これが土屋家の日常   作:らじさ

119 / 267
第5話

「えっ、偏ってるの」

「・・・・・そうだ。だいたい俺は展示会用の写真を撮っているんじゃなくて、ビジネス用の写真を撮ってるんだ」

「ビジネス用にしたってこの写真はどうかと思うな。視線は来てないし、画像は小さいし」

「・・・・・盗写で視線をもらっているというのは、バレているってことだ」

「にしてもなあ、この写真じゃ単なるピンナップだよ。訴えかけてくるものがなにもない」

「・・・・・売れてるからいいのだ」

 

「(ピクッ)・・・・・売れてる・・だと・・・」少女がアルバムに視線を落としたまま、地の底から出てくるような声を出した。

「どっどうしたの、愛ちゃん。何かが憑依しちゃった感じだよ」

「ねぇ、「土屋康太く~ん」。このアルバムには大事な人が載ってない気がするなぁ~」

「・・・・・お前に本名で呼ばれるとロクなことがないのだが、まあその写真は売れ筋ベスト20位だからな。全員が載っているわけじゃない」

「・・・・・そんな問題じゃないんだよね。男・土屋康太として売れ方に関係なくトップに持ってこないといけない人が抜けてないかって言っているの」

「・・・・・はて、心当たりはないなあ」

プルプル・・・・・・

「・・・・・と~っても大事な人の写真がないんだけどなあ」

「・・・・・まったく思い浮かばんのだが」

プルプルプルプル・・・・・少女は怒りで震えるとアルバムを少年に向かって投げつけて、胸ぐらを掴んだ。

「バカァ、彼女のボクの写真が一枚もないとはどういうつもりなのさ・・・・・秀吉君の写真まで載っているくせに」

「・・・・・おっ落ち着け愛子」

「これが落ち着いていられるかい。彼女のボクのプライドを何度ズタズタにすれば・・・」

 

「へへへ、愛ちゃん。そんなことなら心配ないよ」陽向が笑っていった。

「康兄が言っていたじゃん。これはビジネス用だって。しばらくそのまま捕まえていてね」

「え、陽向ちゃん何するの」

「・・・・・陽向止めろ」

「康兄の性格からすると、この辺かな?あ、あった」キャビネット棚の上段をあさっていた陽向が嬉しそうに言った。

「うん、このアルバムの素っ気なさからみても間違いないよ。愛ちゃん一緒にみよう」

陽向が再びベッドに腰を下ろしたので少女も側に座ってアルバムを開いた。

「・・・・・たっ頼む、それだけは止めてくれ」

「男らしくないよ康兄。いいじゃん愛の結晶なんだから」

 

アルバムを開くと少女の写真だけが並んでいた。何時の間にとったのか制服で友人と談笑している写真、プールから上がって髪を拭いている写真、いつか縁日であった時の浴衣姿の写真、いつかの温泉旅行の写真(バックに5馬鹿が写っているのがとっても邪魔だったけど)・・・・・etc.

「康太、何時の間にこんなに撮ったのさ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「黙ってちゃわかんないよ、康兄・・・ウリウリ」足で兄をつつき回す妹。

「・・・・・・・・・・・」

「ふーん、あくまでもバックれるんだ。じゃこの写真をブログに載せて「愛の劇場」とでもタイトルをつけて世界に公開を・・・・・」

「・・・・・お前はどんだけ恐ろしいことを考えるんだ」

「陽向ちゃん、それって康太よりもボクにダメージが大きいんだけど・・・」

 

「そっか、でも愛ちゃん。安心していいよ」

「えっ、何を安心するのかな?」

「この写真は、さっきの写真と違って愛が感じられるから」

「・・・・・この写真が?ピンぼけだし、被写体は小さいし、さっきのピンナップの方が随分いいように思うんだけど」

「写真の価値はそんなもんじゃないんだよ。ロバート・キャパの写真だって有名なものはピンぼけなんだよ」

「・・・・・お前に写真の何がわかるんだ」

「失礼だなあ康兄。あたしは写真は撮らないけど、絵だったらこれでも県展で金賞とってるんだよ。被写体の訴え方なんてそうは変わらないでしょ」

「・・・・・ついにそんなところまで行ったのか」

「それにわざわざ写真をわけて保存するなんて他にどんな理由があるのさ」

「・・・・・そっそれは」

「・・・・・(真っ赤)」

「というわけでよかったね愛ちゃん。康兄はいくらピンナップでももう少し腕を磨いた方がいいよ。なんでもかんでもオートフォーカスに頼ってちゃ腕は伸びないよ」

 

「・・・・・あ、あのな愛子さん」

「・・・・・なっ何かな康太君」

「・・・・・いや何でもない」

「あっあのね。売らないんだったらボクの写真何枚でも撮っていいよ」

「・・・・・そっそうか」

 

「ゴホン」陽向がわざとらしく咳をした。

「あの~、あたしまだここにいるんだけど・・・・・」

 

「・・・・・(真っ赤)」

「・・・・・(真っ赤)」

「まあ、いいや。あたし自分の部屋に荷物開いて。それからシャワー浴びるね。イチャイチャの続きをどうぞ」

「・・・・・できるか!」

トコトコと陽向は部屋から出て行った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。