これが土屋家の日常   作:らじさ

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第11話

「こうなりゃ仕方ない。俺は腹をくくったぞ」Gonが言った。

「いい心がけだ。ちなみにお前たちに土屋家家訓を教えておこう。この家にいる以上、お前たちにも適用されるからな」颯太が言った。

「そんな大層なもんがあるのか」Youが言う。

「まあ、颯太のところは伊賀忍者の頭領の家系だからな。家訓の一つや二つあるだろう。だけどそれが俺たちに何か関係があるのか?」Atsushiが言った。

「大ありだ。土屋家家訓第一条「愛ちゃんを泣かしてはいけない」」

「伊賀忍者関係ねぇじゃねえか。おまけに随分新しい家訓だなそれ」Guuが不平を言う。

「土屋家はフレキシブルなのだ。だから愛ちゃんが作った料理は、どんなものでも美味しそうに全部食べることだ」どんなものでもの部分にアクセントを置いて颯太が言った。

「それを破るとどうなるんだ?」Atsushiが尋ねる。

「うちのババア経由でお母様会の懲罰委員会の議題にあがる。まず有罪は逃れられん」

「ひでえシステムだな。俺たちには言論の自由はないのか」とGon。

「俺も同じことをうちのババアに聞いたことがある」颯太が言った。

「そうしたらどうした」

「「あら、もちろん言論の自由はあるわよ。言論の後の自由がないだけで」と涼しい顔で言われた」

「お前の家は旧ソ連か」Guuがつぶやいた。

「ちなみに家訓第二条は「アンナがボケたらツッコまなければならない」だ」

「家訓にする意味があるのかそれは?」

「第二十条まであるが、聞きたいか?」

「ロクでもない家訓のような気がするからいらん」Youが答えた。

 

「颯兄、あたし愛ちゃんたちを手伝ってくるよ」

「おお頼むぞ、陽向。あいつらがあまりにも常識を逸脱しそうだったら、それとなく止めてくれ」

「それは全く自信がないなあ」陽向は台所へと向かった。

 

「愛ちゃん、お手伝いにきたよ」

「あっ、陽向ちゃんありがとう。じゃ、そこにある野菜を洗ってくれるかな」

「うん・・・・・・えっと、愛ちゃん。野菜どこ?」

「そこの流しに出ているよ」

「流しに出ているって、これ・・・・・大根、長ねぎ、ゴボウだよ。今日はカレーじゃなかったっけ?」

「うん、シーフード和風カレー。ジャガイモの代わりに大根。冬は大根が美味しいからね。玉ネギの代わりにネギ繋がりで長ネギ。あとニンジンの代わりに歯ごたえが似ているゴボウを使おうかと思って」愛子は自信満々で言った。

「・・・・・・・・・・・・」

「それを洗って切ってくれるかな」

「・・・・・わっ分かったよ、頑張る」陽向は動揺した様子で言った。

 

「洗ったよ。愛ちゃん」陽向は言い知れぬ疲労を感じながら言った。

「じゃ、大根は3cm位に輪切りにしてから、四つ切にして。それから角を落として丸めてジャガイモに似せて。長ネギは2cmくらいに切って、ゴボウは斜め切りでお願いね」

「愛ちゃん、魚は切らなくていいの?」

「うん、今焼いてるから、その後切るよ」

「・・・・・焼いてる?」

「干物だもの焼かないと食べれないよ、陽向ちゃん」

「シッ、シーフードだよね?・・・・・」

「やだなあ、干物って魚だよ」愛子は何を言うのかとばかりに笑い飛ばした。

「・・・・・・・・・・・・」陽向は黙々と作業に戻った。

 

陽向は切り終わった野菜を愛子に渡すと、アンナの方に目を向けた。アンナは先ほどからわき目も振らずにまな板の上で包丁で何かを切り刻んでいた。

「アンナちゃんは、さっきから何をやっているのかな?」

「おうヒナタ。ワタシのボルシチはママのレシピです。ですがそこからワタシのアイデアを加えないと、ワタシとソータの家庭の味とはいえまセン。伝統と革新デス。愛子を見て教えられまシタ」

「それはわかったけど何やってるの?」

「ナットーをきざんでます」

「・・・・・なっ納豆?」

「はいナットーは美味しいですネ」実はアンナは大の納豆好きで、他の兄弟がパンを朝食にしていても、頑なに「ご飯、味噌汁、納豆、生卵、海苔」の朝ご飯を欠かさないのだ。

「まっまさか納豆をボルシチに・・・・・」

「ハイ。「美味しいボルシチ×美味しいナットー=もっと美味しいボルシチ」になりますネ」

「・・・・・そっか、がっ頑張ってね。じゃ、もう手伝うとこなさそうだから、あたしは戻るね」陽向は逃げるようにして台所から飛び出した。

 

「おう陽向、どうだった」颯太が尋ねた。

「颯兄、さっきのポンシロンちょうだい」それには答えず陽向が言った。

「何だ、どうした」

「「ぬののふく」でも「鰯の頭」でも、ないよりはいい気がしてるの」そういうと陽向はポンシロンを一気に飲み干した。

「いいかげんに何があったのか話せ」颯太がイライラと言った。

「聞かないほうがいいと思うけど、どうしても聞きたいなら話すよ」

「なんでたかが誕生パーティの料理が、こんなスリリングな展開になってるんだ?」Atsushiがツブやいた。

「まず、カレーに入っている野菜が、大根、長ネギ、ゴボウです」陽向が宣言するように言った。

「すげえな。カレーと呼べる要素がカレールーしかねえぞ。ルーがなければ筑前煮だ」Gonが感心したように言った。

「次にシーフードカレーのシーフードとは干物のことです」

「干物をシーフードの範疇にいれるのは、愛ちゃんぐらいだな。間違っているような間違ってないような・・・・・」Guuが考え込んだ。

「まっまあ、アンナちゃんのボルシチがある」気力を奮い立たせるようにYouが言った。

「愛ちゃんにインスパイアされたアンナちゃんが、颯兄との家庭のために新しい味に挑戦しました」

「あのバカ娘、俺のいう事は一つもきかんくせに何を見習ってやがる」颯太が悔しそうに言った。

「納豆大好きアンナちゃんが、ママのレシピに納豆を加えました」

 

「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」

 

しばらく押し黙っていた一同は、次の瞬間ポンシロンに一斉に飛びついた。

 

 


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