内容であるらしく、瞬発力を中心に足腰のバネを鍛える鍛錬と、どうしてそれらの鍛錬を行うのかという理由までが紙を跨いでまで連なっている。しかもそれが一週間分すべてに書かれているのだからとんでもない。
一日でここまで考えたのかと聞けば、まあトレーナーですから。と何でもないふうな答えが返って来たが、机に積まれた書類束の奥に隠してある栄養ドリンクの空壜たちを私は目撃している。
何故仮入部の奴にここまでするのだと聞けば、貴女の夢を聞いた時に、その夢を全力で叶えてやりたいと思ったから。と言うから、なるほどこいつは見た目は干物だができる奴だと見直した。
会って一日しか経っていない上に、まだ所属すら決めていない私の鍛錬を、こうまで真剣に考えてくれていたことからも、こいつのウマ娘に対する愛情はこと深いと理解できる。死ぬことすらできん、と言うのは訂正すべきだろう。
だが、こんな仮入部の奴を相手に無理をするようでは、こいつを心底から信頼しようとは思わぬ。大方崩れかけたチームのためにほとんど寝ずに働いていたのだろうが、それで己が壊れてしまっては元も子もなかろう。
命も身体もひとつしかないのだから、大事に使ってもらいたいものだ。
健康とはかけがえのない物だ。
何かあってからでは取り返すには遅く、幸せ悪くしてからでは死ぬことしかできん。こいつはそうなってほしくないものだ。
私は書類挟みをほっぽり出して、お前の考えはわかったがそれで無理するのは通らん。と叱り飛ばして干物を仮眠室にぶち込んでやった。運んでいる時に何か騒いでいたが、貴様がしっかり寝るまでは訓練はせんぞと叱れば、すっかり大人しくなった。
二人の元に戻ると、地面を転がるなど妙なことをしている。何をしているのかと問えば、占いの結果が悪かったから開運祈願していると言うから呆れた。
そんな事をしている暇があったら手伝えと二人を立たせて台所に向かい、冷蔵庫に残っていた食材を使って雑に飯を作った。こいつは干物が起きた時に食う分である。
玉葱を切っていると、料理できるんですね。とフクキタルが失礼な事を言うので、乙女の嗜みであると返しておいた。やんちゃ盛りの時分、花嫁修行させれば少しは大人しくなるかと無理やりやらされた料理だが、存外役に立つからわからぬものだ。
干物の様子を見に行くと寝台の上でもぞもぞしていたので、さっさと寝ておけばか者と叱りつけてやった。これで寝ないのならば無理やり寝かしつけてやる所存だ。
飯を作ったなら次は片付けである。
外面が張りぼてなばかりでなく、中身がごみ屋敷では来る者も逃げ帰るであろう。三人で手分けして要る物と要らない物に分けてから、箒と雑巾で手当たり次第に掃除して綺麗にしてやった。
粗方仕事を終えてからもう一度干物の様子を見に行くと、今度は静かにして寝息を立てているから安心した。これで起きていたらどうして寝かしつけてくれようかと思っていた所である。
枕元に明日には入部届を持ってくるから、それまでにしっかりと休んでおけという旨の書き置きを残して部屋を出ると、外で待っていたらしいメイショウドトウとフクキタルを連れて寮へ戻った。
二人がやたら笑顔でいるので少しばかり居心地悪くなったが、どうせこれが日常になるのだから些細な事である。
寮に戻るとフジキセキから、会長が呼んでいたよ、と伝えられたから、斜陽の差し込む生徒会室にてシンボリルドルフとエアグルーヴの前に居る。
いったい何用ですかと一番に問えば、シンボリルドルフがうむと頷き、学園の施設案内はまだだろう。こちらで案内としてメジロマックイーンを用意したから、彼女と一緒に一通り見て廻って来てくれ。と仰るから、改めて隣にいる芦毛のウマ娘を見た。
こいつはメジロマックイーンと言う奴で、先にここに居て茶を飲んでいたようなのだが、どうも良家の出らしく、よろしくお願いしますわ。と恭しい態度で握手を求めてくるからやり難い。
こんな悪童相手に恭しくする奴など滅多に居ないから、こう言う手合いは心底苦手である。こんなのと一緒に学園を回っていては、そのうちに息が詰まって死んでしまいそうだ。
何とも言えぬ面持ちでメジロマックイーンの握手に応じると、シンボリルドルフがふと思い付いたように何か言ったので、もしかしてそいつは洒落ですかと聞けば、そうだと頷いて今しがた思いついたんだがどうだろう。採点してくれと頼んでくるから懲りぬ奴だ。
私が少し考えた後に「ちょっと普通。三点」と答えると、何点満点中だと聞くので百点満点中三点だと言ったら、シンボリルドルフの耳が露骨に下がった。エアグルーヴはでかしたと言わんばかりに無言で親指を立ててみせる。メジロマックイーンに至っては眼を白黒させて私とシンボリルドルフを見比べるばかりで何も言わない。
酷い沈黙だ。こんなでは生徒会ではなく漫才倶楽部である。ターフに上がるよりステージに上がる方が、この駄洒落皇帝も人を笑わせられよう。
何だか居た堪れない空気になった。さすがにこのままでは居辛くなったから、学園を回って来ますとメジロマックイーンを連れて生徒会室を出た。
その後はどうなったか知らんのだが、後日エアグルーヴから茶葉が送られて来たからそれなりの所に落ち着いたようである。
施設は多種多様にあるが、専ら生徒が使う場所と言うのは思いの外少なくある。敷地の半分がコースなのだから当然なのだが、やはり拍子抜けと言うのが感想であった。
メジロマックイーンが案内の最中、マックイーンで良いと言うのでそう呼ぶことにしたが、これが存外にも気さくな奴なので驚いた。
メジロ家と言う名門の出らしいが、こいつ自身はそれを誇りと思っていても地位に胡座をかいて驕っていない。私がダービーで勝つのが夢なのだと言えば感心して、素敵な夢をお持ちなのですね。と言うから気持ちが良い奴だ。
気持ちが良いと言えば、大樹のウロに負けの鬱憤を叫ぶ風習がこの学園にはあるらしい。都会には妙な風習もあったものだが、試しに先日の負けについて叫んでみれば中々に気持ちが良いからばかにできぬ。
一通り叫んでさっぱりしていると、ずいぶんな大声ですわねとマックイーンが驚いているから、尻のでかさと声のでかさには自信があるのだと返したが、まあ、下品ですわよ。とお淑やかに窘められたのは初めての経験であった。
一通り施設を回り終えて、小腹が空いたので学園内のカフェテリアで休憩を摂ることにした。
私がBLTサンドと冷やし珈琲を頼んでいる間も、マックイーンはずっと菓子類の欄と睨めっこをしている。どちらも一歩も譲らん熾烈な争いだ、千日手と見える。
何をそこまで悩んでいるのか聞けば、太りやすい体質だから糖分はあまり摂れないのだと言う。難儀な身体をしている。好きなもんを食えないとは可哀想にと哀れんだら、そう言う貴女はどうなのですか。と剣呑に聞いてきたので、菓子類はほとんど食わんからわからんと答えたら宇宙人を見るような顔をされたから失敬である。
散々に悩んだ末にショートケーキのセットを頼んだが、その割には明日から鍛錬を増やさねばと嘆いているから滑稽だ。頼んでからも悩むならばさっさと軽食を頼めば良かろうと言ってやると、そう言う問題ではないのです! と熱り立って菓子類がいかに素晴らしいかと言うお講義を始めたから疲弊した。
いかにもお嬢様然とした淑女と思っていたが、こいつはとんでもない癖ウマ娘である。どうしてこの学園の奴らはこうも濃いのだ。真面なのは私だけか。
結局この日は消灯直前までマックイーンのお談義に付き合わされたので、しばらく菓子類を見るだけであいつの顔が思い浮かぶようになってしまったからこれはさすがに許せぬ。
あまりにも手酷い仕打ちを受けたので、風呂場で頭を洗い流していたこいつに、ずっとシャンプーをかける悪戯で仕返ししてやった。
流しても流しても一向に落ちぬ泡に惑乱して「私の頭が石鹸になってしまいましたわ!」と間抜けな悲鳴をあげる姿には、溜飲が下がる思いであった。
吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
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