演劇は大盛況だった。というよりも阿鼻叫喚と言った方がいいかもしれない。最後のクライマックスのシーンでロミオ役の結城さんが秀吉に本当にキスしたからだ。櫻ヶ丘学園の生徒は黄色い悲鳴をあげ、文月学園の生徒(主にFFF団)は怒号を発していたからだ。
「・・・・・雄二」
「何だ」
「・・・・・これにサインして」
「婚姻届だったらお前の家の金庫に厳重にしまわれているだろう」
「・・・・・婚姻届じゃない演劇部への入部届け」
「どんだけ手回しがいいんだお前は。大体、入部してもすぐ主役になれるわけじゃねえだろ」
「・・・・・なってみせる。どんなに苦難な道でも」
「なんでお前が言うと、いちいちセリフがドス黒く聞こえるんだ?それにキスシーンがある劇なんてそうそうはないだろう」
「・・・・・大丈夫。たとえ演目がバイオハザードでもキスシーンを入れてみせる」
「誰がゾンビ同士のキスシーンで喜ぶんだ」
さすが霧島さんだ。現に舞台でキスシーンが演じられたというのに物事に動じないにもほどがある。
「ねえ、康太」
「・・・・・何だ」
「どうするのこれ?」
「・・・・・とりあえずの問題点はFFF団なのだが」そういって後ろの席を振り返った。
「あれ?ここはどこ」
「俺、何してんだ」
「ママ~、ママ~どこ~」
「・・・・・どうやら連中はショックのあまり記憶の改変を行っているらしい。秀吉はなんとか無事だろう」
「となると問題は・・・・・」
「・・・・・あの人だろうな」
「ごまかせるかな」
「・・・・・かなり難しいだろう」
「どれくらい難しいと思う?」
「・・・・・ゴルゴ13が依頼を断るレベルだな」
「それは不可能っていうのと同じ意味だよね」
それやこれやで演劇は終わった。だが、僕たちには本当のメインイベントが残っている。メンバー全員(含むマスコットガール)は西校舎裏へと集まっていた。
「ここの生徒は何かというとここだな」
「・・・・・私は一度も雄二に呼ばれたことがない」
「お前がいつもFクラスを強襲しているからだろうが」
「しー、雄二。夫婦漫才は止めて。秀吉たちが来たよ」
秀吉と結城さんが連れ立って歩いてきた。
「本当にキスをするとは驚いたのじゃ」
「あら、私は役者ですもの。リアリティを追求すれば台本に従うのは当然ですわ」
「ところでこの芝居が終わったら、結城に言いたいことがあったのじゃ」
「私も木下さんにぜひ聞いて欲しいことがあったんです」
「そっそうか、奇遇じゃのう・・・・・」
「ええ、本当に・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「結構、いい雰囲気ですね」姫路さんが羨ましそうに言った。
「ええ、本当に」美波も同調するが、なぜか苦々しげだ。
「あのバカ弟、あんだけ言い聞かせたのに」木下さんが今にも飛び出さんばかりだ。
「結城はワシのことを男だと思っているのかのう?」
「変なことを聞くんですね。立派な男の人だと思っていますわ」
「そうか、すまんの。変なことを聞いて」
「ふふふ、変な木下さん」
これはビックリ。秀吉をちゃんと男と認識する女の子がいるなんて、脳の認知機能に異常がないことを祈ろう。
「まあ、そりゃそうだと思うけど」と工藤さんが言った。
「・・・・・あれがああだからなあ」とムッツリーニも言う。どうもこの二人の様子がこの間からおかしい。
「結城、ワシと・・・・・」
「木下さん、わたしの・・・・・」
二人が同時に叫んだ。
「ははは、重なってしまったのう。それじゃ一緒に言おうではないか」
「ふふふ、そうですね。その方が恥ずかしくないですね」
「「せぇ~の」」
「結城、ワシと付き合ってくれんかのぉ?」
「木下さん、わたしのお兄様になってくれませんか?」
「「「「「「「「へっ?」」」」」」」」僕たちは叫んだ。どういう意味だろう?
「すまん、結城。緊張のあまり言い間違ったようじゃ。もう一度頼む」
「はい」
「「せぇ~の」」
「結城、ワシと付き合ってくれんかのぉ?」
「木下さん、わたしのお兄様になってくれませんか?」
「どっどういう意味かの?兄になるというのは」
「はい、私には勘当になった大好きな兄がいるんです。それが木下さんのように女装が似合うキレイな人で、家からいなくなって毎日が寂しくて。それで木下さんがお兄様になってくれればと」
「ワシを男と思っていると言っておったが・・・・・」
「えっ?兄って普通は男ですよね」
「ワシの初恋が・・・・・むっむごいのじゃ」秀吉は膝をついて泣き崩れた。
「あの~木下さん。そんなにご負担でしたら週に1日だけでもいいのですが」茜ちゃんが無邪気に追い討ちをかけた。