これが土屋家の日常   作:らじさ

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第2話

それにしてもクッキー1個で2日も気絶させるなんて、姫路さんの料理の腕は着実に悪い方向に上達している。というより、2日も気絶していた僕を放っておいて、みんなが当たり前のような顔をしているのが恐ろしい。さすがはFクラスと言わざるを得ない。

 

「まあ、そんなことよりムッツリーニのデートだ。翔子情報によると明日10時に如月ハイランドの入口で待ち合わせだそうだ」

「如月ハイランド・・・・・どこかで聞いたことがあるような」

「・・・・・私と雄二の思い出の場所。二人が永遠の愛を誓った聖地。子供を36人産もうって契ったところ」

「待て翔子。いろいろと回想がおかしい。言っていることのほぼ80%が捏造だ」

「・・・・・雄二、酷い。お父さんは冷たいね。しょうゆ」霧島さんはお腹を撫でながら雄二を恨めしそうに見つめた。

「話が進まんので無視する。我々の使命は、2人のデートをサポートし、最終ゴールの観覧車に導くことだ」

「なんで観覧車なんですか?」と姫路さんが尋ねる。

「デートの最後に観覧車のゴンドラの中で愛を告白すると結ばれるという伝説が、ググゥ」

「なんですってぇぇ~」興奮した美波が雄二の襟を締めあげる。

 

うんうん、雄二もたまには僕の苦しみを知るがいいよ。足で関節極めればもっといいけど。

 

「ゴホゴホ、落ち着け。そういう伝説を如月アイランドが作りたがっているという話だ」

「つまり・・・・・?」

「遊園地側が意図的に流した噂だな。だいたい最近オープンして早々にそんなに都合よくカップルができるか。まあ、信じるバカはそうはいないだろうが」

「「そうだったんですかぁ~」」

 

美波と姫路さんがガックリと肩を落とした。そうはいないはずのバカが身近に二人もいた。

 

「協力することはやぶさかではないが、誰かこの中でデートの経験がある者がいるのかのう」それまで黙っていた秀吉が口を開いた。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

全員沈黙した。高二にもなってデートのひとつも経験がないなんて何て情けない連中だろう。姉さんと美波と姫路さんの厳しい監視下に置かれている僕は別として・・・・・冷静に考えてみれば何で僕はこんな厳しい監視下に置かれているんだろう。

 

ちょっとシミュレーションしてみよう。監視網をかいくぐって誰かとデートして家に帰ってくる(デート内容は想像力が追い付かないので省略)。

 

リビングには姉さんと美波と姫路さんがいて僕を見ると姉さんが「おかえりアキくん。「デート」は楽しかったですか。じゃあ、どの指がいいか選びなさい」と優しく微笑み。美波が僕に全力でサソリ固めを決めて、叫ぶ僕の口に姫路さんが優しく「明久君、今日は「デート」でお疲れでしょう。栄養のあるごはんを作っておきましたからたくさん食べて下さいね」と料理を突っ込む。

 

・・・・・うん、人間って一生デートしなくても生きていけるんじゃないかな、きっと。

 

「・・・・・しょうがない。経験豊富な私が教えてあげる」霧島さんが心なしか自慢気に言った。

「へぇ、翔子お前デートなんかしたことあるのか」雄二が言った。

「・・・・・酷い雄二。一昨日も楽しくデートしたのに忘れたの」

「翔子、もしかしてお前のいうデートというのは、廊下で後ろからいきなりクロロホルムをかがせて気絶させて、自宅の監禁部屋に連れ込んで椅子に縛りつけることを言うのか」

「・・・・・楽しい時間だった」

「お前は国語が苦手らしいな。あれはデートではなく「拉致監禁」っていうんだ我が国では」

「・・・・・でも二人きりだった」

「二人きりを何でもデートという言葉で片付けるんじゃねぇ」

 

前から思ってたんだけどもしかして霧島さんって勉強以外はFクラスでも底辺レベルなんじゃないだろうか。

 

「デート経験がない者ばかりが集まって話し合っていてもしょうがあるまい。蔭から二人をフォローするということでいいじゃろう」と秀吉が提案した。

「そうだな。よし、じゃあ明日は適当に変装して・・・・・ちなみに明久、女装は止めろよ」

 

なんて失礼な。僕は好き好んで女装したことなど一度もないのに。なぜ姫路さんは残念そうな顔をしているんだろう。

 

「奴らは10時に如月ハイランドの入り口で待ち合わせだ。だから俺たちは9時半に入り口の道向かいのコンビニに集合だ・・・・・ちなみに明久、来なかったら島田を迎えにやる」

 

だから雄二が何でいちいち僕に注意をするのかわからない。ただ僕は今日は徹夜でゲームをして、明日はゆっくり眠るつもりだっただけなのに。

 

「よし、じゃ今日は解散だ。ゆっくり寝ろよ」

 

姫路さんが何か考え込んでいた。

 

「姫路さんどうしたの帰ろうよ」

「え?ああ、はい。ちょっと考え事を」

 

僕たちは雄二の家の玄関を出た。霧島さんの姿が見えないけど、家は近くだし構わない。雄二の部屋から何か叫び声が聞こえた気がしたけど、気にしないことにした。

 


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