これが土屋家の日常   作:らじさ

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第13話

「ぐおぉぉぉ~、最後の手段の神頼みがあぁぁ~」颯太が慟哭した。

「もうダメだぁ、俺たちはこの小汚い家で死ぬんだ」と全員が喚き出した。

「いったいあんた達はさっきからなにを騒いでいるのよ」Yukiが言った。

「小汚いは余計だ。やい、Yuki。俺たちに取ってはキリストの奇跡だけが希望だったんだぞ」

「また、随分大掛かりな話になったけど、一体何の話よ」

「いいか、イエス・キリストは水をワインに変え、石をパンに変えるという秘蹟を見せたんだ。それに比べりゃ愛ちゃんのカレーを食べ物に変えることくらい朝飯前だろうが。それを願って食前の祈りに最後の望みをかけてたんだ」颯太が言った。

 

「さりげなく愛ちゃんのカレーを食べ物の範疇から外しているわね、あんたは。じゃ愛ちゃんのカレーは一体何なのよ」

「名伏せ難くして禍々しき、冒涜的かつ病的な混沌とした何かだ」

「クトゥール神話まで持ち出さないと表現できないものなのね」

「SAN値が一発で0だ」

「下げんでいいわよ、そんなの」

「ふふふ、お前が余裕を見せていられるのも今のうちだけだ。愛ちゃんのカレーの恐ろしさは食べてみればわかる。スカウターで見れば戦闘力はOver 9000だ」

「スーパーサイヤ人レベルね。じゃ、アンナちゃんの料理はどうなのよ」

「アンナはまだそれほどではない。愛ちゃんの料理を濃硫酸とすれば、アンナの料理は濃硝酸くらいだ」

「一緒にしたら王水ができるじゃないの」

「なんでも溶かせるな」陽太が言った。

「・・・・・想像以上の危険物だったわけだな」

 

それを聞いていた四馬鹿が言った。

「愛ちゃん、今まで隠してたけど実はおれはイスラム教徒で今断食中なんだ」Atsushiが言った。

「断食≪ラマダーン≫って日中だけで夜はたっぷり食べていいんですよ。イスラム教徒の癖にそんなことも知らないんですか?」愛子は冷たい目をして言った。

「じゃ、今から食前のお祈りを・・・・・」

「却下です」

「愛ちゃん、俺はゾロアスター教徒で・・・・・」Gonが言った。

「うるさ~い、却下、却下、却下・・・・・ゼエゼエ」

「兄たち、往生際悪すぎ」陽向が呆れた様子で言った。

 

その時、家の外から「ブルルルルルルルルルゥ~」という爆音が近づいてきた。

 

「なっなんだ」

「ジェット機でも落ちてきたんじゃないか?」

「というか、この家に近づいてきてないか?」

「しめた、いや危ないからすぐに避難しよう」

四馬鹿が大騒ぎをしていた。

 

「颯兄、この音って・・・・・」陽向が颯太に向かって言った。

「この音、聞いたことありますね」愛子も言った。

「ああ、間違いない。フェラーリの音だ」颯太がそういうと、みんなの視線が一斉に陽太に集まった。

陽太は床の一点を見つめて何かを決意したような顔をしていた。

 

爆音は土屋家の前まで来ると急に止んだ。

 

そして運命のチャイムが鳴った。「ピンポ~ン」

 

「ごくり」全員が唾を飲んだ。意味は分かってないが付き合いで唾を飲む四馬鹿。

「陽向君、出たまえ」颯太が言う。

「え~なんで、あたしが?」抗議する陽向。

「陽太を出すわけにはいかんだろう。とっとと行ってこい」と無理やり押し出した。

 

「は~い」と言って陽向は仕方なくドアを開けた。そこにはケーキの箱を持った由美子とスーツを着た大柄な男性が立っていた。

「やっ、やあ由美ちゃん。遅かったね。もうみんな来てるよ。ちょっ、ちょっと待ってて」強張った声で陽向はそう言うと、リビングに駆け戻った。

「大変、大変。由美ちゃんが新しい彼氏連れて、陽兄に引導渡しに来たよ」と告げた。陽太の顔が青ざめた。

「ダメだよ、陽向ちゃん。こういうデリケートな話題の時は言葉を選ばないと」愛子が言った。

「え~、じゃあどう言えばいいのさ、愛ちゃん」

「そうだなぁ、例えば「由美ちゃんが陽太君に新しい彼氏を紹介しに来た」とか」陽太の顔がさらに青ざめた。

「本質的に変わりなくない?」

「俺が出る」陽太が言った。

「おい、大丈夫か、陽太」颯太が言った。

「大丈夫。最後ぐらいカッコよく決めてみせるさ」

「なんかいいセリフみたいですけど、すでに諦めてるってことですよね、あれ」愛子が言った。

 

陽太が玄関に向かった。

「遅くなってごめんなさい、陽太君」

「由美ちゃん!」

「はっ、はい」陽太の勢いに押されて由美子が返事をした。

「君と一緒にいれて今まで楽しかったよ」

「いきなりどうしたの?」

「君は僕には過ぎた女性だった」

「そんなことはないと思うけど・・・」

「だからこんな日がくるかも知れないと心のどこかで思っていた」

「ごめんなさい。ちょっと話が見えないんだけど・・・・・」

「僕はいつも君の幸せを願っている」

「それはとてもありがたいんだけど・・・・・」

「だから君がその男性を選ぶというのなら・・・・・」

「男性?あら、ごめんなさい。紹介するのを忘れてたわ。こちらは兄です」

「そう、君が僕よりお兄さんの方がいいと言うのなら・・・・・僕は喜んで・・・・・・・・おっお兄さん?」

「初めまして。いつも由美子がお世話になってます。兄の三宮龍一郎です」大柄な男性が爽やかに微笑んだ。

「お兄さんと言うと同じ両親を親に持つ年上の男性?」

「ずいぶん回りくどい言い方だけど、その通りね」

「由美ちゃんのお兄さん?」

「他人の兄を紹介してどうするのよ」

「つまり、お兄さん?」

「そう、兄の龍一郎」

 

陽太の力がへなへなと抜けて床に座り込んだ。

 


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