これが土屋家の日常   作:らじさ

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第13話

家についたら陽向ちゃんは「荷物を置いてくる」と行って部屋へ戻った。

 

リビングには颯太君、陽太君、由美ちゃん、アンナちゃんの全員が揃っていた。ボクたちは今日の買い物の話をしたり、陽太君たちのデートの話を聞いたり、颯太君とアンナちゃんのいつものケンカを見学したりしていたけど、いつまで経っても陽向ちゃんが戻ってこなかった。ボクは心配になって陽向ちゃんの部屋へ向かった。

 

「トントントン」ドアをノックした。

「・・・・・・・・・・・・」返事がない。疲れたから寝ているのかな?

「トントントン」

「・・・・・はっはい。ちょっと待って」慌てた声がした。

「いいよ」という声がしたので部屋に入った。陽向ちゃんは荷物を床に置いたまま机の前に座っていた。

「あんまり遅いから心配になっちゃって」

「・・・・・ごめんね。ちょっと疲れちゃってさ」陽向ちゃんは目を真っ赤にして答えた。

「陽向ちゃん、大丈夫」ボクは言った。

「うっうん、久しぶりの外出だから疲れちゃって」忍者の訓練を受けてる子が買い物ぐらいで疲れるものだろうか?

 

「陽向ちゃん、泣いてたの?目が真っ赤だよ」ボクは思い切って聞いてみた。

「え、やだなあ愛ちゃん。そんなことあるわけないじゃない」と言いながら目をゴシゴシと擦った。

「あのさ。全然頼りにならないかも知れないけど、ボクでよかったら相談にのるよ」

「大丈夫。大丈夫」大丈夫でないことは、目がどんどん潤んできていることから明らかだった。

「陽向ちゃんは康太の妹だから、ボクにとっても・・・・いっ妹みたいなもんだから遠慮しなくていいんだよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・愛ちゃん、あのね・・・・・」

「うん」

「あたし、幼稚園の頃から友達いなかったんだ・・・・・」

「・・・・・どうして?」

「小っちゃい頃から天才とか言われて、何やっても人よりとってもうまくできてね。そんなあたしをみんなバケ物みたいに見るだけだけで誰も近寄ってこなかったんだ」

「・・・・・」

「学校の授業もぜーんぶとっくの昔に知っていることばっかりで、ただ黙って座って授業を受けているだけっていうのがツラくって。本当に壊れるかもと思った時に、伊賀行きの話が出たから伊賀に行ったんだ」

 

「・・・・・でも勉強もできるし、陸上だって日本記録5つも出して優勝したじゃない」と少女が言うと陽向が激高した。

「こんな物なんていらないよ。こんなもの5つ貰うより友達が一人でもいる方がいいよ」そういうとトロフィーをベッドに投げつけた。

「こんな物いらない。勉強だってできなくてもいい。今日の女の子たちみたいに一緒に買い物したり、カラオケ遊びに行ったりする友達が欲しかったよ」陽向は号泣していた。

 

少女はベッドに近づくとトロフィーと取り上げポンポンをはたいて元の位置に戻した。そして陽向の後ろに回ると背後から陽向を優しく抱きしめた。

「だめだよ陽向ちゃん。陽向ちゃんが欲しくないトロフィーだって、あれを取るために一生懸命連中した人が何百人といるんだよ。そんなことしちゃその人たちに失礼だよ」

「・・・・・でも・・・・・」

「あのね、日向ちゃん。ボクは陽向ちゃんの孤独とか苦悩とか全部わかるとは思わない。レベルは違うけどボクにも似た経験があるんだ」

「えっ、愛ちゃんも?」

「うん、ボク水泳やっていてね。中学の時、県で優勝して全国大会にも出たことがあるんだ」

「そっそうなの」

「そんなに水泳が強い学校じゃなくてみんなで水遊びしているような学校だったけど、ボクが県で優勝したら顧問の先生が張り切っちゃってね。ボクだけ特別練習で毎日クタクタになるまでシゴかれたの」

「・・・・・」

「みんなはワイワイ楽しくやっているのに、ボクだけ厳しい練習でね。みんなが帰っても一人で泳がされて、段々落ち込んできちゃったの。こんなことなら優勝しなければよかったって思ったよ。帰りも暗くなってから一人でトボトボと帰ったなあ」

「友達は」

「もうその時は、練習だけだったから友達もボクを遊びに誘ってくれなくなってね。学校に一人ぼっちみたいな感じになって、水泳辞めようかと思っちゃった」

 

「何で辞めなかったの?」

「うーん、やっぱり水泳が好きだったんじゃないかな」

「でも、あたしは別に勉強好きじゃない。ただできるだけだもん」

「ねえ、知ってる。陽向ちゃんみたいな才能を英語で「Gift」って言うんだよ。神様からの贈り物」

「いらないよ。こんな贈り物。何もいいことないもの」

「アハハ、じゃ自分で別のいいこと見つければいいんだよ。ボク本当は高校に行ったら水泳やめるつもりだったんだ」

「なんで辞めなかったの?」

「ここに引越ししてきた時に素敵な男の子を見たの。自分のやることに一生懸命で本当にそれが好きなんだなあっていうのが見ただけでわかる子。その子の学校だったら楽しいことが見つかるかなと思って、その子のいる文月学園に転校したの。そしたらね、ボクやっぱり水泳やりたいなぁって分かったんだ。だから今も水泳部に入って楽しくやってる」

「あたしにも見つかるかなぁ」

「見つかるよ絶対」

「友達も?」

「あのね陽向ちゃん。勉強だけが友達じゃないんだよ。恋の話したりお菓子の話したりテレビの話したり。陽向ちゃんと勉強のレベルが同じじゃなくても友達にはなれるんだよ。大体レベルが同じじゃないといけないって言ったら、ボクと康太は付き合えないよ」

 

「じゃ、みんな待っているから早く下に来てね」と少女は言って部屋から出て行った。

 


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