これが土屋家の日常   作:らじさ

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第2話

「だいたいカップルのくせにクリスマスを忘れるなんて信じられないよ」

「・・・・・今まで縁がなかったのだから仕方あるまい。だいたいお前だってカップルになって初めてのクリスマスだろうが」

「だから、ボクはモテていたんだってば」

「・・・・・モテようとモテまいとカップルでなかったことは変わらん」

「情報収集はバッチリだよ」

「・・・・・ある意味可哀そうな話じゃないのか?彼氏もいないのにカップルでのクリスマスの過ごし方の情報だけ豊富というのは」

「康太は、予習をしないから成績が悪くてFクラスなんだよ」

「・・・・・相変わらず話が飛躍しすぎだ、お前は」

ギャアギャア言い争いながら、いつも通り帰宅した。リビングにはすでにみんな揃っていた。

 

「相変わらずケンカか。仲がいいんだか悪いんだか分からんなお前たちは」颯太が呆れたように言った。

「違うんだよ、颯太君。康太がクリスマスの過ごし方についてあんまり無知だからさ」愛子が言った。

「何だ、愛ちゃんはそんなにクリスマスケーキとKFCが好きなのか。大丈夫だ、料理で愛ちゃんとアンナの手を煩わさなくていいように、3ヶ月も前からしっかりと予約してあるぞ」

「・・・・・・・・・・」

「ん、もしかして愛ちゃんはターキー派かな?この辺じゃターキーは手に入らなかったんだよ」陽太が言った。

「・・・・・・・・・・この兄弟は揃いも揃ってどいつもこいつも。ねぇ、由美ちゃん。クリスマスには他にやることあるよね」愛子が由美子に助け船を求めた。

「そうねえ、高校まではミッション系の女子校だったから、毎年クリスマスミサに参加してたかしら。そうだ今年はみんなで行きましょうか」とトンでもないことを言いだした。

「・・・・・いや、もうちょっと庶民目線になってくれるとありがたいかな。クリスマスミサなんて何をするのか見当もつかないよ。アンナちゃん、ロシアでもクリスマスにやることあったでしょ」

「そもそもロシアのクリスマスは1月7日ですカラ。家族で過ごす日ですネ」

「ビークワイエット、アンナちゃん。日本には古くから「Do the Romans do」という諺があってね。日本に来た以上日本の風習に従わなければいけないんだよ」

「・・・・・「Do」の時点で日本の諺じゃないと気づけ、お前は。普通に「郷に入れば郷に従え」でいいだろうに」

 

「なんでいい歳した男女が7人もいて、しかもそのうち6人で3カップルなのに、なんでこんなにテンションが低いのかなあ。クリスマスだよ、クリスマス」愛子が憤慨した口調で言った。

「そうだよ、みんなクリスマスだよ、クリスマス」陽向が嬉しそうに叫んだ。

「えーっと、陽向ちゃんはなんでそんなに嬉しそうなのかな?」愛子が不思議そうに尋ねた。

「だってクリスマスには、サンタさんがプレゼントをくれるんだよ。今年は何をくれるのかな。楽しみだな」

「サンタさんって・・・・・」

「(・・・・・愛子)」康太が耳元で小声で囁いた。

「(なに?)」

「(・・・・・あいつはまだサンタを信じているのだ)」

「(サッ、サンタを信じてるって、だって、もう高校生・・・・・)」

「(・・・・・伊達に「アホの子」と呼ばれている訳ではない)」

「ねえねえ、愛ちゃん。伊賀にいた時はプレゼントが「お煮しめ」とか「焼き魚」だったんだよ。ひどいと思わない?」

「そっそれはきっと伊賀の土着のサンタさんだったんだよ」

「(・・・・・ムチャ言うな、お前も)」

「(お婆さん、プレゼントっていうのでよっぽど困ったんだね)」

伊賀の方がこのSSを読んでないことを願う書いてる人であった。

 

「おい、康太ちょっと来い」颯太が康太をリビングの隅に呼んだ。

「愛ちゃん、どうしたんだ?」

「・・・・・どうしたもこうしたも、いつものように変なスイッチが入っただけだ」

「なんのスイッチだ?」

「・・・・・クリスマス・イブはカップルで過ごすのが、恋愛イベントには欠かせないらしい」

「そりゃ、ずいぶん迷惑なスイッチを入れてくれたもんだな」

「・・・・・念のために言っておくが、俺では止めきれないぞ」

 

「はい、みんな注目」愛子がパンパンと手を叩きながら言った。

「情けないことにカップルが3組もいるのに、誰も正しいクリスマスイブの過ごし方を知りません。そこでボク、工藤愛子が皆さんに正しいクリスマスイブの過ごし方をお教えします」

「えーっと、愛ちゃん。それは俺たちもやらなきゃならんのかな?」颯太が尋ねた。

「もちろんです。「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう。Silent night, holly bright」と昔のエラい人も言ってます」

「・・・・・それはイブに待ちぼうけを喰らう歌だ」康太がツッコんだ。

「愛ちゃん達が楽しんでくればいいんじゃないかな」陽太が言った。

「何を言うんですか陽太君。カップルになったからにはクリスマスデートは定番、いいえいっそ義務と言っていいくらいです」

「愛ちゃん、あたし別に彼氏いないんだけど」陽向が言った。

「そこらへん歩いている男生徒とっ捕まえてきなさい」

「もう既にカップルでデートというコンセプトから外れているぞ」颯太が言った。

 

愛子による「クリスマスカップル講座」は、以後1時間続いた。

 


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