「あの木下さんこちらの皆様は・・・・・?」茜が言った。
「ああ、一番右端にいるのがワシの・・・」
「お兄様ですね。初めまして秀吉さんにはお世話になっています」
ピシッと空気が切り裂かれる音がして優子の額に血管が浮いた。
「どこの世界にスカート履いた兄がいるのよ」優子が答えた。
「うちのお兄様はいつも履いてますけど?」動じることなく茜が答えた。
愛子と康太はYukiを思い浮かべた。間違ったことは言っていないのだが・・・
「まっまあ、そういう趣味の人もいるかも知れないけど、それにしたって雰囲気見れば分かるでしょ」
「ええ、やっぱりお兄様の方が秀吉さんよりも少し凛々しいですわね。クスッ」
ピキピキピキ・・・・・額の血管の数が増殖していく。
「ねぇ、秀吉。「お姉ちゃん」ちょっとあんたと話がしたいな」優子は舞台に登ると秀吉の襟首をひっつかんで舞台の袖のカーテンの奥に引きずっていった。
「まっ待つのじゃ姉上。ワシは何の関係もない・・・」秀吉の悲鳴が聞こえる。
「うるさい。あんたの紹介が悪いからあんなことになるんでしょう」
「紹介も何もワシは一言も口を挟んでおらんのじゃ。彼女が姉上をみた率直な感想が・・・痛い痛い。姉上、その関節はそっち方向には曲がらないと・・・」
「弟のくせに姉よりも先に彼女を作ろうなんていうのが生意気なのよ・・・・・ガン、ガン、ガン」
「いっ一体、何の話かさっぱりわからんのじゃ。痛い痛い、顔は止めて欲しいのじゃ・・・」
「やっぱり兄弟同士っていいですわね」茜が平然と言った。
「(分かってて言ってるのかな?)」少女が少年に囁いた。
「(・・・・・Yukiさんの妹だからな。何を考えているのやら)」
「ところで他の皆様は」
「ああ、俺はFクラスの坂本だ」
「・・・・・妻の翔子」
「まあ、ご結婚されているのですか?お似合いのカップルですね」茜はにこやかに言った。
「・・・・・雄二」
「何だ?」
「・・・・・この人はいい人。ぜひ結婚式の来賓に・・・」
「お前の交友関係はどんだけ狭いんだ。初対面でちょっと褒められたくらいで来賓にするなんて」
「・・・・・結婚式そのものは認めてくれるのね」
「ああ、祝電くらいは打っ・・・・・グオオ」ああ、雄二。その返答は・・・
「・・・・・本当に雄二は素直じゃない」案の定、霧島さんの神速のアイアンクローが炸裂した。
「素直に嫌がっていると何回言えば・・・・グヌヌ」
「・・・・・私は雄二以外と結婚するつもりはない。雄二も私以外と結婚させるつもりはない」
「俺の意志はないのか・・・・・オオオ」
「・・・・・最大多数の最大幸福という言葉がある」
「結婚望んでいるのはお前一人じゃねえか・・・グググ」
「・・・・・私と生まれる予定の39人の子供たちがいる」
「あの~、あのお二人は何をなさっているんでしょうか?」
「えーと、ある意味愛を確認しあっているというか・・・」少女が汗をかきながら答えた。
「キスみたいなものでしょうか」
「ひっ広い範囲ではそうとも言えるかも・・・」
「随分、過激ですね」
「なっ慣れだよ。今じゃすっかり風景の一部になっちゃって誰も気にしないから。それよりこちらがFクラスの吉井君」
「初めまして吉井明久です」
「女の人と仲良くしちゃダメ。アキちゃ-吉井君」
「今、何か聞こえませんでしたか?」
「えっ?いっいや僕には何も聞こえなかったなぁ」どれだけ神出鬼没なんだ玉野さん。
「こちらのグラマーな女の子が姫路瑞希ちゃん。スリムな方が島田美波ちゃんだよ」
「まあ、随分動きにくそうな方と動きやすそうな方ですね」
「???」
「どういう意味かしらアキ」
「そりゃ美波の場合には邪魔するものがないから動きやすいと、後ろから顎に手を回して背中を肩に担ぎあげ・・・・・ギャア」見事なアルゼンチン・バックブリーカーだ。美波の技のレパートリーは着実に増えている。
「何が邪魔するのかしらね・・・・」
「そりゃもちろん胸が・・・・・ウギャァ、揺らさないで」
「あの~、この学園の方はコミュニケーションを体で伝える風習でもあるのですか」茜が不思議そうな顔で尋ねた。
「・・・・・そんな風習はないのだが」
「(というか茜ちゃんが喋る度に被害が拡大しているんだけど、本当に天然なの?)」
「(・・・・・いや、確信はないから疑ってもしょうがないだろう」」
「で、お二人は?」
「・・・・・俺はFクラスの土屋康太だ」
「・・・土屋・・・康・・・太?もしかして康ちゃん?」
「覚えていたのか?」
「もちろんよ。お兄様の親友の弟さんですもの。お久しぶりだわ」
「(・・・・・あいつらの関係を親友と言っていいのかな)」
「ところでこちらの方は?」茜が今気がついたとばかりに言った。
ムッとした少女が一歩踏み出して言った。
「ボクはAクラスの工藤愛子」ここで少女は少年をチラっと見た。
「・・・・・(今の視線は何の意味だ?)」少年は首を傾げた。
「ボクの名前は工藤愛子。康太の・・・」少女はハッキリと少年を見つめた。
「・・・・・(こいつまさか俺に言わそうとしているのではないだろうな)」少年はイヤな予感に襲われた。
「だからぁ~。ボクは工藤愛子で、ここにいる土屋康太の・・・」今度はハッキリと首をクルリと90度回して少年を睨みつけた。少年と少女はしばらく睨み合っていた。
「・・・・・3度も言うな。ああ、茜ちゃん。愛子は俺の彼女だ」
「やだなぁ康太。そんなにハッキリと言われちゃボク照れちゃうよ」
「・・・・・お前は正気なのか」
「まあ、康ちゃん。凄いわ。彼女ができるくらいに女性に耐性ができたのね。昔は・・・」というと茜を少年の手を握った。
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「ああ、康太が噴水のように鼻血を・・・」
「あら、昔と全然変わってないわ。おかしいわね?」茜は悪びれもせずに言った。
「(・・・・・たった数分で部隊が全滅した)」
「(本当にわざとじゃないんだよね?)」
小体育館では、康太が血の海に沈み、秀吉と雄二と明久の叫び声がこだましていた。