「康太はボクのやることにいつも反対ばかりするんだね。ボクに対する愛情を疑っちゃうよ」
「・・・・・愛情の問題じゃない。お前が毎回アホなことするからだ」
「じっじゃあ、愛情はあるんだね」
「・・・・・だからそんな問題ではないと・・・ん?」ここで少年は教室にいるのが自分たちだけではなかったことに気がついた。
「「「「「「「ジ~~~~ッ」」」」」」」
「・・・・・ゴホン。まあ、そういう訳だ工藤。以後気をつけろ」
「今さら工藤呼ばわりされてもなぁ・・・」
「・・・・・どれくらい?」
「いきなり何だ?翔子」
「・・・・・私に対する愛情はどれくらいあるの?雄二」
「愛情があること前提かよ。そうだなあ水素の分子量ぐらいか」
「・・・・・ポッ」
「なぜ、そこで照れる?」
「・・・・・原子核を分裂させたくらいの愛情?」
「水素爆弾作るつもりかお前は。水素原子1分子だ・・・・・グオオ」
「・・・・・みんながいるからって照れなくていいのに、雄二」
「言ってることは優しいが、このアイアンクローは何だ・・・グオオ」
「・・・・・雄二・・・」
「なっ何だ・・・グググ」
「・・・・・最近やっとリンゴを握りつぶせるようになった」
「おっ、お前は何をやってるんだ・・・グヌヌ」
「・・・・・朝、搾りたてのリンゴジュースを作ってあげたくて」
「握りつぶしてんじゃねぇか・・・オオオ」
吉井明久は「止めるなんてとんでもない。雄二の不幸は僕の大好物だ」と独り言をつぶやきながらこの凶行を止めるでもなく眺めていた。いつもならこの辺りで秀吉が「お主らいいかげんにせんか」と止めに入るところだが、今日はその秀吉はいない。ちょうどいいから最後まで見学してみることにしよう。うまくいけばリアルスプラッタ映画が見られるかも知れない。
「ちょっと翔子、いいかげんにしなさいよ」おや、思わぬ人が止めに入った。秀吉の姉、木下優子さんだ。性格は違ってもそこら辺はやはり双子なのだろうか?
「・・・・・なに?優子」
「なにじゃないわよ。そんなこと止めてさっさと行くわよ」うん、言葉遣いはちょっと荒い気がするけど、やっぱり根は秀吉と一緒なんだね。
「ほら、さっさと秀吉にヤキ入れにいくわよ」前言訂正。性根はFFF団とそっくりだ。彼女がFクラスだったら、きっとFFF団の幹部になれたことだろう。霧島さんはシブシブといった感じでアイアンクローを外した。
「・・・・・集まりの趣旨が変わっているのだが、お前は木下優子に何を言ったのだ?」
「いや、別にこれと言って・・・・・木下君に彼女ができたみたいだねって」
「・・・・・それだけで、あんなに怒り狂うものか?」
狂うのである。康太と愛子は知らなかったのだが、木下家の近所では木下「姉妹」は、評判の美人姉妹と有名であること。姉はややがさつで乱暴な残念美人と呼ばれ、「妹」はお淑やかで性格もいい娘と評判になっていること。その「妹」が本当は男だとバレた日には自分の評判は男以下となってしまう。そのため優子は、近所では女の子として振る舞うことを秀吉に強要していた。その秀吉に彼女ができた日には・・・・・なんとしても阻止せねばならないと心に誓う木下優子であった。
「愛子、秀吉はどこにいるの?」すっかり場を支配してしまった優子が尋ねる。
「えっと、今日は立稽古らしいから小体育館の舞台で練習しているはず」少女が恐る恐る答える。
「わかったわ。みんな行くわよ」
もはや修羅と化した優子に逆らうものもおらず、一同はゾロゾロと後に続いた。
「ねえ康太どうするの?」
「・・・・・こうなってはしょうがない。1メンバーのフリをしよう。幸い木下がリーダーになっているから、俺たちが主催者だとは思われんだろう」
「FFF団はどうするのさ?」
「・・・・・放っておけ。どうせ今頃は秀吉の処刑方法を巡って会議が紛糾している」
一同が隣のBクラスの前を通ると、教室の中から活発な議論が聞こえてきた。
「いや違う。最も大事なのはどうやって苦痛を長引かせるかだ」
「それも大事だが最大の苦痛量も考慮すべきだろう」
「方法は八つ裂を提案する」
「タンクローリーで少しずつ押しつぶすと言う手もある」
「面倒くさい。屋上から紐無しバンジーでいいだろう」
「とても高校の放課後の会話とは思えないね」そっと少女がささやいた。
「・・・・・気にするな。授業中も似たり寄ったりだ」慣れたという様子で少年が答えた。