「まあ、諸君そんなに気落ちすることはない。こんなこともあろうかと・・・」颯太が得意げに言った。
「こんなこともあろうかとじゃねえ。こうなることを見越して俺たちを呼びつけたんだろうが、お前は」Atsushiが叫ぶ。
「まあ、落ち着け。愛ちゃんの料理に対抗する言わば防具≪アーマー≫をちゃんと用意してある」
「本当か。お前にしちゃ手回しがいいじゃないか」Gonが疑わしげに言った。
「ふっ、伊達にリーダーをやっちゃあいないぜ」
「お前がリーダーなのは、ジャンケンに負けたからだろうが。みんな面倒くさがってリーダーをしたがらないから」とYou。
「そういうこともあったかもしれんな。だがリーダーとしてちゃんと対抗策を考えてあるんだ」
「今一つ信用できんが、聞くだけは聞いてみようか。対抗策ってなんだ?」とGuuが尋ねた。
「ふふふ、それはこれだ」というと、颯太は持っていた紙箱を高々と掲げた。
「何だそれは?」
「整腸胃腸薬ポンシロンだ。ほれ」と言ってみんなに配った。
「なるほど、あらかじめ胃腸薬を服用して、愛ちゃんの料理に備えるわけか」Youが薬の袋を眺めながらツブやいた。
「それにしても、これでどれくらい効果があるんだ?」Gonが疑わしげに尋ねた。
「お前たちにも分かりやすく言うとだな。ドラゴンクエストで装備が「きのぼう」と「ぬののふく」の状態で竜王の部屋に放り込まれた程度の効果が・・・グワッ」四方向から薬の袋が顔に投げつけられた。
「バカ野郎、そりゃ効果がないって言うんだ」
「気は心という言葉を知らんのか、お前らは」
「いくら何でも一撃で100pt以上のダメージを与える敵ボスに対して、防御力1の「ぬののふく」の効果を気力で補えるか」
「ピンポ~ン」その時、玄関のチャイムが鳴った。
「あっ、きっと愛ちゃん達が買い物から帰ってきたんだ」と陽向が玄関に向かった。
「ただいま。どうしたのカギなんてかけちゃって」
「へへっ、ちょっといろいろあってね」陽向が笑ってごまかした。
「タクサン靴があるけど、お客さんデスか?」アンナが言った。
「えっ、お客さん?・・・・・まさかあの連中が」そう言った愛子の顔が険しくなった。どうやら玄関に並んだ靴だけで誰がやってきたのか理解したようだ。
荷物を持ってリビングに顔を出すと、想像どおりこの世で一番顔を合わせたくない連中が勢ぞろいしていた。
「よお、愛ちゃん。久しぶり」Atsushiが上機嫌で声をかけてきた。
「本当に久しぶりですね。もっと会わなくても全然構わなかったんですけど」自分で不機嫌になっていくのが分る。
「ハハハ、愛ちゃんの冗談は相変わらず面白いなあ」Gonが言った。自分の頭に血が上る音が聞こえた気がする。
「・・・・・本気なんですけど。ところで皆さんは今日は何しにいらっしゃったんですか?」
「ん、陽太の誕生パーティーをすると聞いてな。わざわざ来てやったんだ」Youが言った。
「あ、そうですか。それじゃパーティーは7時からなんで、帰りのタクシーは6時半に迎えに来てもらうように予約しとけばいいですかね」
「愛ちゃんは相変わらず気が利くなぁ」とGuu。
「バカねぇ、会って10秒で帰れって言われてるのよ」Yukiが呆れたように言った。
「むっ、そうだったのか。こうなりゃ意地でも陽太の誕生日を祝ってやる」Atsushiが憤慨したように言った。
「無理しなくていいんですよ。皆さんお忙しいでしょうし」愛子が冷たく答える。
「なにを言うんだ、愛ちゃん。陽太と康太はガキの頃からの付き合いで、俺たちにとっちゃ実の弟のようなもんだ。俺たちが祝わなくてどうする」Youが言う。
「迷惑しか被らなかったって言ってましたけど。じゃ、どうあっても皆さんパーティーに参加するんですね」
「おう」
「もちろん」
「当然」
「いわば義務だな」
四人が大きく頷いた。
「はぁ、これじゃ材料足りないよ。買いに行く時間もないし」愛子がため息ついた。
「ああ、愛ちゃん。量は半分ずつでもいいんじゃないかな。気持ちの問題だよ」計画通りにことが運び、颯太は上機嫌で言った。
「そうですね。何とかなりそうです」愛子が考えながら答えた。
「ところで愛ちゃん。今日は何を食べさせてくれるのかしら」Yukiが尋ねた。
「和風シーフードカレーです」愛子が自信満々に答えた。
「・・・・・愛子、シーフードカレーっていうと、いつものあれか?」康太が恐る恐る尋ねた。
「そうだよ。今回はより和風にしてみようかなっと」
「・・・・・かなっとって、今まで作ったことはあるんだろうな」
「ううんないよ。いわば実験作だね」愛子が胸をはって答えた。
「・・・・・そういう実験は、できれば自宅でやって欲しいのだが」
「なんだ康太。シーフードカレーいいじゃないか」
「しかも新作を彼氏に最初に食べてもらいたいなんて、健気じゃないか」
「まあ、カレーだったら大した失敗もないだろう」
「とにかく腹減った早く食わしてくれ」
よもやシーフドが干物の事だと思いもしない連中が騒ぐ。
一方、土屋兄弟はゲンナリしていた。
「じゃ、ボク料理してきます」愛子とアンナが台所に消えた。
Yukiが四人を冷たい目でジーッと見ていた。
「なんだYukiその目は」Guuが言った。
「あんた達との付き合いも長いけど、やっぱり清々しいほどのバカだと思って」Yukiが答えた。
「なんで俺たちがバカなんだ?」Gonが言った。
「せっかく愛ちゃんが逃がしてくれる道を作ってくれたのに、自分から残って料理が楽しみってことにしたことのどこがバカじゃないのよ」
「しっ、しまった。気がつかなかった。つい、愛ちゃんに対抗してしまった。おーい、愛ちゃん、やっぱりタクシーは6時半でたのむ」Atsushiが台所に向かって叫んだ。
「今、忙しいから自分で呼んでくださ~い」冷たい返事が返ってきた。