夏目漱石「吾輩はウマである」   作:四十九院暁美

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タイシン当たらなかったしGW6連勤だしで絶不調なので失踪します。
タマモクロスがガチャに来るまで探さないでください。




 今日からシリウスの所属となる訳だが、所属する上で何か気をつける事はあるかとフクキタルに聞いたら、シラオキ様を信じなさいとのたまう。

 シラオキ様とはこいつが崇めている神のような存在らしいが、私は信心深い訳ではないから気が向いたら崇めてやると答えておいた。

 

 昼になっていつもの連中と飯を食っている時、スペと一緒にいよいよチームにはいったから事を始めるぞと宣言したら、真っ先にテイエムオペラオーが素晴らしいと拍手を送ってきたので、役者めいて立ち上がりお辞儀をしてやった。

 グラスワンダーがデビューはいつ頃する予定ですかと聞くので、スペが一週間後ですと答え、私も大見栄を張って一週間後だと言ってしまったから大変である。

 放課後になってトレーナー室に入部届を出しに行くついでにその事を話すと、昨日よりは幾分か顔色の良くなった干物が笑顔で溜め息を吐いて、じゃあ調整しとくよ。と言うから、かたじけないと両手を合わせて感謝を示しておいた。

 

 さても放課後になれば鍛錬であるが、まずはフォームを矯正すると言うので、正しい姿勢で走るように訓練している。

 干物曰く私の走り方は上半身の使い方が未熟らしく、そのせいで、下半身に十分に力が伝わっていないから瞬発力が削がれているそうなので、現在は上半身を中心にして姿勢を矯正している。

 

 この鍛錬にはフクキタルが尾いて、色々と手本を見せてくれていたのだが、これが思いの外参考になったから魂消た。

 普段は占いがどうのと無闇に喚く騒がしいだけの奴だが、ひと度コースを走れば先達として抜きん出た実力を持っているとわかる。

 特に驚異と思ったのは最終直線での加速であった。

 それまでの脚を広くゆったり使った走りから、直線にはいると脚を素早く回す走りへと変化するのだが、その急速な変化は凄まじいとしか言い様がない。何せ側から見てもわかるほどに速度が変わるのだから、こいつの末脚にはいっそ恐怖すら覚えた。

 姿勢はフクキタルを手本にしろ。とは干物の言葉だが、なるほど確かに、こんなものを見せられては頷く他にない。正直に言ってしまえば、あの素晴らしい切れ味には憧れた。目指すならばこうなりたいものだとさえ思う。

 しかしそれを言うと調子に乗るに決まっているので、こいつには教えてやらない。

 

 姿勢を調整した後にはメイショウドトウとシャトルランで併走をしたが、まったくもって立派なものだ。

 私は音に尾いて行けず最後まで走りきることができなかったのだが、こいつはひぃひぃ言いながらも最後まで走りきっていたのだからさすがと言う他にない。テイエムオペラオーに食らいつけるのも、この気弱の下に隠されたど根性がある故なのだろう。

 身体の使い方も上手いもので、脚だけで走っていないのが見て取れる。上半身の使い方が未熟と言うのは、こいつのようにできていないという意味に相違ない。

 まずは目下として、こいつとのシャトルランでは負けんようにしたい所だ。

 

 すべての鍛錬を終えて身体を休めていると、干物がどうだったと聞いてくるので「つくづく私は恵まれた奴だ。何せここに来てから高い壁ばかり目の前にある。登り甲斐があって大変良い」と答えたら、君の向上心の高さには度肝を抜かれるよ。と心底感心した顔をされた。

 

 二人の背を追いながら鍛錬を続けていると、いよいよスペのデビュー戦がやってきた。光陰矢の如しと言うがまったくその通りである。

 いつもの奴らを連れて観戦に来たが、それなりの人数がはいっているのにはいささか驚いた。キングヘイローに聞けば、新人のうちに推しと言うのを発掘して引退するまで追い続けるのが、ウマ娘界隈での嗜みであるらしい。

 どう言う理屈かはとんとわからんが無名の我らにはこと有難い文化であることは確かだと言えば、テイエムオペラオーは「初公演を最前列で見る事こそ、オペラで一番の贅沢だからね!」と返してきたから、なるほどそう言うことかと納得した。

 時間になりパドックのランウェイに上がったスペは、最初こそ緊張していたようでずいぶん動きが硬くなっていたが、観客席に我らの姿を見つめた途端には、親友に見っともない姿は見せられんと思ったのだろう、引き締まった顔で堂々とした姿を観客に見せつけていた。

 

 パドックが終われば出走準備のためしばらくの間が開くと言うので、近くの屋台で飯を買うことにしたが、これが中々に美味いのでついつい買いすぎてしまったから、今月はもう贅沢できない。

 若干の後悔と共に両手に食い物を抱えて突っ立っていたら、エルコンドルパサーがさすがスペの幼馴染デースと笑うので、スペの真似をしてあげません! と言ってやったら腹を抱えて笑い出すから気分が良い。

 しかしそのすぐあとには笑顔のグラスワンダーに、こんな場所で騒いではいけませんよ。とアイアンクローで二人揃って締め上げられてしまった。やはりこいつは鎌倉武士の生まれ変わりだ。

 

 ふざけているうちにゲートインの時間となった。

 少しぎこちない顔で待機しているスペを見て、ハルウララがスペちゃん大丈夫かな? と心配の声を上げるが、見た限りでは動きに支障が出るほどではなく、むしろちょうど良い塩梅の緊張具合と見えた。

 各バの態勢が整い、ついにレースが始まる。

 スペの出だしは好調である。いささかの遅れもなく飛び出して、先頭から三バ身ほど後ろの位置で待機している。差しを得意とするスペにしては前にいるが、抑えた様子で掛かりもない。

 このまま行けばいいなとメイショウドトウが呟く。私としてもスペの鎧袖一触に終わるのがもっとも望ましいが、しかしそうは行かぬと後ろから追い上げてくる影がある。

 こいつは眼帯をしていたので眼帯と呼ぶが、どうも攻めっ気が強いのか、スペに体当たりや土を飛ばすなどの妨害紛いのことばかりをしていたから好かん。

 しかし実力としては申し分もない走りであり、このレースでは最大の障害であることは間違いない。これに負けるようであれば、ダービーには出走すらできんだろう。思わず声援にも力が籠った。

 第四コーナーに入ると眼帯が仕掛けた。先頭集団を追い抜きハナを進むが、得意になっているのか、走りに油断が見えたからこいつの負けであると予感した。

 直線にはいってスペが仕掛けた。溜めに溜めた脚を解放して一気に駆け上がって行くと、残り二〇〇地点で眼帯を抜き去りそのままゴールまで駆け抜けて勝利した。

 終わってみれば、何とも危なげないレースであった。

 

 レースを終えたならば、締めにはウイニングライブである。

 自作した「スペちゃんこっち向いて」「投げちゅーちょうだい」と書かれた二枚の団扇を持って前列に向かったら、セイウンスカイにほんとにスペちゃん大好きだねえ。と面白半分に揶揄われたので、親友なのだから当たり前であると答えて「スペちゃん♡らぶ」と書かれた鉢巻を巻いて見せてやった。今度は全員に真顔で閉口されたから、これが解せぬ。

 そうこうしているうちにライブが始まった。きっと華麗に舞うのだろうと楽しみにしていたのだが、出てきたスペは絶望した様子で天を仰いでいるから魂消た。

 踊るどころか歌う素振りも見せずにいる。すわ何か大事でもあったかと心配していたのだが、見た限りでは何かあったとは思えぬから益々もって疑問である。

 あとで沖野に聞いたら、ウイニングライブの練習を忘れていただけさ。と言うから安心したが、それはそれとしてトレーナーの仕事を怠るなど言語道断である。スペに恥をかかせるとは、この落とし前はどうしてくれようかと思っていたのが、しかし祝勝会で出されたこいつの料理が美味かったので、ひとまずはこれで許してやることにする。

 

 スペがデビューしてから二日後には、私の番が来た。

 レース場に着くと、フクキタルから「今日の私は大吉なので運を分けてあげます!」と必勝祈願の御守りを渡され、メイショウドトウには「きっと大丈夫です。頑張ってください」と激励の言葉を贈られたから心強い。

 トレーナーからは「まあ君なら楽勝でしょ」との有難いお言葉を頂いた。まったく気の利いた言葉だ。今度料理を作ってやることがあったら、こいつの嫌いなピーマンをたっぷりいれてやる。

 控え室にはいる前には、スペを始めとしたいつもの仲間たちから励ましの声援を受け取ったから、もはや負ける気もしなくなった。

 最後には地下バ道でテイエムオペラオーから、君の最高の輝きを見せてくれ! との注文も受けたので、今度こそこいつの期待に応えるためにもこのレースでは五バ身以上つけて勝つ所存である。

 

 さてもレースであるが、まずはパドックでお披露目である。

 緊張もなくランウェイに上がり、羽織っていたジャージを翻して堂々と仁王立ちすると、観客どもが歓声を上げたのでこれに応えた。

 眼前に屯するこれらの中から私のファンになる奴もいるのだろうかと思えば、何だか妙に高揚した気分になったから不思議だ。

 全員のお披露目が終わればいよいよゲートインである。私は五番五枠といささか不利な方であったが、追い込みかつ大外を回る私には関係がない。

 手足を解しながらちらと左右を見れば、どちらにも緊張した面持ちのウマ娘が控えていた。一世一代のデビュー戦とあれば、これに躓く事を恐れていると見える。その恐怖はわからなくも無いが、始める前から失敗を恐れているようでは既に気持ちの面で負けていよう。

 対してこの身には一切の油断は無く、しかして敗北への恐れもない。ただ勝てるという予感だけはあった。

 

 全員がゲートにはいると、数秒後にはついに勝負が始まった。

 本レースは芝一八〇〇であるが、仕掛けの時期を変えるほどの変化では無いので、追い込みとして後方に待機している。

 今回は逃げの作戦を取るものがおらず、以前の模擬レースと同じくやや緩慢としたまま進み、残り一〇〇〇メートル地点に来た。

 いつものように長くスパートをかけて行くのだが、ここで一週間みっちりと矯正した姿勢が役に立つ。

 今までは溜めていた脚を少しずつ使っていたが、今回は脚を使わず上半身の使い方を意識して、脚の回転数をゆっくりと上げていくようにした。

 以前の走り方では最終盤になると足が残っておらず、競り合いになった場合に瞬発力で劣る状態だったのだが、この走り方ならば溜めた脚を使い切らずに余力を残しておけるようになった。干物の言い方を借りるならば、末脚の切れ味が増したのである。

 大外を回ってバ群を横切り、残り六〇〇地点で先頭を捉えた私は、ここだと一気に踏み込んで溜めた脚を爆発させて、夢中のまま先頭を追い抜き、ゴールラインを踏み越えた。

 立ち止まって掲示板を見ると、六バ身との表示が出ている。実況がさながらロケットの如くだと騒ぎ、観客が口を揃えて私の名を呼ぶ。それを聞いてやっと、勝ったのだと言う実感が湧いてきた。観客席に向かって右手を挙げると、盛大な拍手と歓声が降り注ぎ、私の勝利を祝福してくれた。

 

 レースが終わればウイニングライブであるが、私はスペと違いフクキタルと練習していたので、滞りもなくほぼ完璧に終えることができた。

 踊っている最中に客席を見るとスペたちがサイリウムを振っているのが見えた。そちらに向かってキスを投げてやると、黄色い悲鳴をあげるから気持ちが良い。

 客席の後方にはテイエムオペラオーの姿があるが、暗がりのせいでその表情は窺えない。今度こそは期待に応えられただろうか。心中で問いかけた時に、彼女がうっすらと微笑んだように思えた。

 

 そうしてすべてを終えたあとに学園へ戻ると、スペたちと一緒にシリウスで祝勝会をすることとなったのだが、これがまた大変な乱痴気騒ぎになった。

 帰ってきてもなおレースの興奮が覚めぬ私は、祝勝会が本格化するとついつい調子に乗ってしまい、スペを抱えてそこらじゅうを走り回って埃だらけになったり、エルコンドルパサーとプロレス勝負をして壁に穴を開けたり、挙句には帰宅途中の子供理事長を攫ってきて祝勝会に参加させたりと、まあとんでもないことをしでかしてしまったのである。

 終いには我慢の限界に達したグラスワンダーに、がっつりと首を絞め落とされて無理矢理大人しくさせられてしまったが、私にとっては人生で二番目に楽しい日であった。願わくばこの歓喜が天上にいる白毛の友人に届くようにと祈るばかりである。

 

 なお次の日には、諸々の問題を起こした代償として、生徒会から一週間の便所掃除を言い渡されてしまったから大変であった。

 今回ばかりはさすがに反省はしたので、次からはばれぬようにするつもりである。




 吾輩はウマであるは電子書籍化しました。
 本編に大幅な加筆修正に加え、新規エピソードが追加されていたり、各主要キャラの設定を見直したりと、いろいろな部分に手を加えています。
 以下のサイトにてDL可能ですので、まずは体験版からどうぞ。

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