これが土屋家の日常   作:らじさ

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第15話

「・・・・・・・・・・一体何の騒ぎだ」陽太がゆっくりと体を起こした。

「陽太君、もう大丈夫なの」由美子が言った。

「ああ、ごめんね由美ちゃん。だらしないところみせちゃって」

「それよりも身体は大丈夫」

「いや、体よりも精神的なダメージが・・・・・でももう大丈夫だよ」

「それならいいけど、愛ちゃんはまだダメそうね」

少女が再び垂らした手を小さく振った。

「・・・・・こいつのことは気にせずにデートの続きをやって下さい」

「大丈夫かしら」

「まあ、ここは康太に任せていきましょう」陽太は一刻も早くこの場を離れたそうに言った。

「じゃあ、愛ちゃんをよろしくね」二人は映画館から出て行った。

 

「・・・・・さてっと」少年は独りごちるとソファに座った。

「・・・・・おい、愛子さん。いい加減に復活してくれんと夜になるんだが」少女に話しかけた。

「・・・・・・・・・・・無理」少女がつぶやくように言った。

「・・・・・しかし凄い映画だったな」

「・・・・・どこがテキサスの陽気な木こりの話なのさ?」

「・・・・・お前が勝手に言ったんだ」

「だって、テキサス・チェンソーだよ。テキサス人ってカメラに向かって陽気に「ハーイ」っていう人たちじゃないの」少女は起き上がると少年に食ってかかった。

「・・・・・それはテキサス親父だ。あの人だけをモデルにしてテキサス人がみんなああだと判断したのかお前は?」

「それにチェンソーって言えば、木こりだと普通は思うじゃないのさ」

「・・・・・大前提の「ホラー映画」ってのを完全に無視しているなお前は」

「しばらくお肉が食べれないよボク」少女は涙目になって訴えた。

「・・・・・女のカンとやらで選んだ映画じゃないのか?」

「おかしいなぁ、ボクのカミソリよりも鋭い女のカンが曇ったのかな」

「・・・・・というか、一度でいいから輝いているところを見せてもらいたいんだが。ペーパーナイフよりも切れ味が悪いぞ」

 

「みんなはどうしたの?」

「・・・・・陽向は映画の感想を爆笑しながら語りつつ、スキップしながら友達と出て行った」

「そんなに楽しい映画だったんだ。そっちの方を見れば良かったよ」

「・・・・・陽向の感性を一般化しない方がいい。友達たちは青い顔していたからな」

「陽太君は?」

「・・・・・お前のちょっと前に復活して、由美ちゃんと一緒に出て行った」

「由美ちゃんは平気だったのかな?」

「・・・・・あの人は血まみれの幽霊が目の前に出てきたら、手当をしてやりかねん人だ。映画程度は屁でもないだろう」

「颯太君とアンナちゃんは?」

「・・・・・・颯太兄貴はアンナに頭を踏みつけられた後、首根っこひっつかまれて出て行った」

「ボクがダウンしている間に何があったのさ?」

「・・・・・いろいろと言葉にしにくいことがあったのだ」

「アンナちゃんがそこまで怒るなんて、颯太君どれだけ怒らせたんだろう・・・・・」

「・・・・・いや、別に怒ったわけじゃなくて、達人に手ほどきを受けたというか何というか」

「こんな街中の映画館にそんな達人がいたの?」

「・・・・・5人ほどな。それより元気が出たならここを出よう。どこか行きたいところがあると言っていただろう」

「そうだ忘れてたよ。未来日記に書いてあったんだ」

「・・・・・まだ、それにこだわっていたのかお前は」

「当たり前だよ。僕たちの行動指針だよ」

「・・・・・テキサス・チェンソーまで書いてあったのか?」

「それは誤差範囲だね」

「・・・・・km単位で外れているような気がするんだが」

 

「・・・・・で?」少年が尋ねた。

「でっ、とは?」少女が答えた。

二人は前に訪れたジュエリーショップの前にたっていた。

「・・・・・何でこんなところにいるのかと尋ねているんだ」

「本当にバカだなぁ、康太は。クリスマスと言えばプレゼント。女の子へのプレゼントと言えばアクセサリーに決まっているじゃない」少女の指には、前にこの店で少年が買った指輪が光っていた。

「・・・・・俺に買えと?」

「プレゼントなんて贈ってもらうから嬉しいんだよ。要求して買ってもらったって嬉しさ半減だよ」と言いながら、店の奥のシルバーアクセサリーの売り場へと進んで言った。

「・・・・・その割には歩みに迷いがないな」

「このあたりだと康太のお小遣いでも買えるからね」

「・・・・・何で俺の小遣いの額まで把握しているんだ、お前は」

「えっ?裕ちゃんが教えてくれたよ」

「・・・・・常識とかプライバシーとか・・・・・いや、何でもない」少年は全てを諦めたかのように言った。

 

「ボクのお気に入りはこれだよ」十字架のついたネックレスを指差した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ボクのお気に入りはこれ」少女が再び指差した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お気にいりはこれだってば」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・そうか」

「・・・・・そうかってそれだけ?」

「・・・・・俺に気兼ねせずに買えばいい」

「代表だったらアイアンクローをかけているところだよ」

「・・・・・ほんの2分前にプレゼント云々と自分が言ったセリフを思いだせ」

「だって未来日記に書いちゃったんだよ」少女が涙目になって訴えた。

「・・・・・知らん」少年は逃げるようにして店から出て行った。

 


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