これが土屋家の日常   作:らじさ

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第5話

「さて、各々がた。いよいよ決戦だよ」陽向は抑えきれない喜びを表しながら各クラス代表を見渡して言った。

「だから、あんたは教壇にあぐらかいて座るのを止めなさいって言っているのに」義務のように由香が言った。

「お願いしていた3年生の進路の調査は終わったかな」

「ああ、ちゃんと取ってきたけどこんなのどうすんだ、お館様」Bクラスの代表が言った。

「これから3年生の名簿を渡すから、それにそれぞれ進路を書いてちょうだい。貴重な情報よ。由香リン、これをみんなに渡して」

「あたしはあんたの秘書じゃないのよ。あと由香リン禁止」由香はブツクサいいながらも書類を各クラス代表に配った。

 

「で、結局お館様はどうするつもりなの。様子見するのそれとも2年に戦争を吹っ掛けるの」Cクラス代表が言った。

「何のために全校戦争を学園長にお願いに行ったと思っているのよ。もちろん試召戦争を仕掛けるわ」

「2年のAクラスは強者揃いらしいぜ。代表から5席までほとんど実力差はないらしい」

「そのかわりFクラスが恐ろしいほど足を引っ張ってくれるという話だ。ブルマ姿の女子の団体当てればクラスの9割がこっちに寝返ってくれるらしい」

「ある意味、恐ろしいクラスね」由香がボソリと言った。

 

「どっちでもないわ。あたしたちの敵は3年よ」

「「「「「えぇ~」」」」」一同が驚愕の声を上げた。

「お館様、それは無茶だ。2回戦わないといけないことを考えると2年を先にやった方がいい」

「そう、2年と3年は仲が悪いから、2年と戦っても3年は参戦してこない。うまく行けば一緒に2年と戦ってくれる」

「ケンカの常道は強い奴から倒すことだぜ」Fクラス代表の竜崎誠が言った。

「うーん、マコちんはやっぱケンカ慣れしているだけあって良いこと言うね。でも、やっぱりこの場合戦うべきは3年なの」

「だからマコちんじゃねぇってんだろうが」

「話の腰を折らないでマコちん。この場合、表面的な強さだけみちゃいけないの。3年は受験があるから、進路によって選択科目が違っているはずよ。具体的に言えば、国立大学、私立文系、私立理系。国立大学は万遍なく勉強しているだろうけど、私立系は文系なら理数は勉強してないし、理系なら社会、国語なんかは勉強していないはず。持ち点は2年の最後の点数が持ち越されるから、それなりにあるでしょうけど補習で点数の補填はほとんど望めないってわけ。だから最初だけは手ごわいかも知れないけど、ある程度点数を減らせばもう戦力復帰は無理ってことなの。だから一見怖そうに見える3年の方が実は弱いの」ここで陽向はみんなを見渡した。

「それにさっきみんなが言ったとおり2年と3年は仲が悪いから、あたし達が3年に宣戦布告しても2年はあたし達を攻撃してこない。まず、静観ね。3年に宣戦布告する可能性もあるけどそれは低いわ。だって、この戦争が終われば今度は2年と戦うんだもの。できるだけあたし達の戦力は削いでおきたいはずだもの」

 

「ところで相手が国立志望だったらどうするんだ」

「その時は5教科以外、例えば保体とか音楽で勝負を挑むわ。そのためのスペシャルチームを組むの」

「結局、どうするんだ?」

「まず攻撃と守備に分けるわ。攻撃はA、B、Cクラス。守備は、D、E、Fクラス。

「攻撃チームはそれぞれの組の生徒を点数で3つのグループに分けてちょうだい。他の科目はどうでもいい、その科目だけ強ければいいから。1つは対国立向けのスペシャルチーム。音楽と保体の点数を最優先。2つ目は対私立文系向けの理数チーム。数学と理科の点数の高い人を選んでね、国語や古文や社会なんて赤点でもいいわ。3つ目は対私立理系向けの人文チーム。国語、古文そして社会の点数を優先して」

「いくらこっちが対3年チームを作っても相手が進路別にチーム作ってないと意味がないでしょう」由香が言った。

 

「ふふふ、いい質問だね、由香リン。でも大丈夫。3年生は絶対に上の3チームに分けてくるよ」

「何でそんなことわかるのよ」

「わかるよ。まず、第一にあたしが3年生だったら絶対にそうする。第二にチーム員を適当にバラバラに揃えたら戦力が低い方で平均化して不利になる。クラス対抗ならしょうがないけど、これは学年対抗だからね。クラスに関係なく高い点数を取れる科目の人同士でチームにするはず。第三に3年生は1年なんて眼中にないから、仮に1年から仕掛けられてきても力技で押しつぶそうとする。それだったら全員が得意な科目を揃えてその科目で勝負をかける」

「じゃ、勝てないじゃねぇか」竜崎が言った。

「そこでこっちも秘密兵器を使うの」陽向がニカっと笑った

 

「あなたの言うことはさっぱりわからないわ。秘密兵器って何」由香が言った。

「さっき組み分けしてもらったメンバーとは別にラグビー部や柔道部などの運動部で体格のいい力のある人を8人とC、D、E、Fクラスからどの教科も不得意で戦力にならないという人8人と各部のメンバーを1人選んでもらいたいの。それがあたしたちの秘密兵器」

「そんなの何に使うんだ?」竜崎が聞いた。

「突撃隊と救援隊と偵察隊を作るの」

「「「「「突撃隊と救援隊と偵察隊???」」」」」

「そう、いくらこっちが相手に会わせてチームを組んでも立ち会い人の先生の科目が3年生有利のチームだったら意味がないでしょ。その時は突撃隊のメンバーが突っ込んで先生を召喚フィールド外に引っ担いでくる。その後、救援隊がこっちの得意科目の先生を真ん中に引っ張っていって、戦闘開始すればこっちの得意科目で戦えるというわけ」

「偵察隊ってのは何?」

「相手は階段とか廊下とかをチームで守っているはずだよね。そこにこっちの対抗チームをうまく当てるには、相手が国立か理系か文系かを見分ける必要があるの。そのために反対側の校舎の屋上に偵察隊を配置して、自分の先輩がどこのチームにいるのかを見つけて欲しいわけ。その情報に従ってこっちの攻撃チームを動かすわ」

 

「よくもまあ、そんな卑劣な手が思いつけるものね」由香が呆れたようにいった。

「へへへ、だから伊賀の竹中半兵衛と呼ばれていたって」

「心の底から呆れているんだけど?あと、伊賀の諸葛孔明はどこ消えたの」

「ちょっと気になるんだが」竜崎が考え込むように言った。

「何かなマコちん」

「マコちんじゃねぇ・・・いや、話が進まないからそれはいい。守備と攻撃に分けるというのは賛成だが、攻撃チームにA、B、Cクラスと成績のいいクラスを集めちゃ、守備が弱くなって敵がお前のところに殺到するんじゃねぇか?」

「ああ、そのことか」陽向はこともなげにいった。

「そのことかって、お前自分だけで勝つつもりかよ」

「違うよ。D、E、Fクラスの人たちには申し訳ないけど捨石になってもらうの」

「捨石ってどういう意味だよ」竜崎が気色ばんだ。

「あ、ごめん。言葉が悪かったね。時間稼ぎをしてあたしがこっち側にいると思わせてくれればいいの」

「意味が分からないわ土屋さん」由香が首を傾げて言った。

「だって、あたしも攻撃に参加するもの」陽向は当然のように言った。

 

全員が目をパチクリさせた。

「あのね、土屋さん。試召戦争のルールではね。代表は自分の位置を相手に教えていなければいけないの」

「うん、知っているよ。10分ごとに教えなければいけないんだよね。だからその10分で3年の教室に駆け付ける。申し訳ないけど3年の代表を仕留められるのはあたししかいないと思うんだ。だけど他の人間を相手にしている暇はないの。だからみんなにはそれ以外を押さえて欲しいんだ。攻撃チームの作戦が成功すれば相手の防衛線に穴が開く。そこからあたしが突っ込む。だから守備チームは攻撃チームが穴をあけるまでの時間を稼いで欲しい。それしか勝ち目はないと思うの」

 

一同が黙り込んだ。

 

「あたしのスタンドプレーに見えるかも知れないけど、受け身に回ったら絶対負けるよ。だから集中攻撃の一点突破で相手の大将の首を取る。大丈夫、暗殺は忍者の得意技だよ」

 

 


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