これが土屋家の日常   作:らじさ

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インフルエンザ様症状で死んでました。
関節痛むわ。吐き気するわ。下痢するわ。
ほぼ3日寝たきり状態でした。


第4話

終了チャイムが鳴ると、誠は陽向と由香子を廊下へと連れ出した。

 

「・・・・・月夜の晩ばかりじゃねえぞ」というつぶやき声が聞こえたのは気のせいだろうか?

そういえば最近Fクラス内にゲルFFF団なる謎の秘密結社が造られたという噂もあるのだが、今はそれに構っている場合じゃない。

とりあえず話ができそうなところということで、次が体育で教室に人がいないAクラスに向かうことにして3人並んで廊下を歩いていた。

 

「だいたい授業中に押しかけてこないでも休み時間でできる話だろうが・・・・・」

「いい話は早い方がいいじゃん」陽向が屈託なく答える。

「あ、御館様。竜崎君からクリスマスデート誘われたんだね」通り過ぎる見知らぬ少女が声をかけて行った。

「・・・・・一生聞かなくても何の問題もなかったぞ、俺は」

「マコちんったら、そんなに照れなくていいのに」

「おお、竜崎。やる時ゃやるな」廊下で立ち話していた男子生徒が冷やかす。

「・・・・・・・・・・照れてねぇし、そもそも俺に何のメリットもない話だ」

「こんなに可愛いあたしとデートできるんだよ。メリットしかないじゃん」

「あ、竜崎君。やっと勇気出したんだ。お幸せにね。」すれ違った女生徒が嬉しそうに言う。

「・・・・・・・・・・・・・・・自分で可愛い言うな、というか俺には全くその気はないから他の奴を誘え」

「え~、数ある候補の中からマコちんを選んであげたんだから光栄に思って、男らしくあたしをデートに誘いなよ」

「いやぁ、御館様。あの竜崎からデートに誘われるってヤルなぁ」Bクラスから出てきた男生徒が感嘆したように言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、アホ」誠が不思議そうに言った。

「陽向ちゃんて呼んでって言ってるのに。難易度が高いならヒナちゃんでもいいよ」

「よけい難易度高いわ、アホ陽向。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「アホはどうしても譲れないんだね」

「お前からアホを抜いたら何もなくなるからな」

「え~、あたし純度100%のアホなの?」

「ああ、陽向ってのはシャンプーのラベル程度に思っておけ。それより、気のせいかも知れんが、さっきからすれ違う奴がみんな俺がお前をデートに誘って成功したような祝福を言ってるように思えるのだが」

「マコちんのあたしへの溢れんばかりの愛を感じたんだね、きっと」陽向が堂々と答えた。

「本人が1mgもそんなもん感じたことないのに、何で赤の他人が感じるんだよ」誠が思わず陽向の襟首を締め上げた。

 

「まあまあ、竜崎。落ち着きなさいよ」由香子が言った。

「城ヶ崎、事情を知ってるのか」誠は陽向から手を離すと由香子の方へ向き直った。

「えっ~と、知っていると言うか、何と言うか」由香子は言いにくそうに口ごもった。

「言え!」誠が言った。

「実はAクラスからFクラスに向かう途中で、陽向ったらBからEクラスまでの全クラスに飛び込んで行って「これからマコちんにクリスマスデートに誘ってもらいに行くの」って大声で宣伝してたの」

「いやぁ~、一応みんなに話を通しとかないとマズいと思ってさ」陽向が頭をかきながら言った。

「まず、俺に話を通さんか」誠が再び陽向の襟首を締め上げた。

「タップタップ、喉に入っているよ、マコちん」陽向が誠の腕を叩いて行った。

「だいたい城ヶ崎、お前がついてて何で止めないんだ」誠の怒りの矛先は由香子にも向かった。

「ムチャ言わないでよ。廊下歩いてたと思ったら教壇に登って大声張り上げてるんだもの。止める暇なんてないわよ」由香子が呆れ顔で言った。

「ゲホゲホ、まったくマコちんは気が短いんだから」

「ここまでお前を絞め殺していないというだけで、自分で自分を誉めてやりたいくらいに十分気が長いと思うんだが」

「一体なにが不満なのさ?」

「いや、むしろどこに俺が満足できる要素があったのかを聞きたいが」

「あたしとデートできるじゃない」

「何の罰ゲームだ、そりゃ?」

 

「竜崎、お取込み中悪いんだけど」由香子が言った。

「なんだ?今忙しい」誠が興奮して言った。

「あなたもそろそろ陽向と議論しても無駄ってことを覚えた方がいいわよ。この子、自分がこうと決めたら譲らない上に、最初っから人の話なんて聞いちゃいないんだから」

「そりゃそうだが」

「いやぁ、さすが由香リン。あたしの事よく理解してるね」

「「誉めてない!!」」誠と由香子が同時に叫んだ。

「それにここで無視したとしても、最悪24日の朝にあなたが起きてきたら、この子あなたのお母さんと朝ご飯食べてお茶飲んでるわよ」

「・・・・・・・・・・」十分想像できることだったので誠は黙った。

「被害を最小限に抑えたかったら、黙って言う通りにすることね」

 

「ぐぐぐ、まあそこまでは100万歩譲って良しとしよう」苦痛の面持ちで誠が言った。

「懐広いんだか狭いんだかわからない譲歩だね」

「だが、なんでわざわざ俺から誘ったことにせにゃならんのだ?」

「だって愛ちゃんが、そういうんだもん」

「誰だそれは?」

「康兄の彼女で2年Aクラスの子・・・・・こっ個性的な料理が得意な人だよ。その愛ちゃんが「デートは絶対に男の子から誘う決まりなんだよ」って」

「世の中は広いようで狭いな。こんな身近にお前以上のアホがいたとは」

 

「まあ、とりあえず話は決まったようだし、わたしは授業に戻るわね」由香子がヤレヤレという感じで言った。

「うん、ありがとう由香リン。じゃあ24日は10時に桜ヶ丘駅東口改札に集合ね」

「はい?」

「いや、だから。24日は10時に桜ヶ・・・・・」

「聞こえてたわよ。なんでわたしまで行かなきゃならないのよ」

「だって由香リン、予定ないでしょ」

「うっ、うるさいわね。大きなお世話よ」

「クリスマスイブをたった一人きりでローソク見つめて過ごす友達を見捨てるほど、あたし薄情じゃないよ」

「わたしはどんだけ可哀想な子なのよ」

「それに由香リンは、あたしのお目付け役だし」

「あなたお目付け役の意味わかっているの?」

 

その時、誠が由香子の肩をポンっと叩いて言った。

「あきらめろ。俺はお前の母親と一緒に朝飯喰うはめになりたくないぞ」

 

「「はあぁ~」」盛大にため息をつく二人。

 

「よーし、これであたしだけ仲間外れにならなくて済むもんね」陽向が一人だけ喜んでいた。

 


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