「これでいいのかい、チビガキ」学園長はカーテンの陰に隠れている陽向に声をかけた。
「ありがとうございました、ババア長」陽向がカーテンの陰から出てきて学園長の前にまわった。
「教頭呼び戻してもいいんだよ」
「いやですわ。ちょっと口が滑っただけじゃありませんの、お婆様」
「いま一つ敬意が感じられないけどまあいいさね。あんたがこんなに友達思いだとは知らなかったよ」
「あたしの立てた作戦ですから、全責任はあたしにあります。でも学園長があたしのお願いを聞いてくれるとは思いませんでした」
「教頭は細かいからねぇ。たかがガラスの3枚や4枚でうるさいったらありゃしない。夜の校舎窓ガラス壊して回ったわけじゃあるまいし」
「80年代の17歳じゃあるまいし、今時、日本中探したってそんな不良いませんよ」
「みんな大人しくなっちゃったねぇ」学園長は少し寂しそうな顔をして言った。
「とにかく今度のことは、あたしの借りってことにしておいて下さい」
「借りなら返すつもりがあるのかい」
「ええ、必ず」
「あたしゃ気が短いんだ。それならすぐにでも返してもらおうかね」
「待てないほど老い先が短いんですか?」
「ええと、教頭の内線番号は・・・」学園長は電話を取り上げて言った。
「いやですわ、ちょっとしたアメリカン・ジョークじゃありませんか、ジョージ」
「誰がジョージだい。ちっとも笑えないよ」
「だからこそアメリカン・ジョークなんです」
「あんたは、もう一度日米戦争引き起こすつもりかい」
「で何して返せばいいんですか?肩でも叩けと」
「随分お手軽に済ますつもりだね。そうじゃないよ、あんたの事は前の学校の北川先生からよく聞いてるんだ」
「・・・北川先生から」陽向は驚いた様子でつぶやいた。
「そう『伊賀中学』の北川先生さ。あと、役場の抜け忍係とかいうよくわからない部署の鈴木さんからも連絡があってね」
「鈴木さんも・・・」
「何だか話が終わるまでに10回くらい「決して脅されたわけじゃないんです」とか言ってたけど、あんた何したんだい」
「10回も言ってるんだから、なにもしてない証拠じゃないんですか?」
「10回も「脅されてない」って言うってのは、普通は「脅されました」と白状しているようなもんなんだけどねぇ」
「それでなんて言ってたんですか、北川先生と鈴木さんは」
「2人とも同じこと言っていたよ。このままじゃあんたは人間として人の心がわからないカタワ者になる。なんとか文月学園に入れてやってくれってね。あんたずっと友達がいなかったんだって」
「・・・・・」
「学校嫌いでずっと一人で勉強していたあんたが、急に文月学園に行きたいと言い出したから驚いたらしいよ。でもまあ中学生を高校に編入させようとするかねぇ」
「それはその・・・・・あたしがもう我慢できなくて」
「せいぜい感謝することだね。お二人とも首をかけてまであんたのためにやってくれたんだ」
「いいんですか」
「ふんっ、いいこと教えてやるよ、チビガキ。規則ってのは、人が気持ちよく生きるためにあるんだ、規則のために人が生きてるんじゃない。それを本質を分かってないバカ共は規則規則と振りかざすけどね。それに1歳や2歳の違いなんて卒業したら誰も気にしないさね。」
「・・・・・はい。でも借りを返す話と今の話と何の関係があるんですか」
「正直言って、うちの学校でもあんたが学べることはほとんどないさね。あんたみたいな規格外が入学してくることなんて想定してなかったもんでね」学園長は椅子から立ち上がるとドアに向かってゆっくりとあるきだした。
「はあ・・・・・でも、あたしはこの学園楽しいです。大好きです」
「それだよ。あんたは勉強なんかしなくてもいい。どうせあんたを教えられる教師なんてうちにゃあ一人もいないんだ。その代わりあんたは一人でも多く友達を作りな。それで貸し借りなしにしようじゃないか」
学園長はドアをいきなり引いた。ドアに耳をつけて聞き耳を立てていた由香と竜崎はバランスを失って部屋の中に倒れ込んだ。
「どうやらこの2人はあんたのことが心配だったらしいよ。これが友達さね。こんな友達を卒業までに一人でも多く作るんだね。それがあたしへの恩返しさ」
「・・・・・学園長ってまるで先生みたいですね」
「あんたは学園長の意味を知っているのかい?」
「召喚システムいじって遊んでいるオタクだと」
「Fクラスのバカ兄貴の言うことをまともに受け取るんじゃないよ、チビガキ」
「あたしのことだったら笑って許してあげるけど、康兄の悪口いうんじゃねぇと言っているだろうが、ババア」
「ふん、その様子だと元気は戻ったようだね」
「あら計算していたみたいな言い方ですね」
「そういう風に言えば、そう聞こえるだろう」
「本当に、年を取ると煮ても焼いても食えませんね」
「食うところがないチビガキよりはマシさね」
「・・・フフフフフ」
「・・・ハハハハハ」
二人の笑い声がいつまでも学園長室に響いていた。
一同はいつもの帰り道を歩いていた。
「くそ、明久の野郎。試召戦争をバックれやがって」
「一体どこにいったのじゃろうのう。あいつが試召戦争をサボるとは思えんのじゃが」
「本当ね。これは明日はお仕置きだわ」
「明久君にもきっとやむおえない事情があったんですよ」
「事情ってどんなだよ」
「・・・・・1年の女の子に呼び出されたとか」
「なんですってぇ、そんなこと許されるわけないじゃない」
「いや、要するに罠ってことだろう。罠かけてまで明久を呼び出す意味がよくわからんが、もしかしたら「観察処分者」ってのが強い奴につけられる称号だと勘違いしたのかも知れんな」
「どっちにしろ連いて行ったという事実は消えないわ。明日は関節技カーニバルね」
「いや、さっきからちょっと気になっておるんじゃが、わしらは何か忘れておらんかのう」
「何かってなんだよ」
「なんだよと言われても困るのじゃが、何か大事なことを忘れているような気がしてしょうがないのじゃ」
「気のせいだ気のせい。早く帰ってメシ食おうぜ」
くそぅ、もうそろそろ限界だ。ドアからの圧力がだんだんと強くなってきた。僕は両手で必死にドアを押さえながら、ズボンにしがみついている玉野さんの肩を片足で押し込んでいる。雄二に携帯で連絡もできない。
玉野さんは恐ろしい力ですでにズボンの片足が脱がされてトランクスが丸見えだ。いや、そんな些細なことに頓着している場合ではない下手すればトランクスまで脱がされかねない。と言ってる側から腹の横を包丁を持った清水さんが飛び込んできた。体を捻ってそれをかわす。
「往生際が悪いブタ野郎です。そろそろ素直になったらどうですか」
「断る!!」僕は間髪入れずに言い返した。ここで素直になった日には、明日の朝にはベーコンとして朝食の座を飾るハメになってしまう。
「こら、明久。いいかげんにあきらめてここを開けろ」ドアの向こうから声がする。
「今だったら致命傷だけで済ませてやる」さすがFクラスだ。致命傷の意味を分かっていない。一体何と勘違いしているのか想像すらつかない。
「お前たちこそ、何を勘違いしているかわからないが、玉野さんいいかげんに離して、ここには何もない。さっさと1年と戦ってこい」
「何もないならこっちをあけろ」
ふむ、正論だが頷くわけにはいかない。上着とズボンの片方を脱がされて、女生徒が足にしがみ付いているんだ。あのムッツリーニだって言い訳ができる状況ではないのだ。
それにしても学校が静かだ。もしかしたら試召戦争が終わったのかもしれない。そうすれば雄二達がもうすぐ助けに来てくれるだろう。
持ちこたえるんだ僕、早く来い雄二。友達の危機なんだ。
「早くこい雄二。友人の命が危ないぞ」僕は大声で叫んだ。
「さて、今日の晩飯はどこのコンビニ弁当にしようかな」雄二はコンビニでこの上なく真剣に悩んでいた。
やっと終わりました。最後まで読んでくださった皆様に感謝です。
試召戦争という戦術が重要になる話だったので、いろいろと考えたのですが
うまく理屈にあっているのか心配です。
特に最後の2年生戦は陽向を無力化するために干渉領域というのを導入した
のですが(確か本編にもありましたよね)、うまく使いこなせれているか。
もし、意味が不明とか矛盾しているとかでしたら、ひとえに私の筆力の
無さが原因です。申し訳ありません。
また、テーマの性質上あまりギャグ要素が入れられなかったのも反省点です。
これで手持ちのネタは全部つきました。またアイディアが出たら書きますので
しばらくお待ちください。ネタのリクエストも大歓迎です。