これが土屋家の日常   作:らじさ

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第2話

朝、教室に入っていったらムッツリーニがすでに登校して席に着いていた。でも、何だか様子がおかしい。顔色が赤くなったり青くなったりしてまるで信号機のようだ。

美波が寄ってきて「ねえアキ、土屋の様子おかしくない?」と囁いた。美波から見てもそう見えるらしい。

 

基本的にムッツリーニは、鼻血は出しても感情は表に出さない男だ。だからこそ「ムッツリーニ(寡黙なる性職者)」と呼ばれているのだ。その男があそこまで感情を揺らすとしたら原因はただ一つ・・・・・

 

「・・・・・工藤だな」

 

いつの間にか雄二が傍にきてそう言った。さすが雄二、人の弱点を突く時の指摘は的確だ。

 

「愛子と何かあったのかしらね?」美波が首をかしげる。

「工藤と何かあったにせよ。なにゆえに顔が赤くなったり青くなったりしとるんじゃろうか?」いつの間にか秀吉もやってきていた。

「うまく行ったのなら顔が赤くなるだろうし、フラれたんなら青くなるのもわかる。だが、赤くなったり青くなったりというのはなあ。うーん」人の弱みを決して見逃さない雄二でさえ想像がつかないようだ。

「うふふ、大丈夫ですよ」と姫路さんがほほ笑みながら言った。

「青くなるのはよくわかりませんけど、赤くなるのはちゃんと理由がありますから」どうやら姫路さんは事情を知っているようだ。

「何よ瑞希。事情を知ってるなら教えなさいよ」美波が食い下がる。

「ふふ、秘密です。でもそのうちわかりますよ」姫路さんは楽しそうだ。

 

なぜだろう?姫路さんのこの笑顔を見ていると、とてつもなく嫌な予感というかデジャブというか、ごく最近にこの笑顔を見た後に僕と雄二と秀吉の3人は地獄を見たような気がする。

 

その時、教室のドアがガラっと開いた。誰が来たのかと首をむけて見ると、話題の工藤さんだった。心なしか赤い顔をしているけど、風邪でもひいたんだろうか?

風邪は誰かにうつせば治るというし、Fクラスのメンバーなら誰が倒れても学園には何の影響もないということか。残念ながら適切な判断と言わざるをえない。さすが工藤さんはAクラスだと言いたいところだが、ツメがまだ甘い。彼女はもう一つの大事な諺を忘れている。

 

古人曰く「馬鹿は風邪をひかない」。

 

自慢じゃないがFクラスは体の弱い姫路さんを除けば出席率だけは文月学園で一番なのだ。ただ、そのほとんどが補習にあてられているという問題はあるのだが。なにしろ補習をサボると鉄人との個人授業になってしまう。そんなのを受けるくらいなら40℃の熱が出たって「カイロがいらなくてラッキー」とポジティブ思想にもなろうというものだ。

 

だが、工藤さんは入口で誰かを探すようにキョロキョロしていた。姫路さんにでも用があるのかなと思った時に、彼女はムッツリーニを見つけ瞳を輝かせるととんでもない爆弾を投げつけた。

 

「おっおはよう、こっ康太」

 

「「「「「「「「「「「「 こっこっこ康太ぁ?!」」」」」」」」」」」」

 

教室中が凍りついた。


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