これが土屋家の日常   作:らじさ

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第12話

「いやぁ、美味しかったね」少女が満足げに言った。

「じゃあ、あたしたち映画が始まっちゃうから行くね」と陽向が言って、3人は映画館の向かって歩いていった。

その時に反対側から来た5人の不良高校生らしき連中が絡んできた。

「おい、色男。クリスマスに両手に花か?」一人が誠に言った。

「うるせえ、急いでるんだ」誠が静かに言って脇をすり抜けようとした。

「マコちんはなかなか度胸があるな」颯太がそれを見て面白そうに言った。

「一人ぐらい分けてくれよ」別の男がニヤニヤしながら言った。

「城ヶ崎、俺の後ろに隠れていろ」誠が言った。

「ほう、なかなか漢気もある」颯太が言った。

「いいカッコするじゃないか、色男」ガタイのいい男が言った。

「ねぇねぇ、マコちん。あたしはどうすればいいの」陽向が期待に目を輝かせながら言った。

「お前は、あいつらに突っ込め」誠がためらいもなく言った。

「なるほど、判断力も素晴らしいようだ」颯太が感心した口調で言った。

「感心してないで、助けてあげた方がいいんじゃないですか?」少女が慌てた口調で言った。

「助けるって、あんな不良連中俺は知らんぞ」颯太が不思議そうに言った。

「いや、不良を助けるんじゃなくて陽向ちゃん達ですよ」

「ははは、愛ちゃんは面白いことを言うなあ。陽向相手に不良がたった5人じゃあ、武田騎馬軍団に百姓が鍬で立ち向かうようなもんだ」颯太が面白いことを聞いたという風に大笑いした。

 

「なんでユカりんと扱いが全然違うのさ」陽向が憤慨して言った。

「お前なら大丈夫だろう」

「そういう問題じゃなくて、男なら女の子を守るのが義務なんだよ」陽向は、誠の後ろに回ると誠の尻を蹴り飛ばした。

「マコちんがあたし達のために不良に立ち向かってくれた。キャー(棒)」

「ち、見せつけやがって」一人が加えてたタバコを吐き捨てると、誠に向かって殴りかかってきた・・・・・

「グオォォォォ」いつの間にか傍まで来ていた颯太が、殴りかかって来た不良の顔面にクローをすると、そのまま体を高々と持ち上げた。

「暴力はいかんなぁ、少年。何事も平和が一番だぞ」

「・・・・・中学、高校と不良との抗争にあけくれて、区中の不良を撲滅した奴の言っていいセリフじゃないと思うが」

「グググ、離せオヤジ」

「ハハハ、こんな好青年を捕まえて親父はないだろう・・・・・ミシミシミシ」声は笑っていたが目は笑っていなかった。

「グオオォウオォォ・・・・・ほっ骨が」

「骨の一本や二本で細かい奴だな。折れたらそこが強くなると聞いたことはないのか」

 

「ねぇ、康太。颯太君、もしかして怒ってない?」

「・・・・・あの男は中学時代から老け顔で、オヤジと呼ばれていたからな。あの不良は触れてはいけない逆鱗に触れたわけだ」と康太が言った。

「颯兄、あたしたち時間がないから、もう行くね」陽向がシレっと言った。

「おお、この少年たちには俺がキチンと言い聞かせておくから、たっぷり映画を楽しんでこい」颯太がそちらを見ながら言った。

「離しやがれ、このクソオヤジ」と叫びながらもう一人が殴り掛かってきた。それなりにケンカ慣れしているらしく、颯太が不良を持ち上げている右手の側から攻撃してきた。

その時、アンナが二人の間に割り込み膝を曲げて身体を沈めたかと思うと、肘を下から振り上げ不良のみぞおちに叩き込んだ。

「グオォォォォ」みぞおちに肘を食らった不良は地面をのた打ち回った。

「ほう、やるじゃないかアンナ」颯太が感心して言った。

「これぞ、宇宙CQC 2nd Edition Version 2.07デス」アンナが誇らしげに言った。

「CQC以外全くわからんのだが」颯太が言った。

「・・・・・何だかいろんな設定が混ざっているようだが」康太が首をかしげながら言った。

「だカラ、宇宙CQC 2nd Edi・・・・・」アンナが繰り返し言った。

「いや、聞こえなかったという意味じゃない。何だその「宇宙」ってのは」

「カッコいいですネ」

「カッコイイからつけただけか。じゃ、2nd Edition Version 2.07ってのは何だ」

「この名前を手がかりに、2036年からやって来るワタシたちの娘の「土屋・アナスターシャ・鈴羽」がソータを見つけ出します」

「勝手に俺を巻き込んで、どこまで綿密に未来設計をやってんだ、お前は」

「大丈夫デス。根性で必ず女の子を産んでみせマス」両コブシを握りしめて言った。

「そんなことを言ってんじゃない。だいたい何でわざわざ娘が俺に会いに2036年からやってくるんだ。普通に家に帰ってくればいいだけだろうが」颯太が叫んだ。

「その頃には、ソータもワタシも死んでるからですネ」

「縁起でもねぇ人生設計立ててやがんな、お前は」

 

「あの~、すいませんでした。俺たちもう行っていいですか?」不良の一人が言った。

「まあ、別にかまわんが。この区で不良なんて珍しいな。俺たち五鬼龍が完全に全滅させたはずだが」

「はぁ?五鬼龍ですか?」不良が首を捻った。

「そうだ、聞いたことあるだろう。五鬼龍の武勇伝を」

「すいません。聞いたことないっス」恐る恐る不良が言った。

「ねぇ、颯太君。五鬼龍って何のこと」少女が不思議そうに尋ねた。

「ん?俺や篤たち五人のことだが」

「そんな名前で呼ばれていたっていうのは、初耳なんだけど?」少女が言った。

「いや、カッコイイかなって今思いついたんだが」颯太が答えた。

「それじゃ、その人たちが知ってるわけないじゃない。普通に五馬鹿でいいんじゃないかな」

「ごっ五馬鹿・・・・・」不良の顔がみるみる青ざめた。

「知っているのか?」颯太がやや不機嫌そうに尋ねた。

「伝説の女裏番Yukiの子分で区中の不良を襲ってツブしたという五馬鹿のことなら有名です」

「ちょっと待て、コラ」颯太が叫んだ。

「なんかYukiさん本人が知らないうちに伝説になってたみたいだね」少女が言った。

「・・・・・大名の子孫の名家の嫡子が女装裏番と親に知れたら、勘当じゃすまんな」

 

「お前ら5人そこに並べ。何もしないから並べ。俺が今からあのロクでなしのYukiの真実を教えてやる」

5人の不良は颯太に言われるままに大人しく並んだ。

「いいか。そもそも俺たちはYukiの子分じゃない。Yukiが作戦を立てて俺たちはその指示通りに動いて不良をやっつけていただけだ」

「そういうのを日本語では、子分というんじゃないのかな?」少女が言った。

「卑怯にもあいつの後ろにはヤクザよりも恐ろしい組織がついていて、俺たちを虐げていたのだ。お蔭であいつのいうことを無理やりきかされていた」

「・・・・・もしかして裕ちゃんたちのことかな?」

「・・・・・それ以外ないだろ」

「大体あいつは、自分勝手な奴で自分はたくさん彼女がいたのに、女の一人も俺たちに紹介せん」

「だんだん私怨が出てきたね」

「・・・・・こうなると長いぞ」

 

「兄貴、おれたちもう行くぞ」陽太君が言った。

「陽太君、お兄さん大丈夫かしら」由美子が心配そうに言った。

「・・・・・大丈夫です。どちらかと言うとかわいそうなのは不良たちの方で」少年が言った。

「じゃ、ボクたちも行こうか」少女も言った。

そうして4人は映画館の方に向かって歩きだした。

 

その背中から「あれだけ彼女を持っているんだから、一人くらいわけてくれてもいいとは思わんかね、君たち」颯太の妬みの声が延々と聞こえた。

 


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