少年は駅前のマッコでコーヒーを飲んでいた。携帯の呼出音がなった。
「・・・・・もしもし」
「よくもよくも・・・・・」
「・・・・・電話の呼びかけは普通「もしもし」なのだが」
「うるさい!!よくも大切な彼女を見捨ててくれたね」
「二人とも映画に入ったら秀吉たちの見張りはどうするのだ」
「おかげでボクがどんな目にあったか・・・・・」
「まあ、ゆっくり話を聞いてやるから駅前のマッコまで来い」
しばらく待っていると少女がお客さんを跳ね飛ばさんばかりの勢いで駆けてきた。
「康太ぁ~、よくもよくもぉ~」
「・・・・・まあ、落ち着け。昼はまだだろ。ビッグマッコでも喰え」
「えっ、ああ。ありがとう。モグモグ・・・じゃなくて、よくもボクをYukiさんに売ってくれたね」
「・・・・・ポテトもあるぞ」
「気がきくね。あっケチャップは?・・・・・」
「・・・・・ほら」
「やっぱポテトにはケチャップがないとね・・・・・だからぁ、こんなことじゃボクはごまかされないよ」
「・・・・・お前はオレンジジュースだったな」
「やっぱ彼氏だね。ボクの好みをちゃんと覚えていてくれたんだ」
「・・・・・まあ、とりあえずゆっくり喰え」
「うん、お腹すいちゃってさ・・・・・モグモグ」
「・・・・・・・・・・」
「ゴクゴク、パクパク」
「ふぅ~食べた食べた」
「(・・・・・完全に忘れてるではないか)」
「本当にひどい目にあっちゃったよ」
「・・・・・で、どうだったのだ」
「Yukiさんったら、無関係のボクを「悪魔の盆踊り」に引っ張り込んじゃってさ」
「・・・・・いや、そもそも勧めたのはお前だったのだが」
「目を閉じてたんだけど、音楽だけは聞こえるじゃない」
「・・・・・まあ、どうせセリフは英語だからわからんだろう」
「それをYukiさんがボクの耳元で実況中継するんだよ。ひどいでしょ」
「・・・・・よっぽど自分に似合うといわれたのを根に持ってたのだな」
「その反応が面白いとか言って大声で笑っちゃってさ」
「・・・・・情景が目に浮かぶようだ」
「それも盛り上がる場面ほど、大声で笑うもんだから他の人の叫び声とYukiさんの笑い声がコーラスしてたよ」
「・・・・・周囲の観客はYukiさんの笑い声の方が怖かっただろうな」
「おかげでボクは筋肉痛になっちゃうし」
「・・・・・画面を1秒も見ないでよくそこまで怖がれるものだ」
「もうYukiさんは大喜びで、別れ際に「愛ちゃん、また一緒に映画観ましょうね」だって」
「・・・・・よっぽど楽しかったんだろうな」
「もうコリゴリだよ。こんなことならAホールに茜ちゃんと木下君がいるって教えてあげればよかったよ」
「・・・・・そうなったらホラー映画じゃなくて、スプラッター映画が観られただろうな」
あらかた食べ終わった少女は、オレンジジュースを飲みながら言った。
「そういえば、あの2人はどうしたのさ」
「・・・・・まあ、映画が終わって腕を組んで出てきた」
「うっ腕ってボクたちだって組んだことないのに」
「・・・・・落ち着け。人は人、我は我、されど仲良くだ」
「なんか良いこと言っているみたいだけど、康太がもう少し勇気があればボクたちだってとっくに・・・ブツブツブツ」
「・・・・・後半がよく聞こえなかったが、俺たちが同じことしたら確実に3歩で輸血が必要になるが」
「いいかげんにその体質やめなよ」
「・・・・・趣味で鼻血噴き出しているんじゃない」
「で、結局2人はどうしたのさ」
「・・・・・いや、べたべたしていたと思ったら、あっさりと駅前で別れたのだ。茜ちゃんはそのまま駅に入っていったし、秀吉はそこのアクセサリーショップに入って行った」
「男らしさにこだわる木下君がアクセサリーを買うはずないから、茜ちゃんへのプレゼントだと思うんだけど、一緒に選べばいいのにね。変なの」
「・・・・・まあ、サプライズプレゼントかも知れん」
「じゃ、今日はこれ以上やることがないってことだね」
「・・・・・そうだな、俺たちも帰るか」
「そういえば康太、よくもよくもボクを見捨ててくれたね」
「・・・・・こんなに時間が経ってから思い出し怒りをするな、バカ者」