これが土屋家の日常   作:らじさ

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第16話

数十分後、ボクたちは陽太君が由美ちゃんに告白した夜景が綺麗な公園で夜景を眺めていた。

 

「まったく康太のせいで、未来が変わっちゃっうよ。未来日記じゃあのジュエリーショップでネックレスをプレゼントに買ってもらうはずだったのに・・・・・」

「・・・・・人の小遣いの使い道まで、勝手に未来日記に書くんじゃない」

「これじゃβ世界線に戻れないよ」

「・・・・・お前は何の話をしているんだ?」

だめだ。この男には乙女心は理解できないようだ。ボクは説得を諦めた。

 

「あ、あっちの方が夜景が綺麗だよ」ボクがそっちに向かって歩きだすと、道が少しぬかるんでいたみたいで足が滑ってしまった。

「キャア!!」

「危ない!!」康太が手を伸ばしてボクの手を掴んで身体を支えてくれた。

「・・・・・あ、ありがとう」

「・・・・・い、いや。大丈夫か」

「う、うん。大丈夫なんだけど・・・・・」康太はまだボクの手を握っていた。ボクから手を離すのはもったいないような気がしてそのままにしていた。

「・・・・・・・・・・・・(真っ赤)」

「・・・・・・・・・・・・(真っ赤)」

「あ、あっちに行こうか・・・・・」ボクたちは手を繋いだまま、景色のよいところに向かった。

「・・・・・・・・・・・・(真っ赤)」

「・・・・・・・・・・・・(真っ赤)」

 

「あ、そうだ。康太にクリスマスプレゼントがあったんだ」沈黙に耐えられなくなったボクは、バックから袋を取り出した。

「・・・・・プレゼント?馬鹿でかいバックにはそれが入っていたのか」康太が袋からプレゼントを取り出した。

「へへへ、手編みだよ」ボクは得意げに言った。

「・・・・・それはありがたいんだが・・・・・これは何だ?」康太が不思議そうに言った。

「何って見ればわかるでしょ。マフラーだよ」ボクは少しムっとして言った。

「・・・・・聞いていいか?何でマフラーが三角形というか台形なんだ?端の方の幅が50cmくらいになっているぞ」

「お母さんから編み方習って初めて編んだんだけどね。編んでるうちに裾がどんどん広がっていっちゃって。直そうとしてもにっちもさっちもどうにもブルドックで・・・・・」

「・・・・・まあ、せっかくのお前の手作りだ。ありがたくもらっておく」

「ちゃんと使ってね」

「・・・・・マフラーとしてか?」

「マフラーなんだから当たり前じゃん」

「・・・・・どうあってもこれをマフラーと言い張るわけだな」

 

しばらく二人でまた夜景を眺めていた。そうしたらボクの目の前にいきなり袋が突き出された。驚いて康太の方をみたらボクの方を見ないで、前を見つめたまま無言でボクの顔の前に手を突き出していた。

「ボクにプレゼントなの?」ボクは康太に確認してみた。

「・・・・・・・・・・・」康太は無言だった。

ボクは袋を受け取ると中の箱を取り出して開けてみた。

「これって・・・・・」中から出てきたのは、さっきのジュエリーショップで康太にねだった、いや間違った、康太がボクに買ってくれるはずだったネックレスだった。

どうしてだろう。涙が出てきた。ボクは左手の薬指に光っている前にもらった指輪に目を落としてみた。

どうしてだろう。どうして康太はこんなにボクのことをわかってくれるんだろう。どうしてボクのして欲しいことをやってくれるんだろう。

 

「どうしてボクがこのネックレスを欲しがっているってわかったの?」ボクは尋ねた。

「・・・・・誰かがこの一ヶ月、家中特に俺の部屋の壁中にそのネックレスの記事のコピーを貼りまくったんでな」

「それだけでわかってくれたの」

「・・・・・それ以外にどう解釈すればいいんだ?」

「わかってくれるのは、康太だけだね・・・・・」ボクは涙ぐんだ。

「・・・・・いや、家中全員の一致した見解だったんだが」

「つけていい?」

「・・・・・ああ、かまわんが」

「ねえ、つけて?」

「・・・・・俺がか?」

「うん、お願い」

康太は不器用な手でボクの首にネックレスをつけてくれた。

 

ボクは自分から康太の左手を握って、夜景を眺めた。

このときにボクの顔を見たら、これ以上はないくらいに幸せそうな顔をしていたことだろう。

 

「これでチャンとβ世界腺に戻れるよ」

「・・・・・いい加減にその設定はやめてくれんか」

 


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