これが土屋家の日常   作:らじさ

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第13話

「あ、でもね。康太もだいぶ女性に慣れたんだよ。彼女のボクだと、ホラ」と少女は少年の手を握り締めた。

 

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「鼻血がさっきの倍ぐらいの高さで吹き上がりましたね」

「・・・・・やっ、やっぱり、彼女への愛情かなぁ」

「・・・・・俺を殺す気かお前は」

「だっ大丈夫。康太の愛情はしっかり感じたよ」

「・・・・・愛情以前に責任を感じんか、バカ者」

 

その時、それまで黙っていたロシアン娘が口を開いた。

「アイコ。ワタシも紹介してくだサイ」

「あ、ごめん。茜ちゃん、こちらロシアからの留学生のアンナちゃん」

「はじめまシテ。ソータの妻のアンナデス」

「颯太というとお兄様の親友の?この学園って学生結婚してらっしゃる方が多いんですね」

「アンナちゃん。こちらYukiさんの妹の茜ちゃん」

「オゥ、Yukiとそっくりです」

「あら、そんなにお兄様に似てますか?私」茜ははにかみながら言った。

「ハイ、目元と胸のあたりが瓜二つデス」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・胸?(ピキ」茜の表情が凍りついた。

「ハイ、目元と胸がYukiにソックリデスね。さすが姉妹デス」

「ありがとうございます。アンナさんこそ素敵なお胸で。学校では「肉」ってあだ名がついてらっしゃいませんか?」

「お肉は好きデスね。アカネは野菜が好きでショウ」

「美味しいですものね。お野菜・・・ほほほ」

「フフフ・・・・・」

「ほほほ・・・・・」

 

「こっ康太・・・・・あの二人普通の会話してるのにやたら怖いんだけど」

「・・・・・あの辺りの温度が下がっているに違いない。天然同士の争いは恐ろしい」

「とりあえず止めた方がいいのかな?アっアンナちゃんはロシアで劇とかやらなかったの」

「ハイ、ワタシもロミオとジュリエットをやったことがありマス」

「へえ、アンナちゃんのジュリエットなら綺麗だろうなあ。あ、茜ちゃんみたいにロミオだったのかな。オスカルみたいだろうなあ」

「イエ、私は「森の木(G)」の役でシタ」アンナは誇らしげに大きな胸を張って答えた。

「・・・・・はい?」

「「森の木(G)」の役デス」

「「ロミオとジュリエット」にそんなに木の役が必要だったっけ?それよりアンナちゃん、そんなに綺麗なのにロミオでもジュリエットでもなかったの」

「最初はジュリエットに決まりそうだったんデスが、私が絶対にイヤだと言ったので「森の木(G)」の役になりまシタ」アンナは誇らしげに更に胸を張って言った。

一体、木(G)の役の何がそんなに誇らしいんだろうか?もしかしたらロシアの「ロミオとジュリエット」は木が主役なのだろうか?

 

「その役はセリフが多かったのカナ?」少女が首をかしげながら尋ねた。

「アイコ何をいいマスカ。木は木デス。立ってるだけです」

「じゃ、何でそんなに誇らしげなのさ・・・・・」

「ハイ、その頃ちょうどパパからゲリラ戦の偽装を習っていまシタ。それが学芸会の木の役に活かせまシタネ」アンナは思い出すように遠い目をしながら言った。

「・・・・・また、あの親父か」

「ちなみにアンナちゃん、それ何時の頃なの」

「ハイ、小学校4年の学芸会デス。偽装がよくできたとパパが誉めてくれまシタ」

「・・・・・恐ろしくシュールな舞台だっただろうな」

「そっそかぁ。アンナちゃんが満足しているならいいんだけどさ。とりあえずお父さんが日本に来る時には、最低でも1週間前には教えてくれるかな」

「ドウしてデスカ?」

「いや、こっちにも逃走・・・いや、心の準備が必要だから」

「ワカりマシタ。チャンと教えます」ロシアン娘は何を疑うこともなく明るく答えた。

 

「・・・・・ところでみんなはどうしたのだ」少年が見渡すと、舞台の袖から秀吉がよろよろしながら舞台へと出てきた。

 

「まったく、姉上は人の話を聞かんから困るのじゃ」

「あんたが紛らわしいことするからじゃない」

「ワシは一言も喋っておらんというのに」

「そういう噂が流れているというのは、あんたの不徳の致すところなのよ」

 

「なんだか木下君。もう立ち直っちゃっているんだけど」

「・・・・・奴もFクラスだ。打たれ強いはず」

そういえば、いつの間にか坂本君も吉井君も立ち上がっていた。

 

この連中、ゾンビの血でも輸血しているんじゃないだろうか?

 

「まあ、とりあえず稽古を再開するぞい。結城も舞台に上がってくれ」

 

ボクたちは床に座って舞台稽古を見ていた。

木下君のジュリエットに茜ちゃんのロミオ。最初聞いた時には違和感があったんだけど、慣れてくるとこっちの方がいいような気がしてきた。

 

「・・・・・間違いないね」

「・・・・・え?」

「間違いないよ。木下君のあの目は茜ちゃんに恋している目だよ」

「・・・・・一応聞くが、根拠は何だ」

「フフフ、カミソリよりも鋭いボクの女のカンだよ」

「・・・・・なるほど、よく分かった」

「康太もそう思うでしょ」

「・・・・・いや、お前のカンがそう告げているというのなら100%それは無いということがわかった」

「何でそうなるのさ」

「・・・・・数々の外し続けてきた女のカンとやらの実績からだ」

 

 


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