これが土屋家の日常   作:らじさ

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第12話

「よし、これで10分の猶予ができた。出撃するよ、由香リン」

「なんであたしまで」

「だからあたしたちは一心同体なんだって言っているじゃない」

「そんなものになった覚えはないと10回以上は言っているわよね」

「えぇ~、か弱い友達を一人で敵陣に特攻させるんだ」

「あなたがか弱いっていうのなら、恐竜絶滅の原因はノイローゼだわ」

「とにかく時間がないんだよ。みんなが壁作っている間に3年Dクラスまで到達しなきゃならないんだから、行こう」陽向は由香の手をとってFクラスから駆け出した。

 

廊下を反対側の階段に向かって一心に駆け抜ける。途中の階段で対決《デュエル》の声が聞こえる。守備隊の人数がほとんど減っていないところをみると作戦は今のところうまく行っているようだ。だが、3年が国立隊を西階段と中央階段に回した以上、もう突撃隊を使った作戦は通用しないだろう。防衛線が破られるのも時間の問題かもしれない。一刻も早く敵の総代を倒さねばならない。

 

「由香リン遅すぎ」遅れがちになる由香に声をかけた。

「あなたが速すぎるのよ。陸上か何かやってたの」

「そんなのやってないよ。ただ中学の日本記録を持っているだけ」

「そんなのについていけるならあたしだって日本記録出せてるわよ」

 

東階段についた。階段の上の方から怒声が聞こえる。白虎チームが戦っているのだろう。

「由香リン、3階まで駆け上るよ」

「ちょっ、ちょっと休ませてちょうだい」

「だめだよ。白虎チームが戦っているドサクサにまぎれて3年の防衛線を突破しなきゃ」

そういうと陽向は階段を駆け上っていった。由香もしかたなく跡に続いた。

 

3階についた。Aクラスの入り口付近で男子生徒30人くらいが一塊になって対決《デュエル》をしていた。

 

「よし由香リン、行くよ」陽向が叫んだ。

「行くよって、廊下中人が固まっているじゃない」

「うん、だから跳ぶんだよ」陽向はそういうと人ごみに向かって走り出し、軽々と跳躍して人の群れを飛び越した。

「由香リン、早くおいで」陽向の声が人ごみの向こう側から聞こえてきた。

「ばっ、馬鹿言ってるんじゃないわよ。そんなバケモノみたいなマネできるわけないじゃない」

 

すると陽向が群れの向こう側から再び跳躍して戻ってきた。

「こんな可愛い陽向ちゃんに向かってバケモノ呼ばわりは失礼だよ、由香リン。簡単だよ。ピョーンって跳べばいいの」

「あっ、あんたバカじゃないの?せっかく向こう側に行ったのに、そんなバカなこと言いにわざわざ戻ってきたわけ?」

「バカって言う方がバカなんだよ」

「そんな小学生の口ゲンカみたいなこと言ってないで状況を考えなさい。わたしはわたしで何とかするから、とにかくさっさと敵の総代のとこに行きなさい」由香は陽向の尻を思い切り蹴り飛ばした。陽向の姿は再び人ごみの向こうへと消えていった。

 

Aクラスの前に着地した陽向は、再びCクラスの前で戦闘の壁にぶつかった。さっきと違って1年がかなり押されている。参戦して戦うべきか躊躇しているところに由香がやってきた。

「あれ、由香リン早かったね。やっぱり跳んできたの?」

「違うわよ。大きな声で「トイレに行きたいから通して下さい」って言ったらみんな道を空けてくれたわ。わたしもうお嫁に行けない」由香は泣きそうな顔をして言った。

「由香リンも手段を選ばないね・・・イタッ」由香にゲンコで殴られた。

「誰のせいだと思っているのよ、誰の」

 

「じゃ、ここも突破するよ。ついてきてね」陽向は再び跳躍して群れを跳び越えた。

 

いよいよAクラスの前にたどり着いた。由香もヨレヨレになりながらも追いついてきた。

「もしかして、またあの手使ったの?」

「言っておくけど、このことを他の人にバラしたら殺すわよ」

「さて、ここに敵の総代がいると思うんだけど、あたしが高城先輩をやるから、由香リンは小暮先輩をお願い」

「あんたが高城先輩を倒せば済む話じゃなかったの」

「そうなんだけど、ここまで苦労したんだから小暮先輩と由香リンの美女対決で目の保養をしてみたいなぁと・・・・・イタッ。由香リン、暴力がひどすぎるよ」

「あんたがわたしの神経でバイオリン演奏できるくらいに逆なでするからでしょうが。いいから、とっとと高城先輩倒して帰るわよ」

「わかった、じゃ行くよ」陽向がドアを開けた。

 

「失礼しま~す。トドメさしにきました~」

「だから、その軽さは何なのよ」

 

思いがけない乱入に教室にいた全員が固まっていた。

「つっ土屋君、どうやってここに?」高城が言った。

「え?普通に階段使ってですけど・・・・・」

「いや、そういうことを言っているんじゃないでしょ」由香が耳打ちした。

 

「まだ次の位置連絡の時間にはなってないですよね。だから高城先輩と戦いにきました。」

「ふ、甘いな。そういうことを見越してボクの得意分野の先生を配置してあるよ」

「あ、そうですか?じゃ、こころおきなく戦いましょう。分野は何ですか」

「物理だよ。高城好光 召喚《サモン》」高城が叫ぶと槍を持った白銀の騎士が現れた。

「負けませんよ。土屋陽向 召喚《サモン》」全体集会の時に見せ付けられたガンガムがビームバズーカを持って現れた。

 

二人の召喚獣が対峙した。

 

3年 高城好光 980 vs 土屋陽向 10080

 

「「「「おおぉぉぉ~」」」」という叫び声が教室中に響き渡った。陽向の召喚獣の装備とあまりの点数に対する驚愕の声であった。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ、土屋君」

「何ですか先輩。手加減はしない主義ですよ」

「いや、賭けの件だがボクが勝ったらネコ耳メイドの奉仕ということだったが、この点数差はあんまりだ」

「だから?」

「ボクが負けたらスクール水着で奉仕というのはどうだろうか?」

「ああ言ってるけど、どうする?由香リン」

「瞬殺しなさい!!できるだけむごたらしくね」

「だいぶ染まってきたね、由香リン」

 

「ちゅど~~ん」

 

間髪入れずに陽向のビームバズーカが火を噴いた。

ほとんど間を置かずに小暮葵が高城の後頭部に蹴りを叩き込んだ。

 

「お~い、高城の召喚獣が跡形もないぞ」

「というか高城もノックアウトされてるぞ」

「スゲえ威力だな、ビームバズーカ」

「いや、高城先輩本人を倒したのはあたしじゃないんだけど・・・。とにかく先輩方これであたしたちの勝ちってことでいいですね。賭けもあたしたちの勝ちですから」

 

妙に体格のいい先生が教室に現れた。

「ほう、高城が負けたのは初めてじゃないか?補習室でもっと勉強を好きになってもらおうか」というと泣き叫ぶ高城先輩を引きずって入った。

 

「勝ったのかしら?」

「勝ったんだよ。さあ、みんなのところに戻ろう」陽向がニカっと笑って言った。

 

 


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