「じゃ取りあえず問題は(ムッツリーニ以外)ないようだし、教室に戻るか」
「・・・・・実は愛子は料理が苦手。調理実習でも失敗ばかりしてる」
「そういうことは先に聞きたかったのじゃ」
「致命傷じゃないからいいんじゃないかな」
といいながら階段に向かって歩きだすと、階段から「ドドドドドドド」と地を揺るがすような音がした。
「もう、ここしか残ってねえ」
「野郎、致命傷だけで許してやろうと思ったがもう許さねえぞ」
「ひゃひゃひゃひゃ、血がみれるよぉ」
いけない。FFF団の生き残りだ。3年A組との戦いを生き残ってきたらしい。あっという間に屋上に10人ほどが並んだ。もはや言葉が通じる状態じゃない。
「坂本ぉ、よくも騙してくれたな。おかげで半分殺られたぜ」
「こうなったらお前もターゲットだ。前々から霧島さんと仲がいいのが気にいらなかったんだ」
えーっと、冷静に考えてみよう。FFF団のターゲットはムッツリーニと雄二だから、僕らは関係がないとも言える。
「じゃ、雄二気をつけてね。秀吉、姫路さん、美波。危ないから脇に寄ってよう」
「明久君怖いです」と姫路さんが僕の腕に抱きついた。なにやら恐ろしく柔らかいものが腕に押しつけられる。それを見た美波も負けじと「アキ、ウチ怖い」と棒読みの台詞で反対側の腕に抱きついた。まな板を押しつけられる感触がする。いや、よりにもよってこの状況このタイミングでなんてことをしてくれるんだ二人とも。
「明久ぁ、てめぇもかあ。女二人もハベらしやがって」
「ちょっと待ってよ。それは誤解だよ。ハベらしている女性は一人・・・・・グギュウ」美波のチョークスリーパーが決まる。
「もう、こうなったら一人も二人も関係あるか。みんなやっちまえ」
恐ろしい殺気だ。この気迫の10分の1でも勉強に回せば楽にAクラスに行けるというのに惜しい話だ。FFF団がジリジリと間合いを詰める。僕たちがジリジリと押されて後ろに下がり、やがて金網に押しつけられた。
ムッツリーニが寄り添っている工藤さんに囁いた。
「・・・・・連中は俺が食い止める。その間にお前は逃げろ愛子」
「危ないよ」
「・・・・・俺なら何とかなる。理性は失っているとはいえ奴らも女には手を出さないはず」
「ふーん、女の子には手を出さないのか」
「・・・・・だから逃げろ。俺が食い止めている間に」
工藤さんにムッツリーニに向かってひまわりのような笑顔でニコっと笑ってこういった。
「じゃ、ボクが康太を守ってあげる」
「・・・・・何を馬鹿なことを言っている。逃げる奴には手をださないが向かってくる奴にはそうじゃない。あぶないからやめろ」
「ふふふ、ボクの必殺技見せてあげるよ」
工藤さんは、自信満々に一歩踏み出すとFFF団に向かってこういった。
「Fクラスの諸君、ボクに注目。これからいいものをお目にかけます」
ジリジリと間合いをつめてきた奴らは、工藤さんの気迫に押されて歩みを止めじっと見つめた。
「では」というと工藤さんはスカートの前端を掴み思いっきりまくりあげた。
「ううううう」
「おおおおお」
「ひやぁぁぁ」
FFF団は太陽を浴びた吸血鬼のように力を無くしたように全員崩れ落ちていった。
「・・・・・あ、愛子お前」
「ん?どうしたのかな、康太?」
「・・・・・いくら何でも何をするんだ」
「康太も見たいの?じゃ、ほら」
そういうと工藤さんはさっきと同じようにスカートをまくった。その瞬間、「だめです、明久君」という声とともに僕の首が捻られ、雄二の断末魔の声が響いた「・・・・・浮気は許さない」。
「あははは、ごめんね。今日は部活だから下から水着はいてたんだ」
「・・・・・はっ鼻血が」
「本当にFクラスの男の子達って純情だよね。これだけで倒されちゃうんだから」
「いや、クラスは関係ないと思うんじゃが」
「ボクの水着どうだった康太」
「・・・・・どうだったも何も下の方しか見えない」
「あ、そうか。じゃ今日の放課後にプールに来てよ。撮影会させてあげる。彼女の写真ほしいでしょ」
「・・・・・いい加減に人の話を聞け。彼女じゃないし、写真にも興味ない」
「照れなくていいよ。売らないならいくらでも取っていいから。じゃ、約束だよ」
そういうと工藤さんは階段を駆け下りていった。
「・・・・・俺は約束したのか?」
「よくわからんが、そういうことになるんじゃないかの」
「まあ、せっかくのお誘いだ行ってやれよ」
「愛子があんだけ言うんだから」
「愛子ちゃん、ああ言いながらきっと楽しみにしてますよ」
「・・・・・明久はどう思う」
ムッツリーニが助けを求めるように、僕に答えを求めた。
「うーん、写真のことはよく分からないけど、せっかく作ってくれたんだからお弁当は全部食べた方がいいんじゃないかな」
よく考えれば工藤さんの弁当は僕と雄二と秀吉しか食べてないじゃないか。これでは不公平だ。
「・・・・・それもそうだ」ムッツリーニが箸を取った。
「ああ、もう時間がないから一気にかっこめよ」
「・・・・・そうか」
「じゃ、僕たちは行くから」
そう言って僕たちは階段へと向かった。背中の方からムッツリーニの叫び声が聞こえた。