これが土屋家の日常   作:らじさ

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第14話

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・そうですか、クリスマス前はそんなに忙しかったんですか」少年が言った。

「そうなの。今年から厨房に回ったから大変だったわ」

「・・・・・ケーキ作りって難しそうですからね」

「わたしはまだ下働きだから、粉の分量計ったり、卵割ったりするだけだったんだけど。それでも量が量だから・・・・・」

「・・・・・おい、大丈夫か?」少年が声をかけた。

映画館のソファーには少女と陽太がうつ伏せに倒れ込んだまま、ピクリともしなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・大学はどうですか?」

「ええ、花の女子大生ライフをエンジョイしてるわ、ふふ。でもバイトが忙しくてなかなか遊びに行けないんだけどね」

「・・・・・高校とは違うんでしょうね」

「そうね。時間割を自分で選べるから、選択は自分が好きなことを勉強できるわね」

「・・・・・いい加減に回復してくれんと、話のネタが持たんのだが?」少年が声をかけた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

二人とも床にダラリと垂らした手を微かに振って意思表示をした。回復はまだ無理のようだ。

 

「いやぁ、面白かったねぇ」目の前を陽向たちがはしゃぎながら通り過ぎていった。

「お前は騒ぎすぎだ。何がそんなに面白くてあんなに大笑いしていたんだ」誠が言った。

「だってさ。まず、何でアメリカ人の女の子って夜の湖で一人で泳ぎたがるのかな。走湖性の遺伝子でも持っているかな」

「そんなアホな遺伝子があるわけないでしょう。まあ、お約束みたいなものよね」

「それにジェイソンが男の人の顔を壁に押し付けたら、壁の反対側が顔の形に出っ張ったんだよ。あのコントであたし大爆笑しちゃったよ」

「お前以外は悲鳴あげていたけどな・・・・・」

「こんなに大笑いしたのは久しぶりだよ」

「ホラー映画を観た感想じゃねぇ」誠が怒鳴った。

「楽しい映画みたいね「13日の金曜日」って。あれなら陽太君も大丈夫かしら」由美子が言った。

「・・・・・いや、あいつの感性を一般的なものと思わない方がいいです」

 

「本当に素晴らしい映画でシタ」アンナが勘当した面持ちでやってきた。

「呪怨のどこをどうみれば、そういう感想が出てくるんだ、お前は」

「だって、ゴーストになってまでも母子が一緒なんですヨ。強い愛で結ばれているんデス」

「あの二人はお互いに全く会話してなかっただろうが。それぞれが単独で人を驚かしていただけだ」

「ソレにしてもお母さんは服を着ているのに、ナンで子供は裸ですカ?虐待?」

「幽霊にあまり暑さ寒さは関係ないだろう」

「ところでソータ、日本人は何でゴーストが出るとわかっているのに、わざわざ夜にあの家に行きますか?」

「昼に行ったらドラマにならないからじゃないか」

 

「あら、アンナちゃん、颯太。あなた達も来ていたの?」その時、不意に声をかけられた。

「ハーイ、ユーコと・・・・・お友達ですカ?」

「あらアンナちゃんは初めてかしら。四馬鹿のお母様たちよ」

「アア、「お母様会」のみなサンですネ。初めまシテ」アンナが挨拶をした。

「まあ、この子がいつも言っている颯ちゃんのお嫁さんなのね」

「本当、お人形さんみたいに可愛いわぁ」

「アンナちゃん、うちの馬鹿にもお友達紹介してくれないかしら」

「まあ、初孫が楽しみねえ。100%アンナちゃんに似せるのよ」

「げっ、ババア連・・・・・」颯太が小さな声でツブやいた。

 

「あら、颯ちゃん。お久しぶり」一人の母親が微笑みながら近づくと、ボディにアッパーをぶち込んだ。

「うぐぅっ」かがみこんだところを別の母親が、首筋に肘を入れた。

「ぐぇ」たまらずしゃがもうとしたところを他の母親が足を払った。

「おぉ」うつ伏せに倒れ込んだところを最後の母親が首を踏付けた。

全部で5秒の熟練の連携プレーであった。

「うぐぐぐぐ」呻いているところに「今、ババア何とかとか聞こえたけど、気のせいだわよねぇ、颯ちゃん」と涼しい顔で尋ねた。

「やっ、やだなぁ、オバさま。この僕がそんな暴言を吐くわけないじゃないですか」

「そうよね。年のせいか。耳が悪くなっちゃって」

「いえいえ、まだまだお若いですよ。で、できればでいいんですけど僕をお踏みになっているお御足をどけてくれたらありがたいんですけど・・・・・」

「あら、わたしったらこんな行儀悪いマネをいつの間に。ごめんなさいね」といって母親は足をどけた。

 

「それにしても颯太ちゃんは幸せよね。こんな美人でスタイルがいいお嫁さんがいるんですもの」

「いや、こいつは嫁でも何でもない・・・」颯太が反射的に答えた。

「ソータ、往生際が悪いデス」アンナが颯太の頭を踏付けた。

「ぐぎゃっ」颯太がカエルが踏み潰されたような悲鳴をあげた。

「アンナちゃん、何てことするの。そんなことオバさん感心しないわ」裕子がアンナに向かって言った。

「すいまセン・・・・・」アンナはうなだれると頭から足をどけた。

「謝るなら、まず俺に謝らんか。ママン見た?これがこいつの本性だよ」颯太の怒り声が聞こえてきた。

「頭踏むだけじゃ何にもならないわ。そうやって踏む時には頭蓋骨と首の間の「頸柱」という急所を踵で踏みつけるの。痛さの余り声もでないわ。やってみて」

「こうですカ?・・・・・(グリグリ)」

「ババアいったい何を・・・・・ギャアァアァ~」

「そうそう、でも気をつけてね。力入れすぎると頚椎が折れちゃうから」

「・・・・・・・・・・・ピクピクピク」颯太が細かく痙攣を始めた。

「あ~、面白かった。じゃ、アンナちゃん、デート頑張ってね。何だったら朝帰りでもいいわよ」

お母様会の5人は痙攣する颯太を一切省みることなく笑いながら出て行った。

 

「えーっと、今のは何だったのかしら?」由美子が瞬きをするのも忘れていった。

「あれが「お母様会」です。兄貴たちはあの5人に毎日ボテクリ回されていました」

「でも古武術をやっている私の目から見ても素人の動きじゃなかったわよ」

「この区内の不良を壊滅させた兄貴たちが全員でかかっても、あの一人にもかなわないというところで実力を察して下さい」

 


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