翌日、陽向と由香は2年Aクラスに向かって並んで歩いていた。
「今日は、どうしてあたしがって言わないの?」陽向が由香の方を向いて恐る恐る尋ねた。
「どうせ何言おうが連れて行くんでしょ。もう諦めたわ。それに、霧島先輩は女だからメイドにされる心配もないしね」
「甘いよ、由香リン。世の中には執事喫茶というのがあってね・・・」
「その頭の中に何が詰まっているのか見てみたいもんだわ」
2年Aクラスの前についた。二人は深呼吸をしてからドアをあけた。
「すいませ~ん。1年のものですけど総代の霧島先輩いらっしゃいますか?」
「あれ、陽向ちゃんどうしたの?」
「あれ愛ちゃん?そういえば愛ちゃんもAクラスだったんだ」
「うん、そうだよ。アンナちゃんもいるよ」
「ハ~イ、ヒナタ。今朝かたぶりデス」
「それって2時間前ってことじゃ・・・」
「あれ、こちらはお友達?」
「うん、そうだよ。副代表の由香リン。由香リン、こっちは下の兄の彼女の愛ちゃんと上の兄の彼女のロシアから来たアンナちゃん。交換留学生で家にホームステイしているんだ」
「はっ、初めまして1年Aクラスの城ヶ崎由香です」
「初めまシテ。ソータの妻のアンナデス」
「妻?」
「ああ、ロシア語でTuma≪彼女≫って意味らしいよ」
「あ、そうなんですか。ちょっと驚いちゃった」
「陽向ちゃんもムチャ振りするね。初めましてボクは2年Aクラスの工藤愛子です。それにしても友達ができて良かったね、陽向ちゃん。ボク心配してたんだよ」
「うん、あとマコちんっていう男の子の友達ができたんだけどね」
「私は(仮)友人ですけど」
「意地でもその(仮)は、外さないつもりなんだね、由香リン」
「外すなら後ろの方を外すつもりよ」
「え~っ、あたし(仮)だけなの?」
「あの、ところで陽向ちゃん達なにしにきたの」愛子が不思議そうに聞いた。
「あっ、忘れてた。総代の霧島先輩に用があって・・・」
「えっ、代表?さっきまでいたけど姿が見えないからきっとFクラスだね」
「総代がFクラスなんかに何の用なんですか?」
「何の用かと言われても・・・・・多分今頃は目潰ししているかアイアンクローをしているころかな」
「(この学園の総代ってのは変人しかなれないのかしら?)」
「(本当だね。まともなのがあたししかいないよ)」
「(あなたがブッチぎりで変人なのよ)」
「なんでまたそんな物騒なことになってるの、愛ちゃん?」
「それはまあ、恋する女の子の熱情というか恋する少女に不可能はないというか・・・」
「なんだかよくわかんないけど、とりあえずFクラスに行ってみるよ」
「ということでFクラスまで来たんだけど、なにか変な声聞こえない?」
「気のせいだよ由香リン。いくらFクラスだってそうそう変なのはいないよ」そういうと陽向はガラっとドアを開けた。教室にいた多数の黒い三角マスクに黒衣の集団が一斉に振り向いた。
「すいません。教室間違えました」陽向は慌ててドアを閉めた。
「なにあのKKKみたいな集団は?変なのってレベルじゃないわよ」由香が驚いた声で言った。
「落ち着きなよ、由香リン。あれはきっと単なるサバトか黒ミサだよ」
「サバトか黒ミサっていう時点ですでに「単なる」の範疇から外れているのに気がつきなさいよ、あなたは」
「とにかく霧島先輩探さなきゃいけないんだから、そっと入ろう」
二人はドアをそっと開けて教室に入った。どうやら不気味な集団は十字架に縛られた男性とを取り囲んでいるようだ。
「てめぇら、いいかげんにしろ。あれは偶然だと何度言えば・・・・・ムグ」
「黙らせろ」リーダーらしき人の声で口にハンカチが詰め込まれた。
「土屋さん、この人達なにやってるのかしら?」
「いや、あたしに聞かれても。あ、あそこに普通の人たちがいるから聞いてみようか?」
「普通って。この惨劇のさなかにちゃぶ台囲んでのんびりお茶飲んでるって十分普通じゃないわよ」
「いいから、いいから。あの~すいません先輩。この人達何をしてるんですか」一番近くにいたなぜかズボンをはいた可愛い女生徒に声をかけた。
「うん?おお、お主はこの間転校してきたムッツリーニの妹じゃな。あまり気にせんでもよい。単なるリンチじゃ」
「気にするわよ!単なるで済む問題じゃないでしょう」由香が思わずツッコんだ。
「由香リン、あたし以外にも遠慮なくツッコめるようになったんだね」
「いや、そう言われてもこのクラスでは日常茶飯事じゃからのう」
「リンチにまでかけられるなんて、あの男の人はどんな極悪非道なことをしたんですか?」と陽向が男装の女生徒に尋ねた。
「ワシもよく知らんのじゃが、何でも通学途中で風でスカートがまくれた女生徒の下着を見たとか」
「「はあ?」」二人そろって声をあげた。
「そんなことがリンチの理由になるんですか?」
「奴らはFFF団というのじゃが、連中に取っては万死に値する罪らしい。なにしろ「他人の幸せは許さない」が連中のモットーじゃからのう。それを知って血の涙を流した団員もおるらしい」
「真正のバカの集まりね。霧島先輩もいないようだし、さっさと帰りましょう、土屋さん」
「んっ?お主ら霧島に用じゃったのか、おーい、霧島。お客さんじゃぞい」女生徒は集団に声をかけた。一人の団員が振り向くとこちらにやってきて三角マスクを脱いだ。
「きっ霧島先輩。こんなところで何してるんですか?」由香が思わず叫んだ。
「・・・・・何って、雄二のお仕置き。浮気は許さない」
「お仕置きってもしや足元に積まれた薪と関係ありますか?」
「・・・・・土屋さん・・・世の中には知らない方がいいこともある」
「そっそうですよね。ほら土屋さん、霧島先輩に早く用を伝えて」
「そっそうだね。あの~明日10時に1年生と試召戦争お願いします」
「・・・・・わかった。じゃ私は忙しいから」翔子はそう言うと、再びマスクをかぶって集団の中に戻っていった。
由香は陽向の首根っこを引っ掴むと大急ぎでFクラスから飛び出した。