これが土屋家の日常   作:らじさ

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第5話

【土屋陽太の場合】

 

「やれやれ、愛ちゃんにも困ったもんだなぁ」陽太が苦笑しながら言った。

「ふふふ、でもお蔭でデートする口実ができたわ」由美子も微笑みながら言った。

「それはそうだけど、由美ちゃんクリスマスはケーキ屋なんて書き入れ時じゃないの?」

「わたしは今は表じゃなくてケーキを作る方に回っているから。23日までは、死ぬほど忙しいけど24日には休みもらえるわ」

「そうか。うーん、どこか行きたいとこある?」

「別にクリスマスデートだって構える必要ないんじゃないかしら。二人で街を歩いているだけでも楽しいわよきっと」

「そうだね。じゃ24日は、桜ヶ丘駅の東口に10時で・・・・・」

さすがに「土屋家の良心」と呼ばれているカップルである。ネタを仕込むスキも無いのであった。

 

 

【土屋颯太の場合】

 

「アンナ・マリア・カリーニン君」颯太が言った。

「ナンで、いきなり初登場のフルネームなんデスか?」

「さっき思いついたからだ。それより今回は大変不本意ながら君とクリスマスデートをすることになった。不本意ながら君とクリスマスデートをすることになった。大事なことなので2回言いました」

「ソータは、クリスマスデートが楽しみなんデスね」

「「不本意」の方に着目せんか、バカ者」

「難しくて意味がわからなかったカラ無視しまシタ」

「どう考えても、意味がわかった上でピンポイントで無視したようにしか思えんのだが」

「そういう時には、「イヤだけど君とクリスマスデートをすることとなった」と言えば通じマスね」

「ちゃんと通じてるじゃないか。それよりそう言われても傷つかんのか?」颯太が少し心配そうに尋ねた。

「ツンなソータもかわいいと思いマスね」アンナが嬉しそうに言った。

「人に変な属性つけるな。意味は通じても俺の意見を無視する気満々だな、お前は」

「ソータが素直になればいいんデス」

「俺は心から素直に嫌がってるんだ。いや、その話はいいんだ。ところでアンナ・マリア・カリーニン君。君はデートというものをしたことがあるのかね」

「ナンでまたフルネーム?」

「緊張するとこうなるのだ」

 

「ないデスよ」アンナがあっけらかんと言った。

「そうか、まあお前は美人と言っていい部類だからそういう経験があってもおかしくは・・・・・なっ、ない?」なぜか颯太がウロたえたように言った。

「ハイ、デートどころか男の人とお付き合いをするのはソータが初めてデス」

「俺たちの関係を「付き合っている」と言っていいかどうかはともかくとして、その顔とスタイルで、今まで男と付き合ったことがないですと」

「ハイ、ワタシが純潔を奉げたのはソータだけデス」

「たかが寝ぼけた上でのキスをどれだけ美化してるんだ、お前は」

「ユーコがそう言った方がイイと・・・・・」

「あのババア。血を分けた息子をどこまで追い詰めるつもりだ」

「男の子たちからいっぱい交際を申し込まれましたケド、ワタシは中学の頃からShu一筋でしたカラ、みんな断ってきました。だからソータにはワタシを妻にする義務がありマス」

「知らんわ、そんなもん」

 

「ところで何でそんなコト聞きマスか」

「いや、アンナ・マリア・カリーニン君がどんなデートをしたいかと思ってな」

「いいかげんにフルネーム呼ぶの止めまセンか?ソータは、デートしたことないんデスか?」

「俺が?フハハハ、バカを言ってもらっちゃ困るな、アンナ君。25歳の健康な成人男性で日本を代表する超人気バンド「タコ&ライス」のボーカル兼リーダーの俺だよ」

「じゃ、デートプランは全部ソータにまかせマス」

「すいません。自分、調子コイてました。本当は1回もデートしたことありません」颯太は速攻で謝った。

「そこまで卑屈にならなくテモ。何が問題なんデスか?」アンナが聞いた。

「実は基本的な質問で恥ずかしいのだが・・・・・」颯太が秘密を打ち明けるように言った。

「大丈夫。絶対に笑いませんカラ」

「・・・・・・デートって何をすりゃいいんだ?」

「ブーッ」アンナが盛大に噴き出した。

 

颯太はリビングの隅で壁に向かって体育座りをしてうなだれていた。

「ソータ、謝りますカラ、いい加減に機嫌直してくだサイ」アンナが背中をさすりながら声をかける。

「笑わないっていったのに、大人はいつだってそうなんだ・・・・・もうエヴァなんか乗るもんか」

「碇シンジごっこはそれくらいにして。そもそもソータの方が8歳も年上デス。とにかく二人でデートプラン考えまショウ」

「そっ、そうか。Yukiに聞いたところでは買い物とかしたりするらしいのだ」

「ちょうどいいデス。商店街の八百屋さんがクリスマスセールで、野菜全品2割引きだそうデスから、一緒に買い物に行きまショウ」

「????それはわざわざクリスマスデートでやるべきことなのか?」

「クリスマスセールはクリスマスにしかやってまセン」アンナが自信を持って断言した。

「あと食事したり・・・・・アンナ、お前何食べたい?」

「そうデスねえ、久しぶりに焼き魚、サンマなんかが食べたいデスね。あとホウレン草のおひたしに、キンピラ牛蒡。お味噌汁はなめこがいいデス」

「誰が今晩の晩飯に食いたいものを答えろと言った。俺はクリスマスディナーのことを言ってるんだ」

「アア、それなら何でもいいデス」

「何で晩飯の方が力入ってんだお前は?」

「ソータと一緒なら、なんでも嬉しいデス」

「そうかじゃあ俺が調べておく。24日の10時に桜ヶ丘駅の東改札口で待ち合わせよう」

 

さすがに「土屋家のバラエティ担当」と呼ばれたカップルである。ネタの仕込みが間に合わないほどであった。

 


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