「いや、そんなこと胸張って言われても・・・」
「ということで愛ちゃんが最適なのだ」颯太がシレっと言った。
「ボクが最適というより、皆さんが最悪なだけじゃぁ・・・いや、だからボクは・・・・・」颯太、康太、陽向に背中を押されて陽太の横に押し出された。
「・・・・・えっと・・・・・ですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァッ」
「・・・・・あ、あの・・・陽太君」愛子は恐る恐る声をかけてみた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァッ」後ろを向いて手で大きくバッテン印を送った。だが、颯太と康太は「Go! Go!」とばかりに腕を振り上げ、陽向は両手でボクシングの真似をしている。
「ハア・・・・・あの・・・・・陽太君」愛子は少し大きな声で声をかけた。
「えっ、うわっ。愛ちゃんいつ来たの」ビックリしたとばかりに飛び上がった。正気だろうか、この人は?
「はあ、ほんの2時間ほど前からここでお茶してましたけど・・・・・」
「そっそうか、よく来たね。ちょっと考え事していたものだから・・・」
「いや、考え事っていうレベルじゃなかったですよ。なにかあったんですか?あまりお役に立たないかもしれないけどボクでよかったら相談にのりますけど」
「いっいや、別に何ともないから・・・ハハハハハア・・・」
「そうですよね、ボクじゃお役に立ちませんよね、じゃボクはこの辺で・・・」関わらない方がいいと、心の中の獣が言っている。内心ホッとしながらその場を立ち去ろうとしたら、腕をガシっと掴まれた。
「別に何ともないんだ・・・・・うん・・・・何ともあるはずがないじゃないか」独り言のように陽太がつぶやく。
「それは、よかったですね。それはそうとこの手を・・・」愛子が必死に腕を掴んだ陽太の手を引きはがそうとした。
「・・・・・だが、どうしても愛ちゃんが聞きたいというのなら」
「いえ、まったくそういう気はないんですけど、こ・の・手・が・・・・・」腕を掴んだ指を一本一本ひき剥がそうとしていた。
「しかたない、他ならぬ愛ちゃんにそこまで言われちゃ話さないわけにはいけないな」
「いえ、そこまでして話す必要性はまったくない・・・・・誰か助けて」助けを求めてみんなの方に目を向けたら・・・すでに視線の先には誰もいなかった。なんて逃げ足の速い連中だろう。
「あの連中~、どうしてくれよう・・・」血がたぎるのを感じた。
「いや、本当に大したことじゃないんだ」陽太が言い訳がましく言う。
「そっそうですか・・・・・それじゃそういうことで」だが言葉とは裏腹に陽太は愛子の腕を放そうとはしなかった。
「うん、こんなこと長く付き合っていればよくあることじゃないか」
「あのボクの話聞いてくれてます?・・・・・ボクも腹くくりました。話を聞きますからこの手を離してください」
「・・・・・手?おわぁ」陽太君は初めて自分が僕の手を握っているのに気がついたようだ。
「ふう、やっと離してくれた。いいですよ、こうなったらボクが話を聞きますよ。聞けばいいんで・し・・ょ・・・エグ」不覚にも思わず涙ぐんだ。
「いや、そこまで大した話じゃないんだが、泣かれると困るなぁ」
「ほっといてください。聞くと決めたからにはちゃんと聞くんですから。ほらさっさと話して」ヤケクソである。
「いや、本当に大したことじゃないんだ・・・・・」陽太君が黙り込む。
「ここまで人を振り回して、いまさら大したことじゃないじゃ済まされませんよ。大河ドラマ並みに演出して楽しませてください」
「いや、そこまで脚色いれると何がなにやら・・・・・」
「まあ、どうせ由美ちゃん絡みでしょうけど・・・・・」
「・・・・・ギクッ、なぜそのトップシークレットを」陽太くんは明らかに動揺したようだ。
「いや、トップシークレットもへったくれも陽太くんがあんなに悩むなんて由美ちゃんのこと以外に考えられないし、チャンス問題ですよ。あと自分で「ギクッ」って言わないでください」
「そう、僕が由美ちゃんを初めて見かけたのは去年の今頃・・・・・」
「ちょっちょっと待ってください。話はそこから始まるんですか?」
「なにか問題でも?」陽太は不思議そうに言った。
「いや、そんなあどけない顔で不思議そうにされても困るんですけど、そこから話始まっちゃったら今日中に悩みのところまでいかないじゃないですか」
「大丈夫、前みたいに泊まっていけばいいよ」
「あれだけ渋っていた割には、話す気マンマンなんですね」
「そう、あの日は雨模様の・・・・・」
「無視して始めるし・・・・・わかりました。ちゃんと聞くから話をまいて、ここ1週間あたりの話にしてください」
「・・・・・1週間」そういうと陽太は再び首をうなだれた。
「その様子だと、この1週間に由美ちゃんと何かあったんですね」
「いや、何もなかったんだ・・・・・」
「何もないのに何でそんな暗くなってるんですか」
「何もなかったから暗くなっているんだよ、愛ちゃん」
「・・・・・すいません、大人の関係はボクには理解できません。わかりやすく言って下さい」
「・・・―ト・・・・・・れた」陽太は弱々しく答えた
「はいっ?すいません声が小さくて聞こえませんでした」
「デート・・・られた」
「パードゥン?」
「デートを断られたんだよ」陽太はこの世の終りのような声で叫んだ。
「わっ、ビックリした。デート断られたって、そりゃ由美ちゃんだって用もあるだろうし、断ることだってあるでしょう」
「2回なんだ」
「へっ」
「今週、2回誘って2回断られたんだ」もはや陽太は泣き出しそうだった。
「えーっと、ちょっと頭が混乱してきたので整理させて下さい。陽太くんは今週由美ちゃんを2回デートに誘ったけど断られたと。それでこの天気のいい日曜の午後にお岩さんだって地獄に引きずりめそうな禍々しいオーラを出して拗ねていたと、こういうわけですか?」
「だいぶ脚色が入っているけど、要約すればそういうことになるのかな?」
「なるんです。アホですか、あなたは」