午前10時の改札前に少年と少女は立っていた。
「・・・・・念のために聞くんだが、また20分前から柱の陰で見ていたのか?」
「当たり前だよ。それがデートのルールなんだし」この少女にとって男性が待ち合わせ場所に先に来て待っているというシチュエーションはどうしても譲れないポイントのようだった。「・・・・・まあ、いろいろと大変だなと言っておく。それよりも妹のためにいろいろと考えてくれてすまなかった」
「・・・・・えっ?。うん、ボクも康太があんなに陽向ちゃんのことを考えていたなんて感心したよ」
「・・・・・んっ?。まあ、気にはなっていたからな。・・・・・ところで」
「・・・・・陽向はどこだ?」
「陽向ちゃんはどこ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・お前と一緒ではないのか?」
「何でボクと?家から一緒に出なかったの?」
「・・・・・お前が陽向を買い物に連れて行ってやろうと言ったからお前と一緒に来るんだと思っていたんだが」
「康太が買い物に連れて行ってあげたいって言ってたからボク付き合いのつもりだったんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・お前は何の話をしているんだ?」
「康太こそ何の話をしてるのさ」
「「昨夜の電話の話だ・・・・・」」二人が同時に叫んだ。
その時「遅くなっちゃってごめん。なに痴話ゲンカしてるの」とサイドポニーに髪をまとめた陽向が現れた。
「・・・・・陽向、お前愛子に誘われたんじゃなかったのか?」
「陽向ちゃん、康太と買い物に行くんじゃなかったの?」
「何かと思えば電話の話か。いいじゃんサービスしてあげたんだから」と言って2人に向かって
「チュッ」っと投げキスした。
「・・・・・あっ、あれはお前の声真似だったのか」
「なんのこと、声真似って」
「・・・・・こいつは人の声を真似ることができるのだ」
「じゃ、昨日の電話は康太じゃなくて陽向ちゃんだったの?」
「まあ、そうかな」
「・・・・・そうかなじゃない」
「ひっヒドいよ陽向ちゃん、ボッ、ボク嬉しくて寝れなかった・・・ということは全然なかったんだけどね、うん」
「・・・・・目が真っ赤だぞ、愛子」
「うるさい康太。そっちこそ目の下に隈が出ているじゃない」
「二人ともたかが電話のチュッくらいでそんなに喜んでもらえて、あたしも嬉しいよ」
「「喜んでない!!」」少年と少女は同時に叫んだ。
「・・・・・まあ、今更騒いでもしょうがない。どこへ行きたいんだ陽向」
「ん~、時間はあるしゲームセンターに行こうよ」
「(ピクッ)・・・・・・ゲーセン?」
「・・・・・どうした愛子」
「ふふふふ、ストリートファイター愛子と呼ばれたボクが直々に相手をしてあげるよ」
「えーっと、ストリートファイターって何?康兄」
「・・・・・俺もよく知らんが、あいつの根拠のないプライドの一つらしい」
3人は揃って駅近くの大きなゲームセンターに移動した。
「じゃ、相手してあげるよ陽向ちゃん」愛子は腕を撫でながら椅子に腰かげた。
「あのね、愛ちゃん。あたし初心者だから手加減してね」陽向が筐体の反対側の椅子に座って言った。
「ふふふ、陽向ちゃん。本気でかかってくる相手に手加減は失礼だよ。ボクの力の限りを尽くして戦ってあげるよ」
ゲームが開始された。陽向はむやみやたらにレバーをガチャガチャさせてボタンを叩きまくっていた。いわゆるガチャ打ちという奴だ。一方、愛子は余裕を持ちながら必殺技を連発する。
「・・・・・初心者相手にコンボの連発とは大人気ないにもほどがある」
「久しぶりだからね。これでも遅いんだよ」
「・・・・・そういう問題ではない」
20秒も持たずに陽向が負けた。
「すぐ第二ラウンドだよ」愛子が楽しそうに言った。
・・・・・30分後、12個目の100円玉を筐体に入れた。
「・・・・・いい加減に止めた方がいいんじゃないか?」
「うるさい、そんなこと言う暇があるなら両替してきて」1000円札を少年に突き出した。目には微かに涙がにじんでいた。
「・・・・・やれやれ」1000円札を握った少年は筐体の反対側に回った。
「・・・・・いい加減に手加減して負けてやれ。泣きかけているぞ」
「愛ちゃんって本当に負けず嫌いなんだね」余裕の表情で陽向が言った。
「じゃ、こういうのどうかな?」
すると陽向のキャラの動きが鈍くなり、愛子のキャラの攻撃が当たり出した。みるみる陽向のゲージが減っていき、あと一目盛りとなった。愛子が最後のとどめを出そうとしたその瞬間、陽向の大技コンボが炸裂し、愛子のキャラが地に倒れていた。筐体の反対側から愛子の叫ぶ声が聞こえた。
「・・・・・お前はどんだけ性格が悪いんだ」