「・・・・・と大見得を切っておきながらこれは何なのだ」二人はシネマコンプレックスの映画館の入口付近に潜んでいた。
「デート初心者同士だから、ボクたちがフォローしてあげないと」
「・・・・・いや、うまく行かせるとマズイのではないか?」
「康太は稽古の時の茜ちゃんの目を見なかったの?あれは絶対に恋する女の子の目だよ」
「・・・・・お前がそういうからには絶対に違うと思うのだが」
「ボクの眼力まで否定するつもりだね。それに映画の話をしていた時の秀吉君の目は好きな女の子をデートに誘う時の夢見る目だったじゃない」
「・・・・・お前に「金魂 the movie」の話を30分も熱く語られて、俺に助けを求めている目にしか見えなかったのだが」
「その前後をみなよ」
「それはそれとして、もし両方ともがそうならば益々Yukiさんがマズいのではないか?あの人なら本当にやるぞ」
「ねぇ、康太・・・・・」少女は遠い目をしてしみじみと言った。
「・・・・・何だいきなり」
「・・・・・ボク思ったの。あの二人って本当にロミオとジュリエットみたいだなぁって。好きあっている同士が家の反対で引き裂かれるの」
「・・・・・いや、反対というか邪魔しようとしているのは、嫉妬にかられたシスコンの兄だけなのだが」
「その兄がスーパーサイヤ人並みの能力を持っているんだよ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・だからね、ボク考えたの」
「・・・・・何かいい方法があるのか」
「・・・・・せめて、いい思い出作ってあげようって」
「・・・・・戦うつもりもないわけだな」
「あ、来たよ」と少女が叫んだ。道の反対側から白いワンピースを着て全身からお嬢様オーラを出している茜とチノパンにネルシャツ、革のベストを着て男装オーラを全開にしている秀吉がやってきた。茜は秀吉の手に抱きついていた。
「うっうっうっうっう腕を組んでいるよ」
「・・・・・これくらいでウロたえるなバカ者。たかが腕を組んで・・・ウグ」
「康太だって、これくらいで鼻血出さないでよね。でも、改めて見ると凄い違和感だよね」
「・・・・・仲の良い女子高生にしか見えんな」
「今日が初デートなはずなのに、あの慣れようってすごいよね」
「・・・・・俺たちの数段上にいるな。別に監視する必要はないのではないか?」
二人はシネマコンプレックスのAホールでやっている「プリティ・オーメン」に入っていった。
「・・・・・まあ、あの調子なら大丈夫だろう。せっかく来たんだ俺たちも何か見て帰ろうか?」
「ぜったい金魂金魂金魂金魂金魂金魂金魂金魂金魂金魂」
「・・・・・だから落ち着け。別に金魂もかまわんぞ」
そのとき「あ~い~ちゃん」と言って肩をポンと叩くものがいた。
「えっ誰?・・・ユユユユYukiさん」
「何でそんなに驚いているのかしら?」
「なっなっなっ何でこんなところいるんですか?」
「何でって、映画館にいたら映画を観に来たに決まっているじゃない。「プリティ・オーメン」前から見たかったのよ」
「いゃあ、それはどうかな?」
「どうかなってどういう意味?ずっと見たくてやっと時間が取れたんだから」
「(どっどうするのさ康太)」
「(・・・・・今、入られたらあの二人と鉢合わせだ。何とか注意をそらせ)」
「いや、つまり「プリティ・オーメン」よりもYukiさんにピッタリの映画があるんですよ」
「あたしにピッタリの映画?どれかしら」
「それはあの・・・・・」と言って少女は入口を指差した。
「(Bホール・・・は満席だし、Cホールはディズニーだし、Dホールも満席、Eホールは金魂だし、Fホール!!)FホールのあれがYukiさんにピッタリです」
「あれがあたしにピッタリなの・・・?」YukiがFホールを見て言った。
「そうです。もう、上から下までYukiさんにあつらえたかのような映画で・・・」
「(・・・・・おい、愛子ちょっと待て)」
「(うるさい康太。とにかくFホールしか空いてないんだから、何とかFホールにYukiさんを誘導しないと)
「(・・・・・しかし、いくら何でもあれは)」
「もう、Yukiさんは絶対にみて今後の人生の参考にするべきです」少女は演説に力が入る。
「ふーん、愛ちゃんから見てあたしにぴったりに思えるんだ・・・・・」
「ええ、もうボクのイチオシです」少女が力強く断言した。
「「悪魔の盆踊り」があたしにピッタリだとは思わなかったわ・・・・」心なしかYukiの声が凍っていた。
「え?」少女はここでFホールの入口に貼ってあったポスターを見てみた。
「全米ヒットNo.1ホラー 禁断の映画 「悪魔の盆踊り」」とデカデカと書かれていた。
「愛ちゃんはあたしをそういう風に見ていたのね・・・・・」
「いや、外見的なことじゃなくて内面的なものも含めてですね・・・・・」少女が必死に言い訳をした。
「(・・・・・墓穴をメーター単位で掘っているぞ)」
「なるほどねえ。聞いてみなきゃわからないものね。愛ちゃんがお勧めならぜひ見てみるわ」Yukiがニッコリ笑った
「(たっ助かった)はっはい、ゆっくり堪能してきてください」
「でも、自分だけじゃどこがあたしに合うのかわからないから、愛ちゃん一緒に観て解説してね」
「えっえ?ボクはこの手の映画は・・・・・・キャアキャア」
Yukiは有無をも言わさずに愛子を引きずって映画館に入って行った。
「・・・・・冷静に考えてみれば、あいつとはホラー映画しか見たことがないのだが」