これが土屋家の日常   作:らじさ

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第7話

「そうだったの・・・」由美子が言った。

「だから時々、あんなに寂しそうな顔するんだね」少女も言った。

「でもソータ、ヒナタのこと忘れてたでショ」とアンナが聞いた。

「そりゃ、2年間全然音沙汰なかったからな。そうしょっちゅうは思い出さんが・・・何故だ?」

「天才は忘れたころにやってくるといいマス」

「お前の日本語能力を素直に誉めてやる気になれんのは何故だ」

「照れてるんデスね」

「呆れてるんだ、バカ者」

 

そこにシャワーから上がった陽向がやってきた。髪をサイドポニーに留め、タンクトップに短パンの彼女は標準よりも小柄に見えた。

 

「なになに、颯兄。明日あたしを遊びに連れてってくれる相談?あたし可愛い服が欲しいな」

「陽向、残念だが来週ライブだから明日は一日練習だ」

「え~、一日ぐらいサボってもいいじゃん」

「プロを舐めるなバカもん。合コンならともかく妹のお守りで練習をサボれるか」

「(合コンならサボるつもり満々なんだね)」

「(・・・・・あいつらの合コンなんてどうせ5馬鹿絡みだから必然的に練習は休みになる。ヘタしたらライブ直前でも合コンを選びかねん。そういう連中だ)」

 

「ハイ、ソータ。ワタシが遊びに連れて行ってあげマス」

「お前が遊びに?非常に不安なんだが、どこに連れて行くつもりだ?」

「中野と池袋と秋葉原デス」

「却下だバカもの。うちの妹を何にするつもりだ」

「中野では、せんだらけに行って・・・」

「ダメだと言ってるだろうが。だいたい陽向は可愛い服が買いたいと言ってるのに・・・」

「じゃあ秋葉原デス」

「秋葉・・・・・?」

 

「(おい、秋葉に洋服屋なんてあったか?)

「(ボクはあまり行ったことないけど、見た記憶ないです)」

「(そういや、作業服や鳶のニッカボッカーを売ってる店があった気がする)」

「(そういうの可愛いって言うかしら)」

「(・・・・・だが、あのトンデモ親父に育てられた娘だからありえないことではない)」

 

「やあ、待たせたねアンナ君。で、君の言う店はどんな作業着を売ってるんだね?」

「作業着?ワタシは可愛い服と言ってマス。作業着は可愛くないデス」

「おお、そうか。それはよかった。で、どんな可愛い服を売ってるんだ?」

「ハイ、メイド服とかエプロンドレスとか春麗の衣装とか・・・・・」アンナは夢見るように遠い目で言った。

「コスプレ屋じゃねえか」

「エヴァのプラグスーツもあります」

「・・・・・それは少し見てみたいかも知れん」

「装備Bタイプ・マグマダイバー型」

「どんだけマニアだそりゃ。お前は陽向をどんだけ業深くするつもりだ。却下だ却下」

 

「じゃ陽兄、陽兄ならこの可愛い妹を遊びに連れていってくれるよね」

「いや、それがな・・・・・」陽太が口ごもる。

「えぇ~、陽兄もだめなの?」

「すまん、明日は由美ちゃんと久しぶりのデートなんだ」

「いつも一緒にいるんだしデートなんていつでもできるじゃん」陽向は口をとがらせて抗議した。

「いや、俺も専門が入ってきて実験で忙しくなったし、由美ちゃんも今パテシエからケーキ作りを教わり始めて、なかなか二人の時間が合わないんだよ。本当にすまんな。今度連れて行ってやる」

 

陽向の顔が少年と少女の方を向いた。

「康兄なら大丈夫だよね。こんなに可愛い妹を見捨てたりしないよね」

「いや、それが週末にレンズの特売があってな。その資金を得るために商品の整理をしなくちゃならんのだ」

「そんなのと妹とどっちが大事なのさ」

「すまん。さすがにレンズ半額の魅力は大きい。今度は絶対付き合ってやるから」

「もういいよ。冷たいバカ兄貴たち」陽向は言い捨てると2階の部屋へと駆け上っていった」

 

「陽太君、可哀そうじゃないかしら。デートは今度でもいいのよ」

「大丈夫だよ由美ちゃん。明日になればケロっとしてるよ」

「ねぇ康太。なんだったらボクが連れてってあげようか」

「・・・・・お前に可愛い服を売ってる行きつけの洋服屋があるとはしらなかった」

「失礼な。ボクにだって行きつけの洋服屋くらいあるよ」

「・・・・・ほう、どんな服を売ってるのだ?」

「可愛いスパッツとか可愛いジャージとか可愛い競泳用水着とか」

「・・・・・何でも可愛いをつければいいというもんじゃない。第一それは洋服屋じゃなくてスポーツ用品店だ」

「ソータ・・・」

「いいからお前は黙っててくれ」

 

 

夜中、少女の携帯の着信音が鳴った。

「非通知・・・だれだろ?はい」

「・・・・・愛子か?」

「何だ康太か?誰かと思っちゃったよ。どうしたのこんな遅くに」

「・・・・・あれからよく考えたんだが、陽向を買い物に連れてってやろうと思うんだ。悪いがぜひ付き合ってくれないか」

「あ、うん。その方がいいと思うよ。ボクは構わないよ」

「・・・・・助かる。じゃ○○駅の東口改札に10時で頼む」

「うん、わかったよ」

「・・・・・愛子」

「え、なに?」

「・・・・・ありがとう。チュっ・・・・・ツーツーツー」

「えっええっえええ、チュって・・・・・え~」

 

夜中、少年の携帯の着信音が鳴った。

「・・・・・非通知・・・誰だ?はい」

「もしもし康太?」

「・・・・・愛子か?非通知だから誰かと思ったぞ。どうしたこんな遅くに」

「あれからよく考えたんだけど、陽向ちゃんを買い物に連れてってやろるべきだと思うの。せっかく2年ぶりに会ったんだもの、お兄さんに甘えたいんだよ。写真の整理はボクも手伝うからさ一緒に買い物に連れてってやろうよ」

「・・・・・そうだなその方がいいかも知れん」

「ありがと。じゃ○○駅の東口改札に10時でね」

「わかった」

「康太」

「なんだ?」

「・・・・・ありがとう。チュっ・・・・・ツーツーツー」

「えっええっえええ、チュっだと・・・・・」

 

夜中、陽向は携帯を回してニヤニヤしながらツブやいた。

「赤子の手を捻るより簡単だねあの二人。説得プランを10まで考えてあったんだけど使うまでもなかったや。騙すのはちょっと気が引けるけど最後にサービスしといたからいいよね」

 


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