翌日、ボクと康太はメイクイーンにバースデーケーキを注文するために立ち寄った。レジをしてたのは偶然にも、由美ちゃんだった。
「あら、久しぶりね。二人とも」由美ちゃんは微笑んで言った。
「由美ちゃんこそお久しぶり。忙しいんですね」ボクが言った。
「え、ああ、そっそうね。忙しいと言えば忙しいんだけど・・・今日はどうしたの」なぜか由美ちゃんはウロたえた様子で言った。
「どうしたのって明後日の陽太君の誕生パーティーのケーキの注文にきたんですよ。忘れちゃったんですか?」
「いえ、忘れている訳じゃないんだけど・・・そうね、時間がないのね」最後の方はブツブツ声になっていた。
「あっ、あの。由美ちゃん大丈夫?」
「えっ?あっ、ええ大丈夫よ。じゃバースデーケーキは私が持っていくわね」
「じゃ、お願いします」ボクたちはケーキを注文すると外に出た。
「由美ちゃん、やっぱり何かあるのかなぁ?時間がないとかいってたけど・・・」
「・・・・・兄貴とのことだろうな」
「・・・・・」
「・・・・・なるようにしかならん。二人の問題だ」
ボクたちは無力感を感じながらトボトボと歩いた。
「うむ、今日と言う日を象徴するような素晴らしい天気だ」颯太がリビングの窓を開けて空を眺めながら言った。
「・・・・・素晴らしい天気って、雷雨にでもなりそうに空が真っ暗なのだが」
「だからピッタリなのだ。陽太が振られる上にあの二人の料理でパーティだ。台風が突然出現していても驚かんぞ、俺は」
「ピンポーン」そこへ愛子がやって来た。
「やあ、愛ちゃんいらっしゃい」
「えーっと、陽太君の様子とか聞きたいことはいろいろあるんですが、とりあえずなんで陽向ちゃんが縛られて猿ぐつわカマされているんですか?」愛子はリビングの隅に転がされている陽向を指差して尋ねた。
「うむ、陽向に悪魔が憑りついたのだ」
「あっ、悪魔?」
「うむ、デートがあるから出かけるなどという神をも恐れぬ妄言を吐き散らして出かけようとしたのでな。一人だけ逃げようなん・・・いや、そんな妄想に憑りつかれた奴を放置できんのでな。兄弟総がかりで押さえつけて縛り上げたのだ」
「この家は一体なんの宗教を信じてるんですか?デートくらいで縛り上げられるなら、結婚したいとか言ったら火あぶりになりそうですね、その宗教」
「愛ちゃんも来たことだし縄を解いてやれ康太」颯太君が康太に言った。
「酷いよ、兄達。本当にデートだったらどうすんのさ」
「・・・・・つまりは嘘だったということだろう。お前が煽ったんだ、いい加減に諦めろ」
「・・・・・・・・・」
「ところでさっきから陽太君の声がしませんね。お部屋ですか?」
「いや、あいつならさっきからそこにいるぞ」颯太君が部屋のもう一方の片隅を指差したそこには、陽太君が暗い様子で体育座りをしていた」
「あっ、あれなんですか?」
「朝からあの調子だ。多分うちの屋根にはハゲタカが数十匹とまってるに違いない。うっとしいったらない」
「まあ、今日は由美ちゃんもくるから大丈夫ですよ。由美ちゃん成分が欠乏しているだけです」
「由美ちゃん成分でも由美チャンニウムでも何でもいいから、さっさと立ち直らんと悪霊がバスツアーでやってきそうでたまらん」
「じゃ、ボクはアンナちゃんと買い物に行って来ます」そういうと少女は出て行った。
しばらく様子をみて確実に外出したことを確認から颯太はみんなに声をかけた。
「おい、お前ら集まれ。陽太もいつまでも落ち込んでないで来い。今から命に関わることを話す」
命に関わると聞いて陽太も腰を上げた。
「これまで俺たちは無防備にあの二人の料理に立ち向かって完敗してきた。それがこんどは2人のコラボレートだ。武蔵と小次郎のユニットに百姓が立ち向かうようなもんだ。どんな惨状になるのか、想像もつかん」
「・・・・・だからといってもはやあの二人を止める手段はない」
「そこで俺はこの数日間、図書館に通って「薬物代謝学」の本を読み漁ってきた。あの2人の料理はある意味「毒劇物」だからな」
「愛ちゃんもアンナちゃんもすごい言われようだね」陽向が言った。
「おまえも一度喰えばわかる。正直なんで厚労省が規制しないのか疑問に思うぞ」陽太がボソっと言った。
「国の対応を待っていてはこっちの命が危ない。自分の身は自分で守らなけりゃな」
「・・・・・で結局、対応策はみつかったのか?」
「あった。こんなに勉強したのは生まれて初めてというくらいに勉強したかいがあった」
「もったいつけずにさっさといいなよ、颯兄」
「うむ、まあT1/2(薬物半減期)とかCmax(最高薬物濃度)とかいろいろあるんだが、ぶっちゃけてシンプルに言えば、薬物の効果は
E(Effect;効果)=V(Volume;量)× T(Time;体内存在時間)
で表わされる。つまり効果の強さは体内にある薬物の量がどれくらいの時間体内にあるのかということだ」
「「「フムフム」」」
「Tは体内の事だから意志ではどうにもならん。そうするとEを少なくするにはどうすればいい?」
「そりゃあVの量を減らせばいいんだろうけど、食べずに残すのも2人に悪いじゃないの」陽向が言った。
「うむ、正解だ。だが俺はそれを解決する手段を発見した」
その時、チャイムの音に続いてドアが開き誰かが入ってくる音がした。
「おう、颯太。来てやったぞ」Atsushiが言った。
「まあ、陽太の誕生パーティーってのが気に入らないがな」とGuu。
「うまいもん喰わせてくれるんだって」Youも続く。
「俺はグルメだからな」Gonが言った。
「あたし達までお邪魔してご迷惑じゃないかしら」最後にYukiが言った。
「改めてご紹介しよう。Vの皆さんだ」颯太は兄弟たちに向かって得意げに言った。
自分が助かるためには仲間であっても地獄に引きずり込む兄の外道さに声も出ない3人であった。