これが土屋家の日常   作:らじさ

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第3話

「「それでは失礼します」」2人の女生徒は頭を下げてドアを閉じた。

 

「それにしても土屋さんってよく学園長にあんな口がきけるわね」由香が感心したように言った。

「もう、由香リンったらいつまでも堅いなあ。あたしのことは陽向って呼んでって言ってるのに。それが難しいんだったらヒナちゃんでもいいよ」

「なんでハードルが上がってるのよ。友達でもないのにそんな呼び方しません、っていうより由香リン禁止だと何度言えば・・・」

陽向の瞳が一瞬哀しそうに曇った「別に学園長だって、取って喰やぁしないよ。伊賀にいた頃なんて、鎖鎌バアさんに何度頭割られそうになったことか」

「・・・・・くっ鎖・・、何ですって?」

「鎖鎌バアさん。鎖鎌の達人でね。分銅をブンブン振り回してあたしに投げつけるの。何にも悪いことしてないのに」

「それは警察呼ぶべきだったんじゃないかしら。近所の人にも危害が及ぶでしょうに」

「それがあたしにだけ鎖鎌振り回すんだよね」

「それもおかしな話ね。何か恨みをかったとか・・・・・」

 

「心当たりがないんだよね。強いて言えばバアさんが飼っていた鶏の卵を盗んだことくらいかな」

「かなって、強いても何もそれで十分だと思うんだけど。それにしてもたった1回卵盗んだくらいで酷い話ね」

「あ、いや。毎日だったから」

「そのおバアさんが火縄銃持ち出さなかったことを感謝すべきね、あなたは」

「やだなあ由香リン。火縄銃なんて普通の家にはないよ」

「伊賀じゃ鎖鎌は普通の家庭に常備されてるようね。にしても人の家の卵を盗るのは感心しないわ」

「だって仕方ないんだよ。あたし卵かけご飯が好きなのに、うちは鶏飼ってなかったんだもの」

「土屋さんご存知かしら?日本には1400年も前から通貨制度というのが導入されているのよ」由香が呆れた様子で言った。

「そんなの知ってるけど家からお店まで遠いんだよ。でも卵は隣の庭にある。そうすると誰でもやることは一つでしょう」

「普通の人間は、毎朝鎖鎌振り回されるよりはお店で買うことを選ぶと思うわ。あなたは勉強の前に人間界のルールというものを学ぶべきね。それにしてもそのお婆さんも過激ね」

「うーん、多分真面目なクリスチャンだと思うんだけど・・・・・」

「忍者の里でクリスチャンってのは珍しいわね。教会通ってたの?」

「ううん、毎回あたしを追い回しながら讃美歌13番を必ず歌っていたから」

「どれだけ世界規模で恨みをかってたのよ、あなたは」

 

 

「あと刀を振り回す日本刀ジイさんってのもいて・・・・・」

「何をやったかは聞きたくもないけど、伊賀の人って何かを振り回していないと人とコミュニケーションができないのかしら?」

「そんなことないよ。手裏剣オジさんは・・・・・」

「ストップ!それ以上言うと書いてる人が伊賀から訴えられるわ」

「え~っ、なに言ってるのかわかんないよ、由香リン」

「いいのよ、いろいろと大人の事情というのがあるの。あと由香リン禁止」書いている人のことまで思いやる由香であった。

 

「まあ、そういう年寄に揉まれてきたあたしからすれば、学園長なんて怖くもなんともないって」陽向があっけらかんとして言った。

「揉まれたというより、あなたが騒動起こしてただけのようにしか聞こえなかったんだけど」

「それにさ。きっと学園著はやんちゃな生徒の方が好きだよ」

「また、そういう。何を根拠に・・・・・」

「目だよ。学園長だって若い頃はやんちゃだったはずだよ。今だってやんちゃな目をしてるもん」陽向はニカっと笑って言った。

 

 

「雄二これはどういうことかな」掲示板に貼られたババア、いや学園長の通達を見ながら隣の雄二に聞いた。

「どうもこうも学年対抗の試召戦争を向こう一か月間認めるってことだろう」

「じゃあ恨み重なる3年Aクラスに復讐できるということだね」

「明久よ、よく読むのじゃ。クラス対抗ではなく学年対抗、つまり学年まとめての試召戦争じゃ」

「・・・・・嫌な予感がする」

「じゃあAクラスからFクラスまで一緒に戦うということだね」

「・・・・・そう」

「わっ、毎度のことながら、お前はどこから現れてくるんだ、翔子」

「・・・・・そんなことは些細な問題」

「些細じゃねぇ。さっきまで気配もしなかったぞ」

「・・・・・大事なのはAクラスの代表が総代表ということ。つまり2年生は全員私の部下」

「まあ、そういうことになるのじゃろうな」

「・・・・・ということで雄二。これから市役所に婚姻届を出しにいこう」

「「ということで」の前後の文が全く繋がってないぞ。なんで俺がお前と婚姻届を出しに行かなきゃならんのだ」

「・・・・・命令だから」

「はぁ?」

「・・・・・総大将は部下に好きな命令を出せる」

「あほか。そりゃ試召戦争に関してだ。プライベートにまで命令できる訳ないだろうが」

「・・・・・ダメとは書いてない」

「そんな命令出そうなんて考える奴は、学園中でお前だけだからだ」

「・・・・・後出しはズルい」

「お前にだけは権力を持たしちゃいかんと良くわかったよ」

どんな隙も見逃さずに雄二に結婚を迫る霧島さんの行動力を僕たちは少し見習うべきなんだろうか?

 


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