これが土屋家の日常   作:らじさ

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第9話

「なんのことだ、颯太?Vってのは」Atsushiが言いながら遠慮なくソファーにドカっと腰を下ろした。あとの4人もそれぞれ腰掛けた。

「ん?まあ、たいしたことじゃない気にするな」そこでAtsushiは陽向に気がついた。

「ん、陽向じゃねぇか、いつ帰って来たんだ?俺との勝負を途中で逃げ出して伊賀なんかに転校しやがって、まだ勝負はついてねぇぞ」

「99敗1分で勝負がついてないっていうんだったら、篤兄のいう勝負ってどうやったらつくのさ。もう、勝負するものがないよ」

「ふ、1分してるじゃないか。ここから俺の怒涛の100連勝が続くんだよ」

「言っておくけど、その1分は篤兄の本職のキーボードで勝負したんだからね」

「あれは審判がおかしいんだよ。フィーリングでは俺が勝っていたはずだ」

「プロが素人相手にフィーリングでしか勝てないって言う段階で負けだと思わないのかなぁ?」陽向が呆れたように言った。

 

「ところで今日は何を喰わせてくれるんだ。わざわざ俺たちを呼びつけたんだ、ただの料理じゃないんだろうな」

「(確かにただの料理じゃない)」陽太は思った。

「ん、今日の料理か。そんじょそこらじゃ喰おうと思っても喰えない料理だ」

「(・・・・・保健所の許可が下りないからな)」と康太は思ったが、むろん口にはしなかった。

「随分、もったいつけるじゃないか。なに喰わせてくれるんだよ」

「うん、それを発表する前にだな、陽向」颯太は妹に目配せをした。

「分かっているよ。颯兄」陽向は玄関に向かうとガチャっと鍵をかけ、ドアチェーンまでかけて、両足を踏ん張って玄関前に立ちふさがった。

「なんであいつは鍵なんか掛けに行ったんだ?」Gonが尋ねた。

「ああ、このところ物騒だからな。ところで今日の料理だが・・・・・」

「「「「「フムフム」」」」」

「愛ちゃんとアンナの手作り料理だ」

「ガタンっ・・・・・」4人は無言で立ち上がると玄関に向かってダッシュし、入り口で詰まった。

 

「邪魔だ、どきやがれ」

「うるせえ。お前は愛ちゃんの手料理をたらふくご馳走になってろ」

「俺を通せ。デートの時間に遅れる」

「うちは厳しいから門限が6時なんだ。早く帰らないと爺やに怒られる」

 

「なんでいきなり見苦しい争いが起こっているのかしら?おまけに0.2秒で嘘だと分かるデタラメまで飛び出しているし」事情を知らないYukiが不思議そうに言った。

 

「ふ、愚かな連中だ」颯太は余裕の態でつぶやいた。

 

ようやくリビングを抜けた4人の前に玄関前に、陽向が片手で苦無《くない》をもて遊びながら立ちふさがっていた。

 

「兄たち、どこに行くのかな?パーティはまだ始まっていないよ」

 

「やっやあ、陽向君。お兄さんちょっと用事を思い出してね。申し訳ないけどそこを通してくれるかな」

「そうそう。デートの時間に遅れそうなんだ」

「門限が・・・・・」

 

「あら、そうなの。あたしも鬼じゃないからそういう事情なら通してあげないこともないんけど、条件がひとつだけあるんだ」

「どっどんな条件かな?」

「あたしの屍を乗り越えて行ってね」陽向はニコっと笑っていった。

「バカ野郎、お前倒そうと思ったら米軍に救援要請ださなきゃならねぇじゃねえか」

「在日米軍だけじゃ勝てないし・・・・・」

「自衛隊を加えたらどうだ?」

「五分五分だな・・・・・」

「玄関先で会議も無粋ですわ、お兄様方。さっさとリビングにお戻りになって・・・・・さもないと」

「さっ、さもないとどうなるんだよ」

陽向は右手をさっと一閃すると、苦無がYouの頭を掠めて柱に突き刺さった。

「最近、手が勝手に動くようになって、本当に危ないの。当たっちゃったらゴメンしてね」

「「ゴメンしてね」って可愛く言われても許されることか」

「あれ、また右手がムズムズと・・・・・」

4バカは慌ててリビングに戻った。

 

「一体、あんた達はよそ様の家に来るなり何を騒いでいるのよ」Yukiが言った。

「命の危険が迫っているのに、大人しくできるか」Guuが憤慨したように言った。

「大げさねぇ。そりゃ愛ちゃんはあまり料理は得意じゃないかも知れないけど」

「ありゃ料理じゃなくて錬金術の一種だ」Atsushiが言った。

「何を言ってるの、あんたは」

「この間のライブ以来、ずっと夢でライダー軍団と戦っているんだぞ、俺は」とGon。

「まあ、まあ落ち着け諸君」颯太が一同に向かって言った。

「てめぇ、颯太。俺たちをハメやがったな」Youが詰め寄る。

「何をいうんだ君たち。バンドといえば一心同体。喜びも悲しみも幾年月という言葉もあるじゃないかね」

「なんだったら、この瞬間にお前をクビにしてもいいんだぞ」Atsushiが叫んだ。

「ところで、諸君にいいニュースと悪いニュースがある。どっちを先に聞きたいかな?」悠々と颯太が言う。

「この期に及んでいいニュースなんてあるのか?じゃ、それから聞かせてみろ」

 

「いいニュースか。それは、この間のライブで愛ちゃんが昼飯を作ってきてくれたが、実はあれは愛ちゃんの本当の実力じゃない」そういうと4人から安堵のため息が聞こえた。

「そうか、そうだよな。いくらなんでもあれはなあ」

「おにぎりだったから具材が悪かっただけか、ははは」

「いやぁ、冷や汗かいたぜ」

「ん、じゃ悪いニュースってのは何だ?」

 

「悪いニュースか。聞きたいというのなら話すが、愛ちゃんの本当の実力はあれの数倍凄い」

「ガタンっ・・・・・」4人は再び無言で立ち上がった。

 

「タンタンタンタンタン」4人の足元に陽向の投げた苦無が突き刺さった。

「あ~あ、また右腕が勝手に・・・・・」

4人は処刑をまつ死刑囚のようにソファーに腰掛けて大人しくなった。


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