これが土屋家の日常   作:らじさ

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第4話

ところでさっきから聞こえてくる金槌の音がなんだろう?教室を見渡してみるとクラスメートが声も掛け合わないのに、一糸乱れぬ動きで窓を釘で打ち付けていた。

 

「あやつらはさっきから何をしているのじゃ?」

「ムッツリーニの処刑の準備だね。窓から逃げ出さないように釘で打ちつけているんだ」

「恐ろしいほどリンチ慣れしているな」

「しかしムッツリーニはFFF団の特別顧問じゃろう。仲間にそう酷いことはしないんじゃないかのう」

 

秀吉が甘いことを言う。FFF団に仲間という概念はない。あるのは敵か怨敵かだ。怨敵を倒すためには悪魔とだって手を組むことを厭わない、それがFFF団だ。

 

「いや、良いこと言っているように聞こえるが、最低じゃぞおぬしら」

「とりあえず、あそこに会長の須藤君と幹部連中が集まっているから話を聞いてきてみるよ」

 

教室の後ろの方で、須藤君と2人のクラスメートが深刻な顔をして話をしていた。

やはり、特別顧問のムッツリーニの処刑ともなると慎重にならざるを得ないのだろう。

 

「・・・・・牛を・・・・・」

「手足を・・・・・八つ裂きに」

「できるだけ・・・・・長く苦しみを・・・・・」

 

うん。特別顧問の肩書が何の役にも立ってないということが分かった。とりあえず、止めた方がいいんだろうな。

 

「ちょっと待ってよ。女の子に名前で呼ばれたくらいで処刑なんて酷すぎるよ。雄二なんて霧島さんから毎日呼び捨てで呼ばれているじゃないか」

「・・・・・ん?そうか、そうだったな。じゃ坂本も一緒に処刑をするということで」

 

すまない雄二、傷口を広げてしまったようだ。雄二には事故にあったものと諦めてもらうことにして、美波が僕のことを呼び捨てどころか「アキ」と愛称で呼んでいるところに連中の考えが及ばないうちに話題を変えよう。

 

「それに牛を使って八つ裂きなんてできるわけないじゃないか。この辺には牛はいないんだよ。せめて自動車かバイクで・・・・・」

「それもそうだな。すまんな明久。処刑の方法まで相談にのってもらって」

 

いけない。どんどん泥沼にハマってしまうというか、このままでは僕がリンチの首謀者になってしまう。とりあえずここはひとまず退散しよう。

 

「どうだった明久」

「だめだ止められなかったよ。ところで全然関係ないけど今日の体調はどうだい雄二」

「いや、別に普通だが」

「全力疾走とかジャンプとかできそうかい」

「ああ、それくらいなら大丈夫だと思うが・・・・・一体何をした」

「僕は何もしてないけど、もしかしたら酷い目に会うかも知れないとテレビの占いでやってたんだ」

「そんなことよりムッツリーニは大丈夫かのう。クラスの雰囲気がどんどん剣呑になってきておるんじゃが」

「そうだった。明久とりあえずムッツリーニには、鉄人と一緒に教室に入れと伝えてこい」

「坂本、そんなにムッツリーニのことが心配なの」

「友達思いなんですね坂本君って」

 

美波も姫路さんも何年付き合っていれば雄二の本性がわかるんだろうか。こいつは自分の利害以外で人のことを心配する奴じゃない。

 

「そういえば、雄二はなんでそんなにムッツリーニのことを気にしているのさ」

「ああ、実は来週にでもAクラスに試召戦争を仕掛けようと思っている。ムッツリーニの保健がなくなればキツい」

「試召戦争?また急な話じゃのう」

「お前ら、姫路に少しはいい環境で勉強させてやりたいとは思わんのか。体が弱いのにこんな劣悪な環境だなんて、俺には我慢できん」

「あの、坂本君。私のこと心配してくれるのはありがたいんですが、勝てるかどうかわからないAクラスよりもCクラスくらいで十分ですよ」

「そうだね。Aクラスに戦争挑んで負けたら今より悪い環境になるわけだし、ここは手頃なCクラスでいいんじゃないかな。Cクラス相手ならムッツリーニも必要ないだろうし」

 

何しろ今のFFF団を止めようとしたら、こっちの命が危ないのだ。ムッツリーニ一人の犠牲で済むなら安い買い物と言えるだろう。

 

「バカ野郎。こんなところでずっと我慢していた姫路のためにも最高の環境のAクラスで勉強させてやろうと思わないのか、お前らは」

 

雄二がいつになく力説している。こいつがこんなに姫路さんのことを考えていたなんて。

 

「感動したよ、雄二。君がそんなに姫路さんのことを考えていたなんて・・・・・で、本音は」

「今度の試召戦争に負けたら翔子の両親に挨拶に行くことになった」

「さ、そろそろ授業だから席につこうか、みんな」

 

どうせこんなことだろうと思っていた。だいたい雄二もそろそろ現実をちゃんと見つめるべきだ。Aクラスに勝とうが負けようが、霧島さんが両親に会わせると言ったらどんな手段を使っても会わせるに決まっているのに。

 

ガラっとドアが開いた。FFF団の連中が今にも飛びかかろうとしたところに現れたのは、担任の鉄人だった。ムッツリーニはその後ろから静かに教室に入ってきて自分の席についた。さすがのFFF団も鉄人の目の前で手を出すわけにはいかない。授業が開始された。

 

誰かが小声でつぶやくお経がとても耳障りだ。


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