「いやぁ・・・・ニャハハ」陽向が頭をかいた。
「・・・・・誉めてない。1mm足りとも誉めてないぞ、陽向」
「・・・・・「アホの子伝説」って例えば?」
「・・・・・ふむ、一番多かったのはお使いだな」
「お使い?」
「・・・・・お袋が「陽向ちゃん、お使いお願い」というと「分かった」と言って、あっと言う間に玄関から飛び出しているんだ」
「何か問題があるの?」
「・・・・・お使いの内容も聞かず金も持たずに飛び出さなければ問題はなかっただろうが」
「短気だったんだよねぇ」
「・・・・・何を人ごとのように言っているのだ。お袋はいつもお前の後を追って駆け出してたぞ」
「お母さんも走るの早いんだよね。いつも途中で追いつかれちゃった。でも小5の頃から商店街に着くまで追いつかれなくなったよ」
「・・・・・何を自慢している。お袋は自分で買い物して帰ってきてたぞ。全然お使いにはなってない」
「それでも懲りずにお使い頼むお母さんも強者だよね」
「・・・・・朝顔事件というのもあったな」
「じっ事件なの・・・・・」
「・・・・・こいつが夏休みの宿題で朝顔の観察日記を書くために朝顔を植えようとしたんだ」
「そんなの普通じゃないの?ボクだってやったよ」
「・・・・・その穴を掘るためにユンボを持ち出さなかったら普通だろうな」
「ユっユンボって工事現場で穴掘るあの機械?」
「・・・・・ああ、近くの工事現場からユンボを持ち出して家の庭に穴を掘ろうとした」
「だって動かすのに鍵がいるでしょ」
「あのね。キーイグニッションの線を二つ直っけ・・・・・痛い、何で康兄はそんなにポンポン殴るのさ」
「・・・・・ロクでもないことしか言わんからだ。まあ、それで家の庭に穴を掘ろうとしたんだが、屏が邪魔で庭に入れない。屏を怖そうとアームを振り上げたところでゴルフの練習で庭に出ていた親父に止められた」
「もうちょっとだったのに残念だったよ。お父さんもケチだよね。一掘りくらいさせてくれればいいのに」悪びれずに陽向が答えた。
「・・・・・颯太兄貴が苦労して工事現場に返したからバレずに済んだが、バレたら大事だったぞ」
「でも、どこにもぶつけずに家まで運んだんだから問題ないじゃん」どこが悪いのかわからないといった風情で陽向が言った。
「・・・・・工事現場のユンボを勝手に家まで持ってきたことが問題なのだ」
「え~、だってずっとあそこに捨ててあったし」
「・・・・・工事中だからあそこに置いてあったのだ」
何というか、全然話が噛み合ってないなぁと少女は思った。
「・・・・・極めつけは犬ゾリ事件だ」
「犬ぞり?」
「・・・・・ああ、「動物の歯医者さん」という漫画の中で犬ゾリレースがあって、それに感化されて犬ゾリをやりたかったらしい。そこらに捨ててあった自転車の車輪でソリを使って犬ゾリをした」
「康太んちってそんなに犬を飼ってたっけ?」
「・・・・・近所中の犬を勝手に使った」
「人の犬って危なくない?ソリに使うんだから大型犬でしょ」
「・・・・・ああ、シベリアンハスキーにゴールデンレトリバー、秋田犬と多士済々だ」
「危ないじゃない」
「・・・・・うちの近所の犬で陽向に逆らえる奴はいない。あ、一匹だけいうことを聞かない奴がいたなそういえば」
「吉田さんちのペスのこと?いい子だったよ。あたしが首に抱きついて「お願い」って言ったら快く「ク~ン」って承諾してくれたもん」
「・・・・・口から泡吹いてたぞ、あの犬」
「えっ、あれてんかんだったんじゃないの?」
「・・・・・それならそれで問題あるだろ。それはともかく犬を6匹揃えて公道で走らせたわけだ」
「それでどうなったの?」
「・・・・・パトカーに見つかって、10分間のカーチェイスだ。タイヤがパンクしてなかったら路地を逃げ回ってパトカーをブッチ切っていただろうな」
「あたしいつもついてないんだよね」
「・・・・・ついているんだバカ者。警官が「時速40kmくらい出てました」と言っていたぞ。それでカーブを曲がりきれずに壁に激突したら大ケガだ」
「その程度じゃ優勝は狙えないね」
「・・・・・何の優勝を狙うつもりだ、お前は」少年にも段々と疲れの色が見えてきた。
「・・・・・ちなみにだ・・・・・お使いを除いて、全て小学校低学年時代の話だ」少年は少女を指差して言った。
「・・・・・いや、何て言ったらいいのやら」少女も返答に迷った様子で言った。
「まあ、ほらあたしもあの頃は若かったからさ・・・・・」全く反省の色を見せずに陽向がいった。
「・・・・・今はそんなことないのか?」
「うん、ユンボは学校の敷地整備の時にしか乗らないし、犬ゾリは犬の世話が大変だからチューンドカーを作っている。設計上は350kmまで出るんだけどね」
「・・・・・余計に悪化しているではないか」