「69、7・・0、・・・もう無理だ」一人黙々と腹筋を続けていた颯太君が悲鳴をあげた。
「颯兄大丈夫?」心配そうに近寄っていった少女は何の躊躇いもなく颯汰の腹を足で踏付けた。
「うぎゃ・・・・何しやがる陽向」颯太が思わず上体を起こした。
「あら、お兄様。まだ大丈夫じゃない。じゃ頑張って続けてね。次ダメになったら今度は全体重かけてあ・げ・る」気にした様子もなく少女は涼しい顔で言った。
「(なんで康太たちが逃げ出そうとしたかわかったよ)」
「(・・・・・こんなもんじゃないんだ、あいつの怖さは)」
「さて、最後は康兄ね。写真見せて」
「・・・・・バカを言うな。そんなもん見せられるか」
「じゃ、勝手に見るからいいよ」そういうと陽向は階段を軽やかに上がっていった。
「・・・・・ちょっと待て陽向、勝手に人の部屋に入るんじゃない」康太が慌てて追いかけた。
面白そうだからボクも後をついて行った。よく考えれば康太の撮った写真ってあまり見たことないんだよね。
部屋に入ると陽向ちゃんは既にキャビネットを開けてアルバムを出していた。
「・・・・・キャビネットには鍵がかかっていたはず。どうやって開けた?」そこへ飛び込んできた康太が驚いたように言った。
「ん?これでちょちょいとピッキングを・・・・・」陽向ちゃんは髪留めに使っていたヘアピンをヒラヒラと見せた。
「・・・・・お前は一体どこに行こうとしてるんだ?」
「さてとまずはこの辺から・・・・・」
「・・・・・そっそのアルバムは止めろ。ムッツリ商会の売れ筋なんだ」
「愛ちゃん、こういうのをツンデレっていうんだよ。本当は自分の作品を人に見て欲しいくせに」
「・・・・・勝手に人に変な属性をつけるな。心の底から見て欲しくないと思っているんだ」
どうもこの少女は人の発言を徹底的に自分の有利なように解釈する癖があるようだ。
「愛ちゃんも一緒に見ようよ」とベッドに腰掛けてその隣をポンポンと叩いた。愛子も興味があったので誘われるがままに陽向の横に腰かけた。
「・・・・・いや、愛子は見ない方がいいと思うんだが」
「どうしてさ?何かボクに見られちゃ困る写真でもあるわけ?」愛子はムっとして答えた。
「・・・・・いや、そういう訳ではないんだが・・・・・」
「じゃ、めくるよ」二人の間の微妙な空気を全く斟酌することなく、少女がアルバムの表紙をめくった。
「あっアンナちゃんだ」
「こうしてみると本当に美人だよねえ。あの天然オタク発言さえなければ」愛子が答えた。もっともアンナがそういう発言をするのは土屋家と由美子と愛子の前だけなので、学校では神秘的なクールビューティーとして全学年の男女を問わず大人気なのだが。
「わぁ、綺麗な人だね。この人誰?」
「これは、霧島翔子さんって言って2年生の総代だよ。綺麗で頭がよくて優しくてボクの理想の人なんだ」
「このとっても可愛い人は?」少女は次の頁をめくって尋ねた。
「康太の友達の木下秀吉。こう見えても男の子なんだよ。男のくせにこんなに可愛いなんてズルいよね」
「じゃ、このポワポワした感じの人は?」
「ああ、これは康太のクラスメイトのFクラスの姫路瑞希ちゃん。時々料理を教えてもらってんだ」
「・・・・・お前姫路に料理を教わっているのか?」康太が焦ったように尋ねた。
「なに慌てているのさ。時々だよ。瑞希の料理は調味料を揃えるのが大変なんだから。酢酸とかシアン化カリウムとか」愛子は平然と言った。
「りっ料理だよね・・・」
「もちろん料理だよ」少女は恥ずべきことなどなにもないといった風情で断言した。
「(お母さんの言ってたことは大げさじゃなかったんだ・・・)」陽向は小さな声でつぶやいた。
「うわー、この人高校生とは思えないくらいに妖艶な人だね」
「ああ、この人は3年の小暮先輩だね。茶道もやってるんだけど、着物の時は女のボクでも押し倒したくなっちゃうくらいに色気のある人だよ」
「この人は随分快活そうな人だね。ポニーテールもにあってるし・・・」
「それは島田美波ちゃん。帰国子女でドイツ語ペラペラなんだ。こうみえてもその辺の男より強いんだよ」
「あれ、また木下君だ。でもさっきよりもちょっとワイルドだね」
「いっいや、これは秀吉君の双子の姉の木下優子。ボクの友達なんだ」
「えー、どっちかというとこっちの方が男の子みたいだよ」
「まっまあ、女性としての人気は秀吉君の方が上なんだけどさ・・・」
他にもいろいろな女生徒の写真をみてアルバムを見終わった。
「康兄」陽向ちゃんが言った。
「・・・・・なっなんだ」
「全然ダメ。盗撮ってことを割り引いてもこれじゃお話にならない」
「盗撮ってところは問題じゃないんだね・・・・・」
「あたしが前にアドバイスしてあげたでしょ」そういうと陽向ちゃんはベッドから立ち上がり中指を突き立てて言った。
「逆光は勝利!!」
「・・・・・なっ」
「世はなべて3分の1」
「ピーカン不許可」
「頭上の余白は敵だ」
「・・・・・俺は光画部に入部したつもりはない。だいたいどこからそんな偏った知識を得たのだ、お前は」
「図書室に「究極超人L(えーる)の漫画があってさ、へへへ」