「むむむ・・・・・・・・・・・・・・・・」少女は腕組みをして映画館の入口を睨んでた。
「・・・・・おい、愛子」
「むむむむむぅ・・・・・・・・・・」
「・・・・・あの?愛子さん」
「なにさ」
「・・・・・いつまでも入口で映画館を睨んでいたら、他のお客さんに迷惑ですよ」できるだけ少女を刺激しないように言った。
「・・・・・この映画館は、なにがどうあってもボクにホラー以外の映画は観せないつもりなんだね」
「・・・・・そんなことはないと思うのだが」
「ボクはね、康太・・・・・」
「・・・・・はい」
「今日という今日は、ホラー以外の映画だったら、例えCMの時にREM睡眠に突入して、エンドロールで目が覚めるような映画でもいいくらいの覚悟で来たんだよ」
「・・・・・それで映画を観たと言えるかどうかは別にして、覚悟だけは伝わってくるな」
「なのにこの仕打ちは何なのさ」少女がポスターを指差して叫んだ。
「シネコンプレックス桜ヶ丘が送るクリスマス特別企画
カップルのお二人に送る全館ホラー祭り
抱き合うもよし、一緒に叫ぶもよし。
吊り橋効果で二人の絆はより強く」
「・・・・・クリスマス特別企画らしいな」
「どこの世界にロマンチックなクリスマスにホラー映画しか流さない映画館があるのさ」
「・・・・・あるのさと言われても、目の前にあるとしか言えないんだが」
「A館が「呪怨」、B館が「リング3」、C館が「13日の金曜日 part 10」、D館が「エルム街の悪夢5、E館が「シックス・センス」、F館が「パラノーマル・アクティビティ」、G館が「テキサス・チェンソー」って、全部ホラーじゃん。何を見ればいいのさ」
「・・・・・そこまでいやなら映画は止めればいいんじゃないか?」少年が言った。
「だってもう未来日記に「映画館でプリティ・ウィメン」を観たって書いちゃったもの、グス」少女は涙声になりながら言った。
「・・・・・それをやってない段階で未来日記もヘッタクレもないだろうが」
「ここで映画まで止めちゃったら完敗だよ。映画を見れば半分の負けで済むじゃない」
「・・・・・毎回思うんだが、お前はいつも何と戦っているんだ?」
「とにかくボクたちの知力とカンの限りを尽くして、一番怖くない映画を選ばなきゃ。康太も頑張りなよ」少女は力を取り戻したようであった。
「あの?陽太君大丈夫。無理して映画見なくていいのよ」由美子が心配そうに言った。
「ははは、由美ちゃん。何を心配しているんだい」
「いえ、さっきから顔色が悪いから」
「風邪気味なのかな。で、由美ちゃん何を見るのか決まった?」
「えーっとそうねえ。1と2は見たからリング3がいいんじゃないかしら」
「さっ貞子の映画だね。よし、それを見よう」陽太が歩き出した。
「陽太君、切符売り場はこっちよ。そっちは逆」
不良たちに説教をしていた颯太たちも到着した。
「おい、アンナここで映画を見るつもりなのか?」颯太が言った。
「そうデス。アイコのレクチャーではクリスマスデートでは映画を見るのがルールだと」
「いや、あんまり愛ちゃんのいうことをマトモに受け取らん方がいいと思うんだが」
「デモ、この街には他に映画館ありませんネ」
「別のことをすればいいんじゃないか?」
「ソータ、もしかしてホラー映画苦手ですカ?」
「はははは、何をいうのかね、アンナ・マリア・カリーニン君。幽霊なんているわけないのにホラー映画が苦手なんてあるわけないじゃないかね」
「ナンでまたフルネームを?それよりソータ、ナンで後ずさりしてますカ?」
「そんなことはないぞ。そっそうだ、お天気占いで今日は晴天だから映画は凶だと穴野アナが言っていた」
「幽霊は信じないクセに占いは信じるんですカ?」
「穴野アナの占いをバカにするな」
「でも思いっきり曇っていて、天気予報はハズれているんですケド」
「くそぅ、役に立たない穴野衆だ」
「あそこにいるヒナタを見習ってください。ポスターをスキップしながら見て回ってます」
「あのアホと一緒にするな。俺の心はひび割れたビー玉でちょっとのショックで割れてしまうのだ」
「じゃ、手近なところで「呪怨」にしまショウ」
「俺の話を聞いているのか?俺はガラスの少年時代だと言っているだろうが」
もちろんアンナがその発言を聞くはずもなく、首根っこを掴まれた颯太は映画館に引きずって行かれた。
「ねぇねぇ、どの映画にする♪」陽向が楽しそうに言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「古典的にジェイソンがいいかな?それとも邦画がいいかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・なんで二人ともテンションが低いのさ」
「ホラー映画を観るのにテンションが高くなるお前の方が理解できん」
「えー、だって「絶対それやっちゃいけない」ってことをやって殺されるマヌケな人を見てると笑えるじゃん」
「あんたもしかして「13日の金曜日」ってコメディ映画だと思ってない?全編そんな人だらけなんだけど」
「よし、じゃあ「13日の金曜日」にしよう。笑えるよぉ」陽向が元気よく切符売り場に向かって歩き出した後を、誠と由香子はいやいやついていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」少女は腕組みしてポスターを睨みつけていた。
「・・・・・あの~決まったんですか、愛子さん?」少年が恐る恐る尋ねた。
「「呪怨」から「シックスセンス」までは却下だね。全部名前を知っているから怖い映画に違いないよ。残るのは聞いたことのない「パラノーマル・アクティビティ」か「テキサス・チェンソー」なんだけど・・・・・」
「・・・・・で、どっちにするんだ」
「よし、「テキサス・チェンソー」にしよう。きっとテキサスの木こりの幽霊の話だよ。テキサスの木こりって陽気なデブって感じじゃない?幽霊でも怖くないよ、きっと」
「・・・・・テキサスって平地の牧場ばかりで山なんかないんじゃないか?」
「大丈夫、ボクの女のカンがこの映画は怖くないって言っているの。いくよ康太」少女はヤケクソになって元気に切符売り場へと進んだ。
「・・・・・お前の女のカンがそう言うからには、オチは見えている気がするんだが」少年はボヤきながら後に続いた。