これが土屋家の日常   作:らじさ

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第18話

演劇は大盛況だった。というよりも阿鼻叫喚と言った方がいいかもしれない。最後のクライマックスのシーンでロミオ役の結城さんが秀吉に本当にキスしたからだ。櫻ヶ丘学園の生徒は黄色い悲鳴をあげ、文月学園の生徒(主にFFF団)は怒号を発していたからだ。

 

「・・・・・雄二」

「何だ」

「・・・・・これにサインして」

「婚姻届だったらお前の家の金庫に厳重にしまわれているだろう」

「・・・・・婚姻届じゃない演劇部への入部届け」

「どんだけ手回しがいいんだお前は。大体、入部してもすぐ主役になれるわけじゃねえだろ」

「・・・・・なってみせる。どんなに苦難な道でも」

「なんでお前が言うと、いちいちセリフがドス黒く聞こえるんだ?それにキスシーンがある劇なんてそうそうはないだろう」

「・・・・・大丈夫。たとえ演目がバイオハザードでもキスシーンを入れてみせる」

「誰がゾンビ同士のキスシーンで喜ぶんだ」

さすが霧島さんだ。現に舞台でキスシーンが演じられたというのに物事に動じないにもほどがある。

 

「ねえ、康太」

「・・・・・何だ」

「どうするのこれ?」

「・・・・・とりあえずの問題点はFFF団なのだが」そういって後ろの席を振り返った。

 

「あれ?ここはどこ」

「俺、何してんだ」

「ママ~、ママ~どこ~」

 

「・・・・・どうやら連中はショックのあまり記憶の改変を行っているらしい。秀吉はなんとか無事だろう」

「となると問題は・・・・・」

「・・・・・あの人だろうな」

「ごまかせるかな」

「・・・・・かなり難しいだろう」

「どれくらい難しいと思う?」

「・・・・・ゴルゴ13が依頼を断るレベルだな」

「それは不可能っていうのと同じ意味だよね」

 

それやこれやで演劇は終わった。だが、僕たちには本当のメインイベントが残っている。メンバー全員(含むマスコットガール)は西校舎裏へと集まっていた。

 

「ここの生徒は何かというとここだな」

「・・・・・私は一度も雄二に呼ばれたことがない」

「お前がいつもFクラスを強襲しているからだろうが」

「しー、雄二。夫婦漫才は止めて。秀吉たちが来たよ」

 

秀吉と結城さんが連れ立って歩いてきた。

「本当にキスをするとは驚いたのじゃ」

「あら、私は役者ですもの。リアリティを追求すれば台本に従うのは当然ですわ」

「ところでこの芝居が終わったら、結城に言いたいことがあったのじゃ」

「私も木下さんにぜひ聞いて欲しいことがあったんです」

「そっそうか、奇遇じゃのう・・・・・」

「ええ、本当に・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

「結構、いい雰囲気ですね」姫路さんが羨ましそうに言った。

「ええ、本当に」美波も同調するが、なぜか苦々しげだ。

「あのバカ弟、あんだけ言い聞かせたのに」木下さんが今にも飛び出さんばかりだ。

 

「結城はワシのことを男だと思っているのかのう?」

「変なことを聞くんですね。立派な男の人だと思っていますわ」

「そうか、すまんの。変なことを聞いて」

「ふふふ、変な木下さん」

 

これはビックリ。秀吉をちゃんと男と認識する女の子がいるなんて、脳の認知機能に異常がないことを祈ろう。

「まあ、そりゃそうだと思うけど」と工藤さんが言った。

「・・・・・あれがああだからなあ」とムッツリーニも言う。どうもこの二人の様子がこの間からおかしい。

 

「結城、ワシと・・・・・」

「木下さん、わたしの・・・・・」

二人が同時に叫んだ。

 

「ははは、重なってしまったのう。それじゃ一緒に言おうではないか」

「ふふふ、そうですね。その方が恥ずかしくないですね」

 

「「せぇ~の」」

 

「結城、ワシと付き合ってくれんかのぉ?」

「木下さん、わたしのお兄様になってくれませんか?」

 

「「「「「「「「へっ?」」」」」」」」僕たちは叫んだ。どういう意味だろう?

 

「すまん、結城。緊張のあまり言い間違ったようじゃ。もう一度頼む」

「はい」

 

「「せぇ~の」」

 

「結城、ワシと付き合ってくれんかのぉ?」

「木下さん、わたしのお兄様になってくれませんか?」

 

「どっどういう意味かの?兄になるというのは」

「はい、私には勘当になった大好きな兄がいるんです。それが木下さんのように女装が似合うキレイな人で、家からいなくなって毎日が寂しくて。それで木下さんがお兄様になってくれればと」

「ワシを男と思っていると言っておったが・・・・・」

「えっ?兄って普通は男ですよね」

 

「ワシの初恋が・・・・・むっむごいのじゃ」秀吉は膝をついて泣き崩れた。

 

「あの~木下さん。そんなにご負担でしたら週に1日だけでもいいのですが」茜ちゃんが無邪気に追い討ちをかけた。


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