「ということで問題は解決したんだけどね」
「ちょっ、ちょっと待って下さいYukiさん。ジャンポで急遽打ち切りになった漫画だって、こんな無茶な終わり方しませんよ」
「Yuki先生の次の作品にご期待下さいってところかしら。それより愛ちゃんケーキ食べたくない?」
「あ、すいません頂きます。いや、そうじゃなくてですね。これまで好き放題に張りに張りまくった伏線が全然回収されてないじゃないですか、伏線回収放りなげたエヴァンゲリ・・・・・うぐ」
「・・・・・その辺でやめろ。ある一定の層を敵に回すことになる」
「あたしそんなに伏線張ってたかしら?」
「他校の女生徒の制服とか5馬鹿を2日休ませたとか、「彼女たち」に協力してもらったとか」
「いや、「彼女たち」は別に伏線じゃないんだけど」
「そこも気になるポイントなんです。それで結局ケンカはどうやって収めたんですか?」
Yukiはウェイトレスを呼んでケーキを3人分注文した。
「5馬鹿を休ませている間に、怪我して休んでいる不良共の家を突き止めたわ。住所のリストは持っていたから、お見舞いに行ったの」
「お見舞い・・・・・ですか?」
「そう、私は平和主義者ですものフフ」
「Yukiの奴、人をいきなりこんなところに呼び出しながら自分が遅刻してやがる」颯太が不機嫌そうにいった。
「大体、あいつは俺たちを自分の部下のように思っているフシがあるな。いくらババア共に絶大な信用があるとは言え我慢も限界だな」篤も答えた。
「一回キッチリと誰が立場が上なのか教えてやらんといかんな」颯太が頷いた。
「それは楽しみね。どうやって教えてくれるのかしら?」
2人が振り向くと花束を抱えたセーラー服の美少女が立っていた。
「む、誰だお前は?見たことない顔だが」颯太が言った。
「馴れ馴れしい口をきく女だ。俺たちに関わると不幸になるぜ」篤がニヒルに決めた。
「あんたにしては珍しく正論ね、全く言う通りだと思うわ」美少女は恐れる様子もなく言い返した。
「・・・・・なあ、篤?何で、俺たちはこの女と普通に喋れてるんだ?いつもなら後ろも見ずに逃げ出しているところだ」
「そういや、そうだな?こんな可愛い女だったら気絶しているかも知れん」
「あんた達の本能ってのは大したものね。今までこの格好が見破られたことはないんだけど」女の子の声が一段低くなった。
「「その声はおっお前、まさかYukiか」」二人が同時に叫んだ。
「そうだよ。これから怪我人のお見舞いに行くから、二人にボディーガードしてもらおうと思ってさ」
「というか、何でお前の趣味の格好での外出に俺たちが付き合わんといかんのだ?」
「誰が趣味の格好だよ。ケンカを円満に収めるための作戦だよ。いいからついておいで」
「女装は趣味じゃなかったんですか?」少女は再びYukiの格好を上から下まで眺め回して言った。どこからみても色気のある大人の女性だ。
「あら、今だって別に女装なんて趣味じゃないわよ」
「それじゃ何でいつも女性の格好なんかしているんですか?」
「実益よ。女の格好の方が偉いオジさま方にウケが良くて仕事が回ってくるのよ」
「「・・・・・はっ腹黒い」」
やがて3人は一軒の家の前に立っていた。
「いいかい、最初はボクが出るからその後に入ってきて。最初からあんた達がいたら警戒されるからね。そのためにわざわざあいつの学校の女子の制服を着てきたんだから」
Yukiはそう言うとチャイムを押した。
「はーい、どなた?」女性の声がした。
「あ、私同じクラスの近藤と申します。佐藤君が怪我をしたと聞いてお見舞いにきました」
「それはどうもありがとうね。入って頂だい」と言って玄関が空いた。
母親は2人の男を見てギョッしたようだが、可憐な美少女がいることで警戒を解いたらしく部屋に案内してくれた。目的の少年は体中に包帯を巻いてベッドに寝ていた。
「誰だお前、学校じゃ見たことねえ面だな」怪我人は、制服を来た見覚えのない女生徒を見て言った。
「そうだろうね。ムダ話をする時間はないんだ、単刀直入に言うよ。今回のケンカはこれで手を打たないかい?」
「ああ、ふざけているのかお前。こんな体にされたんだぞ。治ったらアイツらをやってやるさ」
Yukiの目がスっと細められた「70人でたった5人を呼び出して、40人以上はやられてるんだよ。勝ってるあたしたちが引き分けにしてやろうと、こちらから手を差し出してやってるのに、その手に唾吐きかけるなんざ、いい度胸じゃないか。
治ったらあたしたちを的にする?上等だ、そこまで言われてテメエの傷が治るのをのんびりと待っててやるほど、あたしは気が長くねえんだ。ちょうどベッドに寝ていることだし、1週間とは言わず1年は寝込ましてやらあ。中学でダブって下級生と一緒に卒業ってのも乙なもんだぜ」
「おい、Yukiもういいだろう」颯太が指を鳴らしながら言った。
「後は俺たちが話をつけるさ」篤も不気味に笑いながら言った。
「こう言ってるけどどうする?話が終わりならあたしは帰るわ。最近は物騒だからこの二人をボディーガード代わりに置いていってあげる」
「バカ野郎。この2人がいる方がよっぽど物騒じゃねえか」
「そんなことないわよ。刺激さえしなければ・・・」
「だっ黙っていればいいんだな」
「いいえ、呼吸音に敏感なの」
「息するなってことじゃねえか」
「あらイヤだ息をするしないは自由よ。じゃ私はこれで。生きていたらまたどこかで会えるわね、きっと」
「おっ、おい。帰るならこの二人連れていってくれ。わかった、手を引く。グループからも抜けるから」
「あら」Yukiは妖艶に微笑んでいった。
「物わかりのいい人で助かるわ。じゃ、話はついたから二人とも帰るわよ」
「ちょっと待てYuki。俺たちは何のためにここに来たんだ」
「そうだ。せめて一発」
「あんた達はボディーガードって言ったでしょう。これからお見舞いに行くところが沢山あるんだからグズグズしている時間はないわよ」
颯太と篤を部屋から蹴りだしながらYukiが言った。
Yukiいう所の「穏やかな」お見舞いは、3日かけて終了した。