これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

1時間目よりもパワーアップした殺気の中で、ムッツリーニの顔もますます青ざめていった。奴も特別顧問として数々の処刑に立ち会ってきた男だ。FFF団の恐ろしさは身に染みているに違いない。全員が授業を聞くふりをしてムッツリーニを睨みつけている。そしてまた運命のカウントダウンが始まった。

 

「5、4、3、2、1」そして「ゼロ」。

 

ガラっ「ねぇ、こっ康太。教科書ありがとう助かっちゃったよ。あっ、あの良かったら今度ボクの家で数学の勉きょ・・・・・キャア」

 

ムッツリーニが工藤さんの口をふさいで廊下へ連れ出す。FFF団は例によって全員またフリーズしている。どうでもいいが、この連中人一倍スケベな割には女の子に耐性がなさすぎるのじゃないだろうか?Fクラスにだって姫路さんや秀吉という立派な女の子がいて腕を取られて両足が関節を逆の方向に・・・・・

 

「ギャア・・・美波、イタイイタイ。その関節はそっちの方向には曲がらないってば」

「あんた今、何か失礼なこと考えていたわね」

「そんなことないよ。イタタタタタ」

「あるのよ。誰が女じゃないのよ」

「そんなこと思ってないって。ただ、Fクラスにだって姫路さんや秀吉という立派な女の子がいると、ギャアアアアア」

「やっぱり、そんなこと考えていたのね。あと何cm曲げると腕って折れるのかしら」

「おぬしらいいかげんにせい。とりあえず今はムッツリーニのことじゃ。あと、わしは男じゃ」

 

美波はシブシブと腕を話した。おかしいこの国は自由主義国家で言論の自由が保証されていると鉄人が授業で言っていたはずなのに、僕は家でも学校でも自由に自分の気持ちを喋ることができない。

 

「じゃ、また僕が会話を聞いてくるよ」

「いや、明久行かんでいい。どうせ大した話はしていないだろうし、お前から話を聞くと余計混乱してくる」

「じゃ、坂本は状況がわかっているの」

「翔子からの情報と今の現状、そして姫路の話からおおよそわかった」

「どうなっているんじゃ結局」

「まず、翔子情報だがムッツリーニと工藤は、この間のテストで保健の科目の勝負をして負けた方は

勝った方の言うことを1つだけ何でも聞くという賭けをして工藤が勝ったらしい」

「「「「ふむふむ」」」」

 

「それで工藤の条件というのが、自分のことを「愛子」って呼ぶこととお昼を一緒に食べることだったらしい」

「でも、それだと条件は2つになるんじゃないですか?」

「「ボクのことを愛子って呼んで、お昼を一緒に食べること」。ほら、文書にすれば一つだよ」と丸め込んだらしい」

「清々しいくらいにアホじゃのう」

「完全無欠のバカね」

「愛子ちゃんすごいですね」

「え?今の話に何かおかしいところがあった?」

 

どうしてだろう、みんなが僕をかわいそうなものを見る目で見ている。

 

「姫路、さっきの話だが休み時間にも国語を教えてやれ」

 

僕が口を開くたびに国語の勉強時間が増えていく。おかしいなあ本当に一つの文なはずなのに。

 

「でも、愛子もそこまでするんだったら、いっそ「彼女」にしてって言えばいいのに」

 

僕は慌てて美波の口を抑えた。「彼女」という言葉に反応して力つきてた連中が蘇生しかけた。ふぅ、危ないところだった。

 

「ダメだよ美波。それは連中を地獄の底から呼び戻す禁断の呪文だ」

「ゾンビみたいな連中ね」

「まあ、工藤もああ見えて根は純情だから、自分の口からは直接は言えないんだろう」

 

いや、どう考えても普通に「彼女にして」って言った方が、マシな行動を取っているような気がするんだが。第一、ムッツリーニの命が風前の灯火になってしまっている。このままでは、彼女になれないまま未亡人になることは必至だ。

 

「とりあえずお昼までは、この調子だろう。問題はお昼をどこで食べるかだが、ムツリーニの性格から言って人気のないところだろう。そうすると・・・・・屋上だな」

 

先生が入ってきて、ムッツリーニがその後に続く。そして授業が始まる。お経の声が輪唱のように教室に響き渡って気が滅入るったらありゃしない。

 

「5、4、3、2、1」そして「ゼロ」

「やれぇぇぇ〜」

 

ガラっ「ねぇ、こっ康太。おかずは何が好・・・・・キャア」

 

ムッツリーニが工藤さんを連れ出しFFF団がフリーズする。この光景もそろそろ見慣れてしまった。どうでもいいが工藤さんはチャンと授業を受けているんだろうか?毎回、終業チャイムと同時に教室に飛び込んでくるんだけど。

 

数分して先生が入ってきて、ムッツリーニが席につく。もはや教室の雰囲気は殺気どころか、瘴気と呼んだ方がふさわしいものになっていた。小鳥が僕らの教室の上空を飛んだならその毒気に当てられて落ちることだろう。教室の中にはお経だけでなく、「エコエコアザラク、エコエコザメラク」という呪いの呪文まで聞こえてくるようになった。何しろ次は、メインイベントのお弁当の時間だ。FFF団としては、何としても阻止したいところだろう。

 

「人の幸せは許さない」がFFF団の方針なのだ。何て性根の腐った連中なんだろう。

 


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